33 / 57
第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット
8.帰れない? 帰さない?(side シュゼット)
しおりを挟む
かつてお二人の間に何があったのかは、やはり全く分かりませんが……。
まぁ、何はともあれようやく解放してもらえました。
二人の傍を離れ、ホールの隅までようやく逃げて来られた事にホッと安堵のため息を付いた時です。
「シュゼット!」
また突然誰かにギュッと手を掴まれ、今度は何事かと再び恐怖に肩がビクッと跳ねました。
恐る恐るそちらを振り返れば……
なんとそこにいたのは従兄のジェレミーでした。
「びっくりしたぁ。おどかさないでよ」
多忙な父に代わり、こんなところまでわざわざ迎えにきてくれたのでしょう。
ジェレミーがいれば安心だと、ホッとして足を止めた時です。
「帰るぞ!!」
そう言うなり、ジェレミーが自身の上着を脱いで私にかけました。
会場はシャンデリアの灯りで熱いくらいなのに、どうして上着を?
そう思いながら、何気なく目の前にかかっていた鏡に目をやった時でした。
綺麗に磨き上げられた鏡には、リュシアン様によく似た人物が映っていました。。
そしてその人は、女性ものの美しい青いドレスを纏っていて……。
その姿はまるで道化の様でした。
『あぁ、君は何て綺麗なんだろう』
否定するのがいい加減面倒になるくらい。
パーティーに出るまで、イライアス様が繰り返し繰り返しそんな言葉を下さったから。
自分がドレスなんて似合う人間じゃ無かった事をすっかり忘れていました。
すっかり勘違いしてしまっていた自分が急に猛烈に恥ずかしくなって今度こそ一刻も早く会場から逃げ出そうと、ジェレミーのかけてくれた上着を胸の前で掻き合わせるようにギュッと握りしめたまま駆け出そうとした時でした。
「シュゼット、踊ろう!」
突然背後からそんな声が振ってきて、驚いて振り返れば、そこにはこれまでになく優しく微笑むイライアス様の姿がありました。
イライアス様はジェレミーに上着をフワッと投げ返すと、また私の手を掴み、私をダンスの輪の中に強引に引っ張り込んでしまいます。
「イ、イライアス様!? 私、こんな格好なので……」
私と踊る事でイライアス様にまで恥をかかせては申し訳ないと、慌てて逃げ出そうとすれば
「うん、そうだね。白や黄色のドレスも君に良く似合うだろうけど、ボクの瞳の色を纏った君は特別すごく綺麗だから、みんなに見せびらかしてやろうと思って」
イライアス様は私の泣き顔を隠す為、ダンスをする振りをして私をギュッとその胸の中に抱き寄せたのでした。
イライアス様が私を離してくださったのは、私の脚が痛んでもう逃げ出すどころか、まともに歩くのも難しくなってからでした。
そうして
「こんな状態では帰せないから」
私を迎えに来た従兄にそう冷たく言い訳し背を向けて、イライアス様は私の手を掴んだまま会場を後にされました。
******
夜遅く――
「足はまだ痛む?」
またノックも無く、イライアス様が私のお借りしている部屋のドアを開けられました。
泣き顔を他人に見られぬよう助けていただいた事には(一応)感謝はしているので、(そもそもあんな事態に陥ったのはイライアス様の所為ではあるのですが)ノックの無い事は不問とし、助けていただいたお礼を述べようと思った時です。
「見せて?」
イライアス様はそうおっしゃると、ベッドの上の私のすぐ隣に腰かけ、突然許可なく私の足に触れました。
「キャッ!」
足に触れられた事に驚いたあまり、また僅かに体のバランスを崩した時です。
思いもよらずそのままイライアス様に仰向けに押し倒され、その腕とベッドの間に閉じ込められてしまいました。
「何……されているんですか??」
イライアス様の意図が掴めず、目を白黒させながらそう尋ねれば
「酷いな、ここまで流されておいて、ここで拒むの?」
パーティーでの優し気でキラキラした王子様な印象から一変、イライアス様はその形の良い唇を弧の形に吊り上げ、御自身の影に暗く染めた瞳で私を見下しながらそんな事をおっしゃいます。
「……人を呼びます……」
悪い冗談は嫌いだと、低い声でそう告げれば
「構わないさ。どうせ誰も来ないよ。騎士達も侍女達も、誰もボクには逆らわない」
私の左手に、イライアス様がその冷たい手をゆっくり搦められました。
「お戯れを」
「…………」
黙ったまま歪な笑みを深めるイライアス様の、その哀しいまでに青い目を見上げれば、そこには戸惑う自分の姿が映り込んでいました。
まぁ、何はともあれようやく解放してもらえました。
二人の傍を離れ、ホールの隅までようやく逃げて来られた事にホッと安堵のため息を付いた時です。
「シュゼット!」
また突然誰かにギュッと手を掴まれ、今度は何事かと再び恐怖に肩がビクッと跳ねました。
恐る恐るそちらを振り返れば……
なんとそこにいたのは従兄のジェレミーでした。
「びっくりしたぁ。おどかさないでよ」
多忙な父に代わり、こんなところまでわざわざ迎えにきてくれたのでしょう。
ジェレミーがいれば安心だと、ホッとして足を止めた時です。
「帰るぞ!!」
そう言うなり、ジェレミーが自身の上着を脱いで私にかけました。
会場はシャンデリアの灯りで熱いくらいなのに、どうして上着を?
そう思いながら、何気なく目の前にかかっていた鏡に目をやった時でした。
綺麗に磨き上げられた鏡には、リュシアン様によく似た人物が映っていました。。
そしてその人は、女性ものの美しい青いドレスを纏っていて……。
その姿はまるで道化の様でした。
『あぁ、君は何て綺麗なんだろう』
否定するのがいい加減面倒になるくらい。
パーティーに出るまで、イライアス様が繰り返し繰り返しそんな言葉を下さったから。
自分がドレスなんて似合う人間じゃ無かった事をすっかり忘れていました。
すっかり勘違いしてしまっていた自分が急に猛烈に恥ずかしくなって今度こそ一刻も早く会場から逃げ出そうと、ジェレミーのかけてくれた上着を胸の前で掻き合わせるようにギュッと握りしめたまま駆け出そうとした時でした。
「シュゼット、踊ろう!」
突然背後からそんな声が振ってきて、驚いて振り返れば、そこにはこれまでになく優しく微笑むイライアス様の姿がありました。
イライアス様はジェレミーに上着をフワッと投げ返すと、また私の手を掴み、私をダンスの輪の中に強引に引っ張り込んでしまいます。
「イ、イライアス様!? 私、こんな格好なので……」
私と踊る事でイライアス様にまで恥をかかせては申し訳ないと、慌てて逃げ出そうとすれば
「うん、そうだね。白や黄色のドレスも君に良く似合うだろうけど、ボクの瞳の色を纏った君は特別すごく綺麗だから、みんなに見せびらかしてやろうと思って」
イライアス様は私の泣き顔を隠す為、ダンスをする振りをして私をギュッとその胸の中に抱き寄せたのでした。
イライアス様が私を離してくださったのは、私の脚が痛んでもう逃げ出すどころか、まともに歩くのも難しくなってからでした。
そうして
「こんな状態では帰せないから」
私を迎えに来た従兄にそう冷たく言い訳し背を向けて、イライアス様は私の手を掴んだまま会場を後にされました。
******
夜遅く――
「足はまだ痛む?」
またノックも無く、イライアス様が私のお借りしている部屋のドアを開けられました。
泣き顔を他人に見られぬよう助けていただいた事には(一応)感謝はしているので、(そもそもあんな事態に陥ったのはイライアス様の所為ではあるのですが)ノックの無い事は不問とし、助けていただいたお礼を述べようと思った時です。
「見せて?」
イライアス様はそうおっしゃると、ベッドの上の私のすぐ隣に腰かけ、突然許可なく私の足に触れました。
「キャッ!」
足に触れられた事に驚いたあまり、また僅かに体のバランスを崩した時です。
思いもよらずそのままイライアス様に仰向けに押し倒され、その腕とベッドの間に閉じ込められてしまいました。
「何……されているんですか??」
イライアス様の意図が掴めず、目を白黒させながらそう尋ねれば
「酷いな、ここまで流されておいて、ここで拒むの?」
パーティーでの優し気でキラキラした王子様な印象から一変、イライアス様はその形の良い唇を弧の形に吊り上げ、御自身の影に暗く染めた瞳で私を見下しながらそんな事をおっしゃいます。
「……人を呼びます……」
悪い冗談は嫌いだと、低い声でそう告げれば
「構わないさ。どうせ誰も来ないよ。騎士達も侍女達も、誰もボクには逆らわない」
私の左手に、イライアス様がその冷たい手をゆっくり搦められました。
「お戯れを」
「…………」
黙ったまま歪な笑みを深めるイライアス様の、その哀しいまでに青い目を見上げれば、そこには戸惑う自分の姿が映り込んでいました。
15
お気に入りに追加
1,117
あなたにおすすめの小説
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中

いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
こな
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる