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第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット
8.帰れない? 帰さない?(side シュゼット)
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かつてお二人の間に何があったのかは、やはり全く分かりませんが……。
まぁ、何はともあれようやく解放してもらえました。
二人の傍を離れ、ホールの隅までようやく逃げて来られた事にホッと安堵のため息を付いた時です。
「シュゼット!」
また突然誰かにギュッと手を掴まれ、今度は何事かと再び恐怖に肩がビクッと跳ねました。
恐る恐るそちらを振り返れば……
なんとそこにいたのは従兄のジェレミーでした。
「びっくりしたぁ。おどかさないでよ」
多忙な父に代わり、こんなところまでわざわざ迎えにきてくれたのでしょう。
ジェレミーがいれば安心だと、ホッとして足を止めた時です。
「帰るぞ!!」
そう言うなり、ジェレミーが自身の上着を脱いで私にかけました。
会場はシャンデリアの灯りで熱いくらいなのに、どうして上着を?
そう思いながら、何気なく目の前にかかっていた鏡に目をやった時でした。
綺麗に磨き上げられた鏡には、リュシアン様によく似た人物が映っていました。。
そしてその人は、女性ものの美しい青いドレスを纏っていて……。
その姿はまるで道化の様でした。
『あぁ、君は何て綺麗なんだろう』
否定するのがいい加減面倒になるくらい。
パーティーに出るまで、イライアス様が繰り返し繰り返しそんな言葉を下さったから。
自分がドレスなんて似合う人間じゃ無かった事をすっかり忘れていました。
すっかり勘違いしてしまっていた自分が急に猛烈に恥ずかしくなって今度こそ一刻も早く会場から逃げ出そうと、ジェレミーのかけてくれた上着を胸の前で掻き合わせるようにギュッと握りしめたまま駆け出そうとした時でした。
「シュゼット、踊ろう!」
突然背後からそんな声が振ってきて、驚いて振り返れば、そこにはこれまでになく優しく微笑むイライアス様の姿がありました。
イライアス様はジェレミーに上着をフワッと投げ返すと、また私の手を掴み、私をダンスの輪の中に強引に引っ張り込んでしまいます。
「イ、イライアス様!? 私、こんな格好なので……」
私と踊る事でイライアス様にまで恥をかかせては申し訳ないと、慌てて逃げ出そうとすれば
「うん、そうだね。白や黄色のドレスも君に良く似合うだろうけど、ボクの瞳の色を纏った君は特別すごく綺麗だから、みんなに見せびらかしてやろうと思って」
イライアス様は私の泣き顔を隠す為、ダンスをする振りをして私をギュッとその胸の中に抱き寄せたのでした。
イライアス様が私を離してくださったのは、私の脚が痛んでもう逃げ出すどころか、まともに歩くのも難しくなってからでした。
そうして
「こんな状態では帰せないから」
私を迎えに来た従兄にそう冷たく言い訳し背を向けて、イライアス様は私の手を掴んだまま会場を後にされました。
******
夜遅く――
「足はまだ痛む?」
またノックも無く、イライアス様が私のお借りしている部屋のドアを開けられました。
泣き顔を他人に見られぬよう助けていただいた事には(一応)感謝はしているので、(そもそもあんな事態に陥ったのはイライアス様の所為ではあるのですが)ノックの無い事は不問とし、助けていただいたお礼を述べようと思った時です。
「見せて?」
イライアス様はそうおっしゃると、ベッドの上の私のすぐ隣に腰かけ、突然許可なく私の足に触れました。
「キャッ!」
足に触れられた事に驚いたあまり、また僅かに体のバランスを崩した時です。
思いもよらずそのままイライアス様に仰向けに押し倒され、その腕とベッドの間に閉じ込められてしまいました。
「何……されているんですか??」
イライアス様の意図が掴めず、目を白黒させながらそう尋ねれば
「酷いな、ここまで流されておいて、ここで拒むの?」
パーティーでの優し気でキラキラした王子様な印象から一変、イライアス様はその形の良い唇を弧の形に吊り上げ、御自身の影に暗く染めた瞳で私を見下しながらそんな事をおっしゃいます。
「……人を呼びます……」
悪い冗談は嫌いだと、低い声でそう告げれば
「構わないさ。どうせ誰も来ないよ。騎士達も侍女達も、誰もボクには逆らわない」
私の左手に、イライアス様がその冷たい手をゆっくり搦められました。
「お戯れを」
「…………」
黙ったまま歪な笑みを深めるイライアス様の、その哀しいまでに青い目を見上げれば、そこには戸惑う自分の姿が映り込んでいました。
まぁ、何はともあれようやく解放してもらえました。
二人の傍を離れ、ホールの隅までようやく逃げて来られた事にホッと安堵のため息を付いた時です。
「シュゼット!」
また突然誰かにギュッと手を掴まれ、今度は何事かと再び恐怖に肩がビクッと跳ねました。
恐る恐るそちらを振り返れば……
なんとそこにいたのは従兄のジェレミーでした。
「びっくりしたぁ。おどかさないでよ」
多忙な父に代わり、こんなところまでわざわざ迎えにきてくれたのでしょう。
ジェレミーがいれば安心だと、ホッとして足を止めた時です。
「帰るぞ!!」
そう言うなり、ジェレミーが自身の上着を脱いで私にかけました。
会場はシャンデリアの灯りで熱いくらいなのに、どうして上着を?
そう思いながら、何気なく目の前にかかっていた鏡に目をやった時でした。
綺麗に磨き上げられた鏡には、リュシアン様によく似た人物が映っていました。。
そしてその人は、女性ものの美しい青いドレスを纏っていて……。
その姿はまるで道化の様でした。
『あぁ、君は何て綺麗なんだろう』
否定するのがいい加減面倒になるくらい。
パーティーに出るまで、イライアス様が繰り返し繰り返しそんな言葉を下さったから。
自分がドレスなんて似合う人間じゃ無かった事をすっかり忘れていました。
すっかり勘違いしてしまっていた自分が急に猛烈に恥ずかしくなって今度こそ一刻も早く会場から逃げ出そうと、ジェレミーのかけてくれた上着を胸の前で掻き合わせるようにギュッと握りしめたまま駆け出そうとした時でした。
「シュゼット、踊ろう!」
突然背後からそんな声が振ってきて、驚いて振り返れば、そこにはこれまでになく優しく微笑むイライアス様の姿がありました。
イライアス様はジェレミーに上着をフワッと投げ返すと、また私の手を掴み、私をダンスの輪の中に強引に引っ張り込んでしまいます。
「イ、イライアス様!? 私、こんな格好なので……」
私と踊る事でイライアス様にまで恥をかかせては申し訳ないと、慌てて逃げ出そうとすれば
「うん、そうだね。白や黄色のドレスも君に良く似合うだろうけど、ボクの瞳の色を纏った君は特別すごく綺麗だから、みんなに見せびらかしてやろうと思って」
イライアス様は私の泣き顔を隠す為、ダンスをする振りをして私をギュッとその胸の中に抱き寄せたのでした。
イライアス様が私を離してくださったのは、私の脚が痛んでもう逃げ出すどころか、まともに歩くのも難しくなってからでした。
そうして
「こんな状態では帰せないから」
私を迎えに来た従兄にそう冷たく言い訳し背を向けて、イライアス様は私の手を掴んだまま会場を後にされました。
******
夜遅く――
「足はまだ痛む?」
またノックも無く、イライアス様が私のお借りしている部屋のドアを開けられました。
泣き顔を他人に見られぬよう助けていただいた事には(一応)感謝はしているので、(そもそもあんな事態に陥ったのはイライアス様の所為ではあるのですが)ノックの無い事は不問とし、助けていただいたお礼を述べようと思った時です。
「見せて?」
イライアス様はそうおっしゃると、ベッドの上の私のすぐ隣に腰かけ、突然許可なく私の足に触れました。
「キャッ!」
足に触れられた事に驚いたあまり、また僅かに体のバランスを崩した時です。
思いもよらずそのままイライアス様に仰向けに押し倒され、その腕とベッドの間に閉じ込められてしまいました。
「何……されているんですか??」
イライアス様の意図が掴めず、目を白黒させながらそう尋ねれば
「酷いな、ここまで流されておいて、ここで拒むの?」
パーティーでの優し気でキラキラした王子様な印象から一変、イライアス様はその形の良い唇を弧の形に吊り上げ、御自身の影に暗く染めた瞳で私を見下しながらそんな事をおっしゃいます。
「……人を呼びます……」
悪い冗談は嫌いだと、低い声でそう告げれば
「構わないさ。どうせ誰も来ないよ。騎士達も侍女達も、誰もボクには逆らわない」
私の左手に、イライアス様がその冷たい手をゆっくり搦められました。
「お戯れを」
「…………」
黙ったまま歪な笑みを深めるイライアス様の、その哀しいまでに青い目を見上げれば、そこには戸惑う自分の姿が映り込んでいました。
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