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第二章 孤高の獣は眠らない ゼイムズとローザ
12.孤高の獣は眠らない(side ゼイムズ)
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オレは汚い。
体だけでなく、きっと心も。
長い事深い深い汚泥に浸りきってきたから、取返しなんてつかない程汚れ切っている。
そうして手足にはこびりついたヘドロの一部は硬く乾き、まるで囚人の鎖の様にオレをこの深い谷底に繋ぐ。
それなのに。
同じ場所まで引きずり堕としてやったと思っていたウィルは、あっさり自分だけ逃げていった。
「僕はさ、この国は歪んでて好きじゃないんだ」
そんな言葉を簡単に言い捨てて。
どれだけ焦がれてもオレは得る事をが出来なかった抗うだけの力を、そしてリリーを持っている癖に!
ウィルは再び全てをオレだけに押し付けてさっさと自分だけ逃げて行った。
オレだって……オレだってこんな歪んだ国大嫌いだ!!
それでも。
ウィルが逃げるなら、オレは王太子の座を絶対に降りたりなんてしない。
アイツが逃げるならオレが!
どれだけ無様であろうと、このヘドロの中藻掻ききり王となって、オレを汚し、この国を食い物にした奴らを一人残さず粛清してやる!!
寝台の上、立膝をつき、窓のそのとの闇を見つめながら、そんな事を考えていた時だった。
「寝ないの?」
隣で眠っていたローザがふと目を覚まし、少しかすれた声でそんな事を言った。
かつて学園で。
ローザは、オレからの理不尽に弱弱しく涙することも、屈して足元に縋ることもしなかった。
誰一人彼女を庇う者がいなくても、ローザは常に凛と顔を上げて己の矜持を保っており、その強さは思い続けたリリーと同じものだったから。
歪んだオレは汚すのが怖くて触れられなかったリリーの身代わりに、ローザを汚す事を選んだ筈だったのに。
本当に欲しいと心から願うのが、ローザ自身に変わってしまったのはいつからだったのだろう。
オレに魅入られた事を可哀そうに思いながら、美しい小鳥が逃げ出さないようその風切り羽を切るように、ローザの純潔を奪ったその後で
『あぁ、これで彼女はもうどこにも逃げられない』
そう胸を撫で下ろし、彼女もまたこの事に絶望して、オレと同じところまで堕ちてくればいいと安堵の溜息をついた。
オレと同じところまで堕ちて来たのならば、たった二人の深淵の中、彼女にはせめてオレが優しくしてやろう。
まるで愛しているかのように、ローザの乞うまま……オレの願うまま、甘やかしてやろう。
……そう思っていたのに。
ローザもまた、オレの元から一度あっさり逃げてみせたから。
死に物狂いになって再度捕らえた彼女のその羽を、オレは二度と飛べぬよう無残に毟った。
それでもなお消えなかったローザの瞳に灯る炎に、オレがどれだけ救われたかをきっとローザは知らない。
それと同時に堕ちて来ない彼女に焦れて、彼女を何度も傷つける苦しさに怖さに、オレの心の奥の決して誰にも触れさせなかった最後に残った純粋な部分が血を流す程に痛む事もまた、彼女は知らない。
傍らに繋ぎとめたローザの熱に慰められ、安心して深く眠りこける様になればなる程、また彼女が逃げてしまう事が怖くなる。
そのせいで彼女が再び飛び立てぬよう、彼女の傷が癒えぬよう、その傷口に爪を立てるような真似をしてしまいそうな衝動に、毎晩駆られてしまうから。
だから、オレはローザの傍で眠りこける事を止めたのだけれど……。
そんな意地を張り続けられる程、オレは強くはなくて。
彼女の安寧を願うべきところで、オレがわざわざ傷つけなくて済む様、オレが隣で深く眠れるよう、早くローザ自らオレと同じ汚い所まで堕ちてきて欲しいと、ずっと、そんな酷い事ばかり願っていたというのに。
『殿下と私の色が混ざった美しいものなので嬉しいです。ですから、私が願うのは……これが切れてしまわないことでしょうか』
組紐を見たローザが、かつてオレがリリーに言って欲しいと願いつつ、決して叶えられなかった事をサラリと言って。
彼女は同じ所まで堕ちてくるどころか、こんな細い細い紐一本で、あっさりオレの心を僅かながらこの深淵から引き上げてみせた。
まるで地獄の底に垂らされた細い命綱のようだと、手首に巻かれた美しい色の組紐を見て思う。
あぁでも。
大人のオレが本気でこれに縋れば、この細い紐はあっさり切れてしまうだろう。
長い間、かつて身に着けていた物とは色の組み合わせが異なる紐を見つめた後、オレは自分の中で更なる覚悟が決まるのを感じた。
そうだ、やはりこれを切ってしまうのは惜しい。
だからオレは……。
これを切らぬためにも、それに手を伸ばすことなく、一人この深淵で耐えて見せよう。
かつての、まだ幼かった自分ですら
『ローザを守る力と知恵が手に入るなら、ボクは喜んでそれを受け入れて見せる』
そう言い切ってみせたのだ。
今のオレに出来ぬはずなどないだろう。
……あぁ、そうだ。
お前達も覚悟するがいい、オレを食い物にした腐りきったウジ虫ども。
近いうちに必ず、必ずオレがお前達を粛清してやる!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
想いの他暗くてびっくりされたでしょうに。
ゼイムズとローザのお話、最後まで読んで下さり本当に本当にありがとうございました(/ω\)
何気にゼイムズ好きなので、読んでいただけてとても嬉しいです。
次は、ゼイムズとローザの子供のイライアスのお話になります。
引き続きお付き合いの程、どうぞよろしくお願いいたします☆
体だけでなく、きっと心も。
長い事深い深い汚泥に浸りきってきたから、取返しなんてつかない程汚れ切っている。
そうして手足にはこびりついたヘドロの一部は硬く乾き、まるで囚人の鎖の様にオレをこの深い谷底に繋ぐ。
それなのに。
同じ場所まで引きずり堕としてやったと思っていたウィルは、あっさり自分だけ逃げていった。
「僕はさ、この国は歪んでて好きじゃないんだ」
そんな言葉を簡単に言い捨てて。
どれだけ焦がれてもオレは得る事をが出来なかった抗うだけの力を、そしてリリーを持っている癖に!
ウィルは再び全てをオレだけに押し付けてさっさと自分だけ逃げて行った。
オレだって……オレだってこんな歪んだ国大嫌いだ!!
それでも。
ウィルが逃げるなら、オレは王太子の座を絶対に降りたりなんてしない。
アイツが逃げるならオレが!
どれだけ無様であろうと、このヘドロの中藻掻ききり王となって、オレを汚し、この国を食い物にした奴らを一人残さず粛清してやる!!
寝台の上、立膝をつき、窓のそのとの闇を見つめながら、そんな事を考えていた時だった。
「寝ないの?」
隣で眠っていたローザがふと目を覚まし、少しかすれた声でそんな事を言った。
かつて学園で。
ローザは、オレからの理不尽に弱弱しく涙することも、屈して足元に縋ることもしなかった。
誰一人彼女を庇う者がいなくても、ローザは常に凛と顔を上げて己の矜持を保っており、その強さは思い続けたリリーと同じものだったから。
歪んだオレは汚すのが怖くて触れられなかったリリーの身代わりに、ローザを汚す事を選んだ筈だったのに。
本当に欲しいと心から願うのが、ローザ自身に変わってしまったのはいつからだったのだろう。
オレに魅入られた事を可哀そうに思いながら、美しい小鳥が逃げ出さないようその風切り羽を切るように、ローザの純潔を奪ったその後で
『あぁ、これで彼女はもうどこにも逃げられない』
そう胸を撫で下ろし、彼女もまたこの事に絶望して、オレと同じところまで堕ちてくればいいと安堵の溜息をついた。
オレと同じところまで堕ちて来たのならば、たった二人の深淵の中、彼女にはせめてオレが優しくしてやろう。
まるで愛しているかのように、ローザの乞うまま……オレの願うまま、甘やかしてやろう。
……そう思っていたのに。
ローザもまた、オレの元から一度あっさり逃げてみせたから。
死に物狂いになって再度捕らえた彼女のその羽を、オレは二度と飛べぬよう無残に毟った。
それでもなお消えなかったローザの瞳に灯る炎に、オレがどれだけ救われたかをきっとローザは知らない。
それと同時に堕ちて来ない彼女に焦れて、彼女を何度も傷つける苦しさに怖さに、オレの心の奥の決して誰にも触れさせなかった最後に残った純粋な部分が血を流す程に痛む事もまた、彼女は知らない。
傍らに繋ぎとめたローザの熱に慰められ、安心して深く眠りこける様になればなる程、また彼女が逃げてしまう事が怖くなる。
そのせいで彼女が再び飛び立てぬよう、彼女の傷が癒えぬよう、その傷口に爪を立てるような真似をしてしまいそうな衝動に、毎晩駆られてしまうから。
だから、オレはローザの傍で眠りこける事を止めたのだけれど……。
そんな意地を張り続けられる程、オレは強くはなくて。
彼女の安寧を願うべきところで、オレがわざわざ傷つけなくて済む様、オレが隣で深く眠れるよう、早くローザ自らオレと同じ汚い所まで堕ちてきて欲しいと、ずっと、そんな酷い事ばかり願っていたというのに。
『殿下と私の色が混ざった美しいものなので嬉しいです。ですから、私が願うのは……これが切れてしまわないことでしょうか』
組紐を見たローザが、かつてオレがリリーに言って欲しいと願いつつ、決して叶えられなかった事をサラリと言って。
彼女は同じ所まで堕ちてくるどころか、こんな細い細い紐一本で、あっさりオレの心を僅かながらこの深淵から引き上げてみせた。
まるで地獄の底に垂らされた細い命綱のようだと、手首に巻かれた美しい色の組紐を見て思う。
あぁでも。
大人のオレが本気でこれに縋れば、この細い紐はあっさり切れてしまうだろう。
長い間、かつて身に着けていた物とは色の組み合わせが異なる紐を見つめた後、オレは自分の中で更なる覚悟が決まるのを感じた。
そうだ、やはりこれを切ってしまうのは惜しい。
だからオレは……。
これを切らぬためにも、それに手を伸ばすことなく、一人この深淵で耐えて見せよう。
かつての、まだ幼かった自分ですら
『ローザを守る力と知恵が手に入るなら、ボクは喜んでそれを受け入れて見せる』
そう言い切ってみせたのだ。
今のオレに出来ぬはずなどないだろう。
……あぁ、そうだ。
お前達も覚悟するがいい、オレを食い物にした腐りきったウジ虫ども。
近いうちに必ず、必ずオレがお前達を粛清してやる!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
想いの他暗くてびっくりされたでしょうに。
ゼイムズとローザのお話、最後まで読んで下さり本当に本当にありがとうございました(/ω\)
何気にゼイムズ好きなので、読んでいただけてとても嬉しいです。
次は、ゼイムズとローザの子供のイライアスのお話になります。
引き続きお付き合いの程、どうぞよろしくお願いいたします☆
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