【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

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第二章 孤高の獣は眠らない ゼイムズとローザ

8.許す、許さない(side ローザ)

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明け方ゼイムスを起こし昨晩彼が言った通りの事を伝えれば、ゼイムスは私と同じように晴れ渡る窓の外を見て首を傾げた。

「ローザの体調が完全に戻ってからの方がいいんじゃないのかな? 帰りの道中で何かあっても心配だ」

それでも、どうしても急いでここを発たないといけないのだと言えば、ゼイムスは温かな掌で私の額に触れた後、

「分かった」

と従者に、急ぎここを離れる準備をするよう伝えた。






******


明け方はあんなにも晴れていたのに。
昼前になり出立の準備が整う頃には、再びポツポツと大きな雨粒が落ち始め、馬車に乗り込んだ時には再び来た時と同じような土砂降りとなってしまった。


馬車を出そうとした時だ。
先日共に祈りを捧げた人々が、突如行く手を塞ぐように馬車の周りを取り巻き私に向かって叫んだ。

「どうかもう一度、あの雲を晴らして下さい!」

そうしてあげたいのは山々だが、残念ながら今の私にそんな力は残っていない。
眩暈が残る為馬車の中からではあったが、誠意をもってそう伝えた。

そのつもりだったのだが……。

「どうかもう一度奇跡を!!」

私の思いとは裏腹に、馬車を出させまいとするかのようにその行く手に立ち塞がる人が増えていく。




馬車の窓がドンドンと強く叩かれビクッと肩が震えた。

馬車から出て自らの言葉で事情を説明しようとするゼイムスの手を必死に引いて、今そうすることは危険だと思いとどまらせる。

「ゼイムスが、どうしてこの嘆願をあえて無視していたのかようやく分かったわ」

思わずそう呟けば、

「……すまない、ボクが浅はかだった」

そう言ってゼイムスが両手で顔を覆い呻いた。
しかし、

「悔しいな。今のボクの方がローザを幸せに出来るし、ボクの方が好きになってもらえるって思ったのに。どっちも自分に負けるなんて。ホント、悔しい」

そう言って顔を上げたゼイムスの顔に、不思議と悲壮感は無かった。

その事を意外に思って、その透明な翡翠の瞳を見上げれば

「ねぇローザ、かつてのボクならきっとここから君を助けられる。だから……自分に負けるのは悔しいし、キミとサヨナラするのは寂しいけど……ボクの呪いを解いてよ」

ゼイムスがそんな思いもかけないことを言った。


「呪いを解いてって……。そんな方法知らないわ」

ポカンとしつつ、そう言えば

「簡単だよ」

そう言ってゼイムスはまた快活に笑った。

「王子様にかけられた呪いはお姫様の真実の愛のキスで解けるんだ」


こんな時に一体何の冗談を。
そう思わず脱力しながらゼイムスを見れば、想像に反しゼイムスの目は真剣だった。

「……本当に???」

驚いて目を丸くする私を見て、ゼイムスがクスっと声をあげて穏やかに笑った。

「真実の愛ってのはボクの冗談。でも、この呪いをかけたやつはローザがボクを許したなら呪いが解ける様にしたって、そう言ったんだ。じゃないとボクが失脚して困るのはボクの婚約者であるローザだからね」


私がゼイムズを許す……。

「……………」

確かに、何も知らない人からすれば、恨むのが当然の憎い相手であるように見えただろう。

しかし……。
しかし彼は、私だけを見て欲しいというあの時の私の願いを叶えてくれた唯一の人だ。

まるでそうして触れ合っていないと息が出来ないとでも言わんばかりの溺れるようなキスと、抱きしめられていると勘違いしそうになる私を捕らえるその両の腕の温もり、そしてあの苦い表情を思い出せば。

優しいゼイムスの愛に満たされているはずの今でも、あのゼイムスの孤独と歪んだ愛を、そしてそんな彼の不在を思い胸の奥が苦しくなってしまう。


しかし……

「私にはその呪いは解けない」

そう言えば、ゼイムスが悲しそうに視線を足元に落した。

「そうか、ボクは許されない程、キミに酷い事をしたんだね」

まぁ、それもあながち間違いではないのだが。

「私が呪いを解けない理由はそんなことじゃないわ」

そう言えば、ゼイムスが不思議そうに顔を上げた。

「だって、ゼイムスは今のままの方が幸せでしょ?」


私の言葉にゼイムスがキョトンとした表情で首を捻った。
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