【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

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第一章 悪役令嬢は『壁』になりたい

2.大事なシーンとは言え、推しがいじめらてるのに黙っていられますかっての

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興奮のあまりそんな良く分からん事を考えながら、息せき切らし推しウィルを探し走りまわる事、約五分――

「おいおい、逃げるのはそれで終わりか泣き虫ミーナ?」

茂みの陰からそんな子どもの声と、それに合わせて嗤う少年二人の声が聞こえました。


『泣き虫ミーナ』

それはウィルの回想シーンに出て来た、彼が子どもの頃の蔑称べっしょうでした。

ウィルの非力さを女の子みたいだと揶揄するため、ゼイムスと、彼の取り巻きである私の双子の兄クリストファーとブライアンは、事ある毎にウィリアムを女性名に変換した時の愛称『ミーナ』と呼び彼を辱めてみせるのです。


『知ってる! これ、ウィルの回想に出て来たやつだ!!』

私はそんな、まるで通信教育の勧誘漫画に出て来るヒロインのような事を思うと、歓喜に震えながら足音を忍ばせ、早速、壁代わりの植え込みに擬態してその場面を覗き見ることにしました。


一人の小さな男の子を皆で囲むように立つ中、一番偉そうに真ん中で踏ん反り帰っている金髪碧眼の美少年が第一王子であり、後の悪役令嬢ことリリーメイの婚約者のゼイムス。
そしてウィルの両サイドの逃げ道を塞ぐようにして意地悪そうな顔でニヤニヤ彼を見下ろしながら立っているのが、クリストファーとブライアンです。

双子の兄とゼイムスは今年で十三歳、一方私とウィルは十一歳。
非力も何も。
この歳の同性の二歳差は絶望的な程大きいでしょうに……。


「その本は大切な物なんだ! 返してくれ!!」

必死に手を伸ばすウィルを面白そうにニヤリと見下ろし、ゼイムスが持っていた本をクリストファーに投げました。

「返せ!」

取り返そうとまた手を伸ばすウィルを嘲笑いながら、今度はクリストファーが乱暴に本をブライアンに投げます。

「返せ!!」

投げられ、その形を歪める本に向かいウィルは一生懸命手を伸ばしますが……。
その小さな手は宙を掻くばかりで本には届きません。

ページの破れる音に、思わずウィルが唇を強く噛んだ時でした。


「せい!!」

突如四人の前に姿を現した私の正拳突きが、本を受け取る為手を上にあげガラ空きだったブライアンの鳩尾に決まりました。

あ!
思わず総合格闘技やってた前世の癖が……。

何もせず壁になるはずが、早速やらかしてしまいました。
でもまぁ。
ここで推しが痛めつけられるのを見ていられる程私は人間が出来ていドSではないので仕方ないですよね?


痛みに本を持ったまま体を『く』の字に折ったブライアンの手から本を奪い取ります。

精神年齢大人な私が少年に手を上げてしまった事もどうかと思わんでもありませんでしたが。
何気に彼らも分別がついていていい歳ですし、またこちらの体は十一歳の年下な少女なので、自業自得と諦めてもらいたいと思います。


「お前! 何すんだよ?!」

クリストファーが怒りの形相で本を取り返そうと私に向かい手を伸ばしてきたので。
私は素早く本をウィルに渡すと、クリストファーの腕と胸倉を掴むなり、

「やあ!!」

綺麗な一本背負いを決めてやりました。
前世での経験、意外と活かされるもののようです☆


しばらくは、突然の私の行動にポカンと口を開けていたゼイムスでしたが……。
子どもの頃のゼイムスはわざわざウィルを女性名で呼んでイジメるくらいの差別的なヤツです。
故に、女の子の私にこのまま好き勝手されるのは許せなかったのでしょう。

「リリー、その本をこちらに渡せ!」

ゼイムスはそう言って、酷く高圧的に睨みつけてきたので、思いっきりアッカンベーをしてやりました。
するとそれに益々腹を立てたゼイムスが、私の頬を叩こうとその手を振り上げました。


どうしましょう?
コイツも投げ飛ばす事は容易いですが……。
兄達とは違い王族を投げ飛ばしたら流石にいろいろマズイでしょうか?

うーん。
しゃくではありますが、本も取り返せたことだし、大人しく一発くらい殴らせておくか。

そんな男前な事を思って目をギュッと閉じた時でした。


バシン!!

鈍い音が聞こえました。
しかし、不思議な事に痛みはありません。
それに驚いて目を開ければ、私とゼイムスの間に突然割り込んで来たウィルの頬が赤く腫れていました。

「……ウィル??」

「行こう!!」

そう言うなり。
ウィルは私の手をギュッと握ると、何の説明もなく走り出しました。
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