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第二章 生き急ぐように去って行く美少年の背中を切なく見送りたい

リュシアンの勝利条件①(side アーデ)

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夏の終わりの話です―

『父から叱られました。「元婚約者のエリルローズには既に母親になっているというのに、お前は何をしている。陛下の寵を得るられぬのは全てお前の不徳のなすところだ。この同盟を白紙にする気か? 何度も私を失望させるな」と』

そんなリュシアンのかつての言葉が気になっていた私は、密かにリュシアンとの間に子どもを早く授かる事を願っていたのですが……。

私の思いとは裏腹に、中々授かる事が出来ませんでした。


悲しいですが、やはり私ではダメなのかもしれません。
やっぱり何度も言ってきたように、リュシアンには若い子の方が相応しいのではないでしょうか。

私との間の子でもなくとも。
リュシアンが他の人との間にもうけた子であろうと王位をその子に譲ると私が明言すれば、リュシアンが彼の父に責められる事も無いでしょう。


これ以上リュシアンに肩身の狭い思いをさせたくなくて。
何人かの令嬢を城に招き、リュシアンのお見合いの為のお茶会を開いた日の事でした。

「いったい何のつもりです!!」

お茶会が終わるなり、私の意図を察したリュシアンが怒りも露わに執務室に怒鳴り込んで来ました。

そんなリュシアンは初めてで。
驚きつつも、リュシアンの怒りを解こうと訳を話せば

「猫の次は種馬扱いですか! 僕が愛してるのは貴女だけだと何度もいっているのに。どうして分かってくださらないんです!!」

そう、余計に激高させてしまいました。

傷つけてしまった事を申し訳なく思い、謝ろうとその手に触れた時でした。
初めて苛立たし気にリュシアンから手を振り払われてしまいました。

振り払われた手よりも。
リュシアンの傷ついた気持ちを思い、胸がギュッと苦しくなります。

しかし、その時の私にはどうすべきかが分かりませんでした。






◇◆◇◆◇

お茶会から一月が経ちました。

すっかりリュシアンの機嫌も直ったように思われたある日の事です。

「アーデ、よかったらお忍びで僕と出かけませんか?」

侍女達の目を盗むようにして、リュシアンがそんな事を耳打ちしてきました。

「お忍びで?」

小さく聞き返せば、リュシアンがいたずらっ子のように小さく微笑み頷きます。

少し迷わないではありませんでしたが。
リュシアンが久しぶりに見せる笑顔を少しだって曇らせたくなくて、詳しい事も聞かぬままリュシアンに手を取られ、誰にもその事を告げぬままコッソリ城を抜け出しました。


まるで駆け落ちでもするかのように。
仕様人のお仕着せを着て、その上に地味な外套を羽織り、人目を盗んで彼が呼んだ馬車に二人で乗り込みます。

『久しぶりに、下町散策にでも行きたくなったのかしら?』

そんな風に思い、すぐ戻るつもりで侍女のアンにさえ何も言わずに出てきてしまったのですが?

下町を遥か昔に過ぎても、馬車が止まることはありませんでした。


「リュシアン? 一体どこに行くの??」

私の質問に答えず

「疲れましたか? まだかかりますから、どうぞ眠っていてください」

リュシアンがポケットから、何か綺麗な彫刻が施された箱を取り出しました。

この文様……ネザリアの魔具でしょうか??
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