【完結済】愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします

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第二章 生き急ぐように去って行く美少年の背中を切なく見送りたい

生き急ぐように去って行く美少年の背中を切なく見送りたい② (side アーデ)

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リュシアンがこの国にやって来て、あっという間に三年が経ちました。

リュシアンは未だに

「自分は無能ですよ」

そう言って酷く自分の事を貶める様な事をしばしば口にしますが……。

元王太子だけあってそれなりに政治も学んできた様で。
補佐を任せてみれば統治能力がない訳でもありませんでした。

勿論こちらに来たばかりの頃には壮絶に世間知らずではありましたが(そこにも大変萌えさせていただきました。解釈一致で大変素晴らしゅうございました)、今となっては民の暮らしに誰よりも明るく、迷った際にはあの宰相がリュシアンに意見を求める程です。

リュシアンは自分は優秀ではないと思い込んでいるようですが、恐らく大器晩成型の人間なのでしょう。


そして壮絶に顔がいい。

美少年だった彼は、この三年ですっかり大人の色気を纏った美青年に成長しました。

そして元々根が純粋で優しいのでしょう。

常に驕ることなく、私の言葉に耳を傾け、周囲の取りまとめに尽力してくれる様は王配としての責務を立派にこなしており、彼は最近では不思議なカリスマ性さえも備えつつありました。






◇◆◇◆◇

「よし、決めた! 王位はリュシアンの子どもに譲ることにする!!」

ある日、唐突にそう思い至って周囲にそう宣言すれば、リュシアンの頬がバラ色に染まりました。

何故かは良く分かりませんでしたが、周囲が生暖かい空気に包まれます。

しかし、次の瞬間でした。

「そうとなれば、リュシアンのお嫁さん探しを急がないとね!」

私の言葉に、周囲とリュシアンの表情が今度は硬くビシィィィッと音を立てて凍り付きました。


……そうですよね。

分かりますよ!

巣立っていく美少年の背中を見送るのって切ないですよね!!!

でも安心して下さい、その切なさについて熱く語り合うべく同士(私)はここに居ます!

涙枯れ果てるまで萌について、尊さについて夜通し共に語り合いましょう!!!


そう思い、周囲に

『分かってる、ちゃんと分かってるって☆』

と頷いて見せながら

「最近噂の聖女様とかどうかしら? 藍に近い珍しい色の髪が美しく、誰よりも相手の事を思いやる事が出来る素晴らしい子だとか……」

リュシアンのカワイイお嫁さん候補の話を始めた時でした……。


「アーデルリーザ様。僕は心より愛するただ一人の伴侶との間に子どもが欲しいです。お許しいただけますか?」

気持ちを切り替える様に頭を振ったリュシアンが、これまでになく壮絶な色香を意図的に振りまきながら優雅に微笑み言いました。

「もちろん!」

あぁ、この子は何て美しく立派に育ったのだろう。

ホントにどこにお婿お嫁に出しても恥ずかしくないわぁ。

そう思いながら力強く肯定した時です。

身体がフワッと宙に浮きました。


突然の事に何が起きたのかしばらく理解出来ませんでしたが、どうやらリュシアンにお姫様抱っこをされているようです。

「リュシアン??? ……何してるの????」

「ようやくお許しをいただけたので、アーデの気持ちが変わらないうちにと思って」

「大丈夫、約束は違えないって誓うよ! リュシアンが望む人と結ばれることを必ず全力で応援する!!!」

『だから安心して降ろして』

そう言おうと思ったのに……

「安心しました」

これまでになく間近で、その綺麗な顔で上機嫌でリュシアンが笑うから。
その色気に当てられ思わずボッと音がしたのではないかと思うほど全身が真っ赤になって思わず声が出なくなります。






◇◆◇◆◇

いつの間にかリュシアンは、私を抱えたまま危なげなく階段を上り切っていました。

一見細身に見えますが、流石男の子だなと感心します。


……って感心している場合じゃなかった!

「分かったならいい加減降ろし…」

『て』を言う前にリュシアンがにっこり言い切りました。

「僕が愛する妻は生涯でたった一人、アーデだけです」


「……はい????」


リュシアンが一体何を考えているのか分からない私の思考を置いてけぼりにして。
リュシアンがいつもの様に穏やかそうな微笑みを浮かべながら、意外と足癖悪くガン! と寝室の戸を蹴り開けました。

そして、これまで使われてこなかった夫婦のベッドの上にまるで壊れ物を扱うかのように丁重に降ろされます。


えっ?

ちょ、……ちょ待てよ?!

リュシアンさん????


「とうが立った僕はやはりお嫌いですか?」

リュシアンに捨てられた犬の様にシュンとした声でそう問われ、そんなはずない、今のリュシアンがどれほど素敵か、私がどれほどリュシアンの事を大事に思っているか思わず必死になって言いつのれば

「よかった」

リュシアンがもう誰も叶わない無敵の笑顔でこれ以上は問答無用とばかりに、それはそれは美しく笑いました。

その笑顔に思わず魂を抜かれポーッとなっている内に、あっという間に羽織っていたケープがベッドの下に落とされドレスのリボンがシュッと音を立てて解かれます。


「りゅ、リュシアンさん……なんか、妙に手際がよろしすぎませんか??!」

慌てふためきながら思わず声を裏返させ往生際悪くそんな事を言えば、

「僕が素行の悪さ故、王位継承権をはく奪された王子だった事……まさか忘れていませんよね?」

リュシアンが動じることなく妖艶に微笑みます。

「そんな素行の悪かった僕がハニートラップにかかる事も無く、侍女に手を付けることもなく、三年もの間、愛する人を前に耐え抜いてきたんです。……僕が長い間いかにあなただけを思って来たのか、精々思い知ってくださいね」




…………。




宣言通り、リュシアンの思いを思い知った後―

「リュシアン、そんなに急いで大人にならなくてもいいんだよ。……生き急がないで、ゆっくり長生きしてね」

泥のように重い手を挙げてその綺麗な前髪を思わず撫でれば、

「えぇ、僕はどこにも行きませんから、だからこれから共に生きましょうね。末永くよろしくお願いします」

リュシアンはそう言って背中ではなくその綺麗なかんばせを私に向けて、また切ないくらいに眩しく笑ったのでした。
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