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第一章 愛が重め故、断罪されました

愛が重かった故、断罪されました

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気が付いたら、ある乙女ゲームの悪役令嬢に転生していました。

赤毛縦ロールに、猫の様に少し吊り上がった紅茶色の瞳が愛らしい侯爵令嬢です。


ネット小説のテンプレのような展開に、もっと捻ひねりは無いのかと思わないでもなかったですが……

なってしまったものはしかたないですよね?

一応、転生する前から、事故に遭う瞬間にかけての記憶も在るには在るのですが。

テンプレ部分の回想は、大体皆さん似たり寄ったりかと思うので、思い切ってサクッとカットしたいと思います☆


ちなみに。

私、特にこのゲームに思い入れはなく、特に推しと言えるほどの存在はいませんでした。

(なのに何で転生先がこのゲームだったのでしょう??
どうせなら獣人の国でモフモフする別のゲームの方に転生したかったです orz)


と、いう訳で(?)、子ど頃からの婚約者であった、このゲームの攻略対象である見目麗うるわしい王太子のリュシアン様を、私はずっと自分なりに誠実にお慕いしてきました。


それなのに。
気づけば何故かリュシアン様から酷くうとまれていて。

まさに今、テンプレ通り卒業パーティーにて婚約破棄を言い渡されています!!

くぅ。
何故だ?!
ヒロインに奪われないようあんなに頑張ったのにぃぃぃ。


悲しいかな、これが小説で読んだゲームの強制力というやつでしょうか??

そう思わず声に出して嘆いていたら、

「ゲーム? 強制力??」

と、訝し気に眉を顰めつつ、親切にもリュシアン様が私の悪かったところを手短に教えてくださいました。


なんでもリュシアン様は私の、

①勘違い、思い込みが激しいところ

②常に思考の中心が『リュシアン様』と愛が重いところ

③経済政策や福祉面等、統治の仕方に口を挟むところ

④リュシアン様のファッションやお金の使い方、食生活等、私生活に口を挟むところ

⑤頼まれてもいないのに勝手に手作りのお菓子を作ってきたり、勝手にメイド達では手を出せない散らかった資料整理をしたりと世話を焼き過ぎるところ

⑤季節の折り目ごとにリュシアン様とお付き合いのある方にお手紙や贈り物を妻気取りでするところ

等々が許せなかったらしいです。


言われてみれば……
心当たりしかありません。


「でも、リュシアン様のことを思って……」

そう反論すれば

「だから! そういうとこが重いんだよ!!」

と、一刀両断されてしまいました。


そうですか、重かったですか……。

『もっと、リュシアン様のそんな想いに気づけていれば……』

そんな風に反省する事ばかりに気を取られていたせいでしょうか。
はたと気づけな、新たなリュシアン様の婚約者となったこのゲームのヒロインちゃんを虐めた濡れ衣を着せられ、修道院送を言い渡されてしまいました。

もちろん慌てて無罪を主張しました。
しかし既に根回しは済んでいたようで、誰も私の弁護をしてはくれません。

侯爵令嬢である私をただの心変わりで婚約者から降ろす訳にはいかないですからね。
何かしらの理由罪状が必要だったのだと思われます。

幸い実家へのお咎めはないようでしたし、

『それでリュシアン様が本当に愛する方と結ばれて幸せになれるのなら……』

とも思ったので、私は言われるがまま王都を去る事にしました。





◇◆◇◆◇

まだ昼過ぎであるにも関わらず薄暗い森を走る馬車の中、一人これからの事を考えます。


これから向かう修道院は随分ひなびた所にあるのだとか。

ただの侯爵令嬢には田舎暮らしはきつかったかもしれませんが。
こちとら日本のド田舎でワイルドに育った元転生者です!

まぁ、新天地でもそこそこ楽しくやって行けるでしょう☆


王都を去るついでに、リュシアン様への思慕も綺麗さっぱり忘れることにしましょう。
愛は重めかもしれませんが、切り替えが早いところが私の良いトコロです。


『前世の記憶を活かして、何かうまい事やっていけないかな』

なんて思っていた時でした。

深い森の中で、修道院に向かっているはずの馬車が急に止まりました。

『休憩かな?』

呑気にそんなことを思ったその時です。
剣を持った騎士が急に押し入って来ました。


……そうですか。

ゲームのシナリオにははっきり書かれていなかったけれど、私、ここで暗殺されるんですか。

今回の人生は前世よりも更に短かったですね。


余りのショッキングな出来事に、どこかぼんやりした気持ちでそんな事を想いながら刀身がこちらに向くのをスローモーションで見ていた時です。

馬車の護衛についていた別の騎士が、その騎士の襟首をガッと引っ掴み思いっきり後ろに引き倒しました。

「貴様! 裏切るのか!! 約束された地位も褒賞も全てふいになるのだぞ?!」

私を襲った騎士が馬車から転げ落ち、尻餅をつきながらそんな慌てふためいた声を出します。

しかし、私を助けてくれた騎士は落ち着いた声で

「オレは利益じゃ動かねーよ」

そう言うと、こんな緊迫した状況の中なのに、ニヤッと大胆不敵に笑って見せたのでした。


しばらく剣での打ち合いが少し続いた後―

勝てないと悟ったのであろう私に剣を向けた騎士は、何やら捨て台詞を吐きながら御者と一緒にどこかに逃げ去って行きました。


私を助けてくれたのは、無精ひげにややルーズに制服を着崩したジャンという三十前の騎士でした。


髪の色は麦の穂を思わせる少しくすんだ金髪で、その少し濃い蒼い瞳は秋晴れの空を思わせます。

ジャンは少し癖のある前髪が長く、無精ひげのせいで一見くたびれたオッサン風に見えますが、鬱陶うっとうしそうに前髪をかきあげた際、その横顔が実は綺麗に整っていることが分かりました。


「怪我はないか?」

そう言ってジャンがニカッと豪快に歯を見せて笑いながらその大きくゴツゴツした手を差し伸べて下さったその時、私は私の思考の中心が『リュシアン様』から『ジャン様』に変わってしまった事に気づきました。


「はい、助けて下さってありがとうございます。このご恩は一生忘れません」

そう言って、私は物凄い事に気づきます。


「一生ご恩を忘れない=一生尽くす=結婚ですよね?!! ジャン様、私が貴方の事を必ず幸せにして見せます。だから私と結婚してください!!」

突然のプロポーズだったにも関わらず。
キラキラ目を輝かせる私に向かい、ジャン様は慌てた様子も見せず爽やかに言い切りました。

「結婚? あー、それは無理だな!」





プロポーズを無下に断ったその代わり。

ジャン様は、私を襲った騎士と共に逃げ出してしまった御者に代わりに馬車の手綱を取ると、私を修道院まで送り届けて下さいました。

そして、驚いた事にジャン様は、私が送られた修道院のある領地を治める、子爵家の御子息様でした。


後日―

ジャン様は私を助けた事で中央から睨まれ、何だかんだ理由をこじつけられ騎士の任を解かれてしまったとの事でした。

私はそれを心から本当に申し訳なく思ったのですが、意外にも当のご本人は

「どの道、近いうちに騎士を辞めて領地を継ぐ予定だったから関係ないさ」

と全く気にした素振りも見せず、私の様子を心配して孤児院を兼ねた修道院を事ある毎に訪れて気さくに声をかけて下さいます。


無精ひげを生やし騎士服を脱ぎ、市井の人達と変わらない服装をしたジャン様はとても貴族には見えませんでした。

でもその飾り気のない笑顔こそが私にはたまらなく素敵に見えて……。

私は会う度会う度

「しばしば私の事を気にしてこちらを訪れて下さる=デートを重ねている=結婚ですね! ジャン様、貴方の事は生涯私が全力で守ります、だから私と結婚してください!! そして、子ども達の住居区部分の雨漏りやら隙間風やらを防ぎたいので孤児院への支援額をもっと増やして下さい!!」

とプロポーズするのですが。

ジャン様はその逆プロポーズと孤児院へのさらなる資金援助を

「コレはデートじゃなくてただの慰問だ。結婚? あー、それは無理だな!」

と、人好きのする笑顔でやはりサラッと断られるのでした。


その代わり。

ジャン様は自らどこからか大工道具を持って来ると、騎士団で培われた技術なのか貴族の子息いいトコロのボンボンとは思えない程の手際の良さで、孤児院の雨漏りと隙間風の修繕をして下さったのでした。
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