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第三章 刺激的なスローライフ
57.【番外編 ローザとニコラス】ベリーとクリームのタルトより甘く⑪ 【side ローザ】
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パチンという高い音を立てて、暖炉の薪が爆ぜた瞬間だった。
夢の中で
『お前に会えてよかったよ』
そう言って、甘く笑う少年の姿を思い出した。
あの日、リザードマンの群れの中、自らの命と引き換えに私とアリアを懸命に逃してくれた、自分よりも一つか二つ年下と思しき少年。
勿忘草色の猫の瞳をした、気が強くて、心優しい、死地において突如芽生えてしまった儚い私の初恋の相手。
『ダメだ! 一緒に、一緒に逃げよう!!』
そう言って、夢の中で懸命に手を伸ばした瞬間。
いつもの様にフッと目が覚めた。
◇◆◇◆◇
「ローザ? 悪い起こしたか??」
途端に夢の内容を思い出せなくなってボンヤリとしたまま体を起こせば。
夜着を纏い、青みが勝った黒髪をタオルでゴシゴシと拭く、夫のニコラスがそう言って私の髪を撫でた。
「怖い夢でも見たのか?」
ニコラスにそんな事を言われながら優しく抱きしめられ、私はノロノロと首を横に振った。
怖いとは異なる、寂しいと恋しいの間のような切ない気持ち。
何かとても大切な事を忘れているような気がして、思い出さなくてはと焦るのに。
抱きしめれた湯上りで高いニコラスの体温に、そのわだかまりはまたあっけなく溶けて消えていった……。
…………。
そう、湯上りと言えば。
最近のニコラスはお風呂の住人だ。
別にトレーユの様に潔癖症なところがあるとか、そういう訳ではない。
結婚からしばらくした頃より、何故か突然思い出したように彼の体が突然成長を始めたせいで、彼は体のあちこちが激しく痛んで仕方が無いようで。
それを和らげる為、暇を見ては温かい湯に浸かって痛みを緩和しているのだ。
私にも覚えがある。
そう、いわゆる成長痛と言われるものだ。
「どうした?」
最初に出会った時よりも低くなった声で問われて、私は真っ赤になってニコラスから視線を逸らしたままなんでもないと首を横に振った。
ニコラスは背が伸びて、今ではハクタカと同じくらいの背格好、同じくらいの年の青年に見える。
ずっと、可愛らしいニコラスが好きだと、彼以上に心惹かれる相手はいないと思っていた。
だから、どんどん大人びていくニコラスの変化を受け入れられるのか、最初は心配だったが……。
それは完全に杞憂だったようだ。
私は……、今のニコラスも好きでしょうがない。
「? 何か言ったか??」
心の声が表情に漏れ出ていたのだろうか?!
ニコラスにそう声をかけられて何でもないと真っ赤に何て首を横に振れば、
「言わないなら当てる」
そう言って、ニコラスが両手で私の頬に触れ上を向かせると、至近距離から私の瞳を覗き込んだ。
勿忘草色の綺麗な瞳に近距離から真っすぐ射抜くように見つめられ、また自分の頬が熱くなっていく。
「自分でも何を不安に思っているのか良く分かっていない?」
考えを言い当てるなんてそんな事、いくらニコラスでも出来ないだろうと思っていたのに。
思い切り正解を言い当てられた。
驚きや、どうしてそんな事が出来るのかという疑問よりも、ニコラスは本当に凄いなと嬉しくなって。
思わず恥ずかしさも忘れ真っすぐニコラスを見返せば、ニコラスがまたその見た目とは不釣り合いな程に大人っぽく笑って、チェストの引き出し中から綺麗な小箱を取り出した。
何だろうとその中を見れば、小箱の中身は、艶々とした光沢を放つ、チョコレートボンボンだった。
「口開けて」
ニコラスに言われるがまま口を開けば、するっと一粒チョコレートが私の口の中に入ってきた。
本来苦手な苦い蒸留酒が、甘い甘いチョコレートと混じり合い、ただただ甘く切ない香りだけを残して私の中に消えていく。
それだけで酔ってしまったのだろうか。
暖かい部屋の中、ニコラスの腕の中に抱かれ、すぐに瞼がどうしようもなく重くなった。
またパチンと暖炉の薪が爆ぜたような音がして、目を開こうとすれば
「オレの事、覚えていてくれてありがとう。でも、まだ無理に思い出さなくていいから。いつか、いつか皆の……オレの痛みが消えたその時にちゃんと話すから。だからもう少し、全部忘れておやすみ」
ニコラスが、そんな事を言って私の額にキスをした。
そんな気がした。
夢の中で
『お前に会えてよかったよ』
そう言って、甘く笑う少年の姿を思い出した。
あの日、リザードマンの群れの中、自らの命と引き換えに私とアリアを懸命に逃してくれた、自分よりも一つか二つ年下と思しき少年。
勿忘草色の猫の瞳をした、気が強くて、心優しい、死地において突如芽生えてしまった儚い私の初恋の相手。
『ダメだ! 一緒に、一緒に逃げよう!!』
そう言って、夢の中で懸命に手を伸ばした瞬間。
いつもの様にフッと目が覚めた。
◇◆◇◆◇
「ローザ? 悪い起こしたか??」
途端に夢の内容を思い出せなくなってボンヤリとしたまま体を起こせば。
夜着を纏い、青みが勝った黒髪をタオルでゴシゴシと拭く、夫のニコラスがそう言って私の髪を撫でた。
「怖い夢でも見たのか?」
ニコラスにそんな事を言われながら優しく抱きしめられ、私はノロノロと首を横に振った。
怖いとは異なる、寂しいと恋しいの間のような切ない気持ち。
何かとても大切な事を忘れているような気がして、思い出さなくてはと焦るのに。
抱きしめれた湯上りで高いニコラスの体温に、そのわだかまりはまたあっけなく溶けて消えていった……。
…………。
そう、湯上りと言えば。
最近のニコラスはお風呂の住人だ。
別にトレーユの様に潔癖症なところがあるとか、そういう訳ではない。
結婚からしばらくした頃より、何故か突然思い出したように彼の体が突然成長を始めたせいで、彼は体のあちこちが激しく痛んで仕方が無いようで。
それを和らげる為、暇を見ては温かい湯に浸かって痛みを緩和しているのだ。
私にも覚えがある。
そう、いわゆる成長痛と言われるものだ。
「どうした?」
最初に出会った時よりも低くなった声で問われて、私は真っ赤になってニコラスから視線を逸らしたままなんでもないと首を横に振った。
ニコラスは背が伸びて、今ではハクタカと同じくらいの背格好、同じくらいの年の青年に見える。
ずっと、可愛らしいニコラスが好きだと、彼以上に心惹かれる相手はいないと思っていた。
だから、どんどん大人びていくニコラスの変化を受け入れられるのか、最初は心配だったが……。
それは完全に杞憂だったようだ。
私は……、今のニコラスも好きでしょうがない。
「? 何か言ったか??」
心の声が表情に漏れ出ていたのだろうか?!
ニコラスにそう声をかけられて何でもないと真っ赤に何て首を横に振れば、
「言わないなら当てる」
そう言って、ニコラスが両手で私の頬に触れ上を向かせると、至近距離から私の瞳を覗き込んだ。
勿忘草色の綺麗な瞳に近距離から真っすぐ射抜くように見つめられ、また自分の頬が熱くなっていく。
「自分でも何を不安に思っているのか良く分かっていない?」
考えを言い当てるなんてそんな事、いくらニコラスでも出来ないだろうと思っていたのに。
思い切り正解を言い当てられた。
驚きや、どうしてそんな事が出来るのかという疑問よりも、ニコラスは本当に凄いなと嬉しくなって。
思わず恥ずかしさも忘れ真っすぐニコラスを見返せば、ニコラスがまたその見た目とは不釣り合いな程に大人っぽく笑って、チェストの引き出し中から綺麗な小箱を取り出した。
何だろうとその中を見れば、小箱の中身は、艶々とした光沢を放つ、チョコレートボンボンだった。
「口開けて」
ニコラスに言われるがまま口を開けば、するっと一粒チョコレートが私の口の中に入ってきた。
本来苦手な苦い蒸留酒が、甘い甘いチョコレートと混じり合い、ただただ甘く切ない香りだけを残して私の中に消えていく。
それだけで酔ってしまったのだろうか。
暖かい部屋の中、ニコラスの腕の中に抱かれ、すぐに瞼がどうしようもなく重くなった。
またパチンと暖炉の薪が爆ぜたような音がして、目を開こうとすれば
「オレの事、覚えていてくれてありがとう。でも、まだ無理に思い出さなくていいから。いつか、いつか皆の……オレの痛みが消えたその時にちゃんと話すから。だからもう少し、全部忘れておやすみ」
ニコラスが、そんな事を言って私の額にキスをした。
そんな気がした。
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ベルリン様
トレーユがあまりに暴走するので続き書くのに時間がかかってしまい、返信遅くなってしまいました。ご感想くださっていたのにすみません(/ω\)
既にタグ多めのトレーユですが、結婚すると更に厄介なタグ(『嫉妬』『家庭内ストーカー』)がまだまだ増える気がします☆
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番外編として、ローザとニコラのお話も書ければと思っていますので、よろしければ引き続きお付き合い下さい(*´ω`*)
退会済ユーザのコメントです
ベルリン様
ハク蔵のことなので、何気に茶葉は遠方の都市『シズ・オカ』なる土地から取り寄せたリーズナブルだけど味の良いもの(おじいちゃんおばあちゃんの間で人気)を愛用していることと思います( *´艸`)
さて、カルルは諦められたのでしょうか??
次回もまた読んでいただけると嬉しいです(*´ω`*)
退会済ユーザのコメントです
ベルリン様
いつも投稿するたび読んで下さり本当にありがとうございます(*^_^*)
ベルリン様にお茶を出されてなだめられるトレーユの姿を反射的に想像してしまい、余りにツボだったので変わりにハクタカにお茶出させてみました♪
投稿するまで時間がかかったせいで、お返事も遅くなってすみません。
引き続き、お暇な時にでも読んでいただければ嬉しいです。