57 / 59
第三章 刺激的なスローライフ
55.【番外編 ローザとニコラス】ベリーとクリームのタルトより甘く⑨ 【side ニコラス】
しおりを挟む
結局、新たな目標など見つけられなかったオレは冒険者としてギルドに残り、魔王討伐前と何ら変わらず死に急ぐように危険な任務ばかり受けていた。
すると、危険な任務に付随する報酬の良さが人々の目を引いたのだろう。
いつの間にか、オレは周囲から拝金主義者と揶揄されるようになっていた。
周囲に身の振り方を心配されるより、守銭奴と蔑まれる方がよっぽど気楽で。
自ら率先してその噂をふりまきつつ、きな臭い案件に自ら好き好んで首を突っ込んでいくうちに、
『情報屋』
気づけばそんな風に周囲の人間から呼ばれるようになっていた。
「ニコ。……いいや、ニコラス。もういいだろう? いい加減、大人になれよ」
命を懸ける程の価値はない危険な任務を率先して受ける度。
オレの本当の目的が金などに無い事を知っている、かつてのパーティーメンバーで、今やオレの所属するギルドのマスターとなったエンゾは、そいって繰り返しオレを諭そうとしたが
「大人になれと言われても、こちとら残念ながら、成長期はとっくに過ぎてるんでね!!」
オレはその度そうわざと不貞腐れて見せると同時に
『大人になれよ』
その言葉は、変化を受け入れられない体の事を言われているのだと思っている態を装って、努めて聞き流すよう心掛けてきた。
でも……。
本当のところそうでない事くらい、オレだって気づいていた。
変化を受け入れられないのは、オレの体ではなく、寧ろ心のほうだ。
オレはこの先、平和なこの世界を、沢山の戦友を失った後の世界線のこの世界を、この成人離れしたこの小さな体で自然と息絶えるその時まで生きていかないといけないらしい。
きっとそれが、生き残ったオレの務め。
そんな事くらい分かっているつもりなのに、どうも頭の理解に心が追いついていかない。
平和とは魔王よりも残酷な事を強いるものだなと、深い深いため息をついた、そんな時だった。
「娘を探してくれ!!」
ローザの父であるコーリッジ伯爵が真っ青な顔をして、情報屋であるオレのところに駆け込んできた。
何でも、第四王子との結婚を嫌がったローザが一人誰にも何も告げず屋敷から姿を消したらしい。
「娘は無事だろうか……」
伯爵は真っ青な顔をして大真面目にそんな事を言った。
無事も何も……。
ローザは魔王を討伐した戦士として有名だ。
世界に平和が訪れ、魔物達が弱体化し大きく数を減らした今、魔物に襲われる心配もあまりなく、寧ろ危険なのは人間なのだが……。
そんじょそこらの人間が束になって寝込みを襲おうと、そう簡単に彼女を傷つけられるとは到底思えない。
正直、襲ったヤツの方の身が案じられるレベルだ。
そんな戦士を普通の令嬢と同様に心配するなんて。
酷く取り乱す伯爵を見て、オレはそんな伯爵を酷く滑稽に思うと同時に、ローザはその肩書など関係なくただの女の子として随分真っすぐ愛されて育ったのだなと、彼女の芯の強さはここういう所から来ていたのだろうなと、密かに好ましく思った。
伯爵が帰った後の事だ。
机に置かれた金貨の詰まった袋を無造作に金庫に放り込もうとした時だった。
使う当てがないため、碌に整理もせず無理やり詰め込んでいたのが悪かったのだろう。
ガラガラという音を立てながら、金庫の中身がついに雪崩を起こした。
それを酷く面倒に思いながら、そこそこ大きなサイズのその金庫に、再度金貨や証書を無理やり押し込もうとした時だった。
パンパンに詰められた金庫の中を見て
『もしかしてこれだけあれば、爵位も買えるんじゃないか?』
ふと、そんな事を思いついてしまった。
◇◆◇◆◇
ローザを迎えに行く道すがら――
一人黙って黙々と歩き続けたのが良くなかったのだろう。
無駄に色んなことを考えてしまった。
連れ帰れば、ローザは第四王子妃に諦めてなるのだろうか。
それなら……。
いっそこのまま家には帰さず攫ってしまうのはどうだろう。
「…………」
そんな暗い気持ちに囚われながら扉を叩いた時だった。
「ニコラ?」
思いも掛けずかつての戦友の息子が、そんな気の抜けた声でオレの名を呼んだ。
そうして――
あっさりオレのスキルを無効化し、オレの暗いたくらみを瞬時に打ち砕いて見せたハクタカは、事も無さげに人の姿形を変える事を可能とする大魔道士をオレに紹介し、オレが血を吐くような思いをしてたどり着いた諦めの気持ちをも一瞬にして砕いて見せた。
ずっと。
ずっとこの体はローザに不似合いだから、求婚など望めない。
そう諦めていたのに。
大人の体になれる可能性に気づいてしまった瞬間、もうどうしたって彼女を諦めきれなくなってしまった。
すると、危険な任務に付随する報酬の良さが人々の目を引いたのだろう。
いつの間にか、オレは周囲から拝金主義者と揶揄されるようになっていた。
周囲に身の振り方を心配されるより、守銭奴と蔑まれる方がよっぽど気楽で。
自ら率先してその噂をふりまきつつ、きな臭い案件に自ら好き好んで首を突っ込んでいくうちに、
『情報屋』
気づけばそんな風に周囲の人間から呼ばれるようになっていた。
「ニコ。……いいや、ニコラス。もういいだろう? いい加減、大人になれよ」
命を懸ける程の価値はない危険な任務を率先して受ける度。
オレの本当の目的が金などに無い事を知っている、かつてのパーティーメンバーで、今やオレの所属するギルドのマスターとなったエンゾは、そいって繰り返しオレを諭そうとしたが
「大人になれと言われても、こちとら残念ながら、成長期はとっくに過ぎてるんでね!!」
オレはその度そうわざと不貞腐れて見せると同時に
『大人になれよ』
その言葉は、変化を受け入れられない体の事を言われているのだと思っている態を装って、努めて聞き流すよう心掛けてきた。
でも……。
本当のところそうでない事くらい、オレだって気づいていた。
変化を受け入れられないのは、オレの体ではなく、寧ろ心のほうだ。
オレはこの先、平和なこの世界を、沢山の戦友を失った後の世界線のこの世界を、この成人離れしたこの小さな体で自然と息絶えるその時まで生きていかないといけないらしい。
きっとそれが、生き残ったオレの務め。
そんな事くらい分かっているつもりなのに、どうも頭の理解に心が追いついていかない。
平和とは魔王よりも残酷な事を強いるものだなと、深い深いため息をついた、そんな時だった。
「娘を探してくれ!!」
ローザの父であるコーリッジ伯爵が真っ青な顔をして、情報屋であるオレのところに駆け込んできた。
何でも、第四王子との結婚を嫌がったローザが一人誰にも何も告げず屋敷から姿を消したらしい。
「娘は無事だろうか……」
伯爵は真っ青な顔をして大真面目にそんな事を言った。
無事も何も……。
ローザは魔王を討伐した戦士として有名だ。
世界に平和が訪れ、魔物達が弱体化し大きく数を減らした今、魔物に襲われる心配もあまりなく、寧ろ危険なのは人間なのだが……。
そんじょそこらの人間が束になって寝込みを襲おうと、そう簡単に彼女を傷つけられるとは到底思えない。
正直、襲ったヤツの方の身が案じられるレベルだ。
そんな戦士を普通の令嬢と同様に心配するなんて。
酷く取り乱す伯爵を見て、オレはそんな伯爵を酷く滑稽に思うと同時に、ローザはその肩書など関係なくただの女の子として随分真っすぐ愛されて育ったのだなと、彼女の芯の強さはここういう所から来ていたのだろうなと、密かに好ましく思った。
伯爵が帰った後の事だ。
机に置かれた金貨の詰まった袋を無造作に金庫に放り込もうとした時だった。
使う当てがないため、碌に整理もせず無理やり詰め込んでいたのが悪かったのだろう。
ガラガラという音を立てながら、金庫の中身がついに雪崩を起こした。
それを酷く面倒に思いながら、そこそこ大きなサイズのその金庫に、再度金貨や証書を無理やり押し込もうとした時だった。
パンパンに詰められた金庫の中を見て
『もしかしてこれだけあれば、爵位も買えるんじゃないか?』
ふと、そんな事を思いついてしまった。
◇◆◇◆◇
ローザを迎えに行く道すがら――
一人黙って黙々と歩き続けたのが良くなかったのだろう。
無駄に色んなことを考えてしまった。
連れ帰れば、ローザは第四王子妃に諦めてなるのだろうか。
それなら……。
いっそこのまま家には帰さず攫ってしまうのはどうだろう。
「…………」
そんな暗い気持ちに囚われながら扉を叩いた時だった。
「ニコラ?」
思いも掛けずかつての戦友の息子が、そんな気の抜けた声でオレの名を呼んだ。
そうして――
あっさりオレのスキルを無効化し、オレの暗いたくらみを瞬時に打ち砕いて見せたハクタカは、事も無さげに人の姿形を変える事を可能とする大魔道士をオレに紹介し、オレが血を吐くような思いをしてたどり着いた諦めの気持ちをも一瞬にして砕いて見せた。
ずっと。
ずっとこの体はローザに不似合いだから、求婚など望めない。
そう諦めていたのに。
大人の体になれる可能性に気づいてしまった瞬間、もうどうしたって彼女を諦めきれなくなってしまった。
1
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。


結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。


強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる