あの子を甘やかして幸せにスローライフする為の、はずれスキル7回の使い方

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第三章 刺激的なスローライフ

55.【番外編 ローザとニコラス】ベリーとクリームのタルトより甘く⑨ 【side ニコラス】

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結局、新たな目標など見つけられなかったオレは冒険者としてギルドに残り、魔王討伐前と何ら変わらず死に急ぐように危険な任務ばかり受けていた。

すると、危険な任務に付随する報酬の良さが人々の目を引いたのだろう。
いつの間にか、オレは周囲から拝金主義者と揶揄されるようになっていた。


周囲に身の振り方を心配されるより、守銭奴と蔑まれる方がよっぽど気楽で。
自ら率先してその噂をふりまきつつ、きな臭い案件に自ら好き好んで首を突っ込んでいくうちに、

『情報屋』

気づけばそんな風に周囲の人間から呼ばれるようになっていた。




「ニコ。……いいや、ニコラス。もういいだろう? いい加減、大人になれよ」

命を懸ける程の価値はない危険な任務を率先して受ける度。
オレの本当の目的が金などに無い事を知っている、かつてのパーティーメンバーで、今やオレの所属するギルドのマスターとなったエンゾは、そいって繰り返しオレを諭そうとしたが

「大人になれと言われても、こちとら残念ながら、成長期はとっくに過ぎてるんでね!!」

オレはその度そうわざと不貞腐れて見せると同時に

『大人になれよ』

その言葉は、変化を受け入れられない体の事を言われているのだと思っているていを装って、努めて聞き流すよう心掛けてきた。

でも……。
本当のところそうでない事くらい、オレだって気づいていた。
変化成長を受け入れられないのは、オレの体ではなく、寧ろ心のほうだ。

オレはこの先、平和なこの世界を、沢山の戦友を失った後の世界線のこの世界を、この成人離れしたこの小さな体で自然と息絶えるその時まで生きていかないといけないらしい。

きっとそれが、生き残ったオレの務め。

そんな事くらい分かっているつもりなのに、どうも頭の理解に心が追いついていかない。


平和とは魔王よりも残酷な事を強いるものだなと、深い深いため息をついた、そんな時だった。

「娘を探してくれ!!」

ローザの父であるコーリッジ伯爵が真っ青な顔をして、情報屋であるオレのところに駆け込んできた。
何でも、第四王子との結婚を嫌がったローザが一人誰にも何も告げず屋敷から姿を消したらしい。

「娘は無事だろうか……」

伯爵は真っ青な顔をして大真面目にそんな事を言った。

無事も何も……。
ローザは魔王を討伐した戦士として有名だ。

世界に平和が訪れ、魔物達が弱体化し大きく数を減らした今、魔物に襲われる心配もあまりなく、寧ろ危険なのは人間なのだが……。
そんじょそこらの人間が束になって寝込みを襲おうと、そう簡単に彼女を傷つけられるとは到底思えない。

正直、襲ったヤツの方の身が案じられるレベルだ。

そんな戦士を普通の令嬢と同様に心配するなんて。


酷く取り乱す伯爵を見て、オレはそんな伯爵を酷く滑稽に思うと同時に、ローザはその肩書身分やスキル、そして外見など関係なくただの女の子として随分真っすぐ愛されて育ったのだなと、彼女の芯の強さはここういう所から来ていたのだろうなと、密かに好ましく思った。




伯爵が帰った後の事だ。
机に置かれた金貨の詰まった袋を無造作に金庫に放り込もうとした時だった。

使う当てがないため、碌に整理もせず無理やり詰め込んでいたのが悪かったのだろう。
ガラガラという音を立てながら、金庫の中身がついに雪崩を起こした。

それを酷く面倒に思いながら、そこそこ大きなサイズのその金庫に、再度金貨や証書を無理やり押し込もうとした時だった。

パンパンに詰められた金庫の中を見て

『もしかしてこれだけあれば、爵位も買えるんじゃないか?』

ふと、そんな事を思いついてしまった。






◇◆◇◆◇

ローザを迎えに行く道すがら――

一人黙って黙々と歩き続けたのが良くなかったのだろう。
無駄に色んなことを考えてしまった。

連れ帰れば、ローザは第四王子妃に諦めてなるのだろうか。
それなら……。
いっそこのまま家には帰さず攫ってしまうのはどうだろう。

「…………」

そんな暗い気持ちに囚われながら扉を叩いた時だった。

「ニコラ?」

思いも掛けずかつての戦友の息子が、そんな気の抜けた声でオレの名を呼んだ。


そうして――

あっさりオレのスキルを無効化し、オレの暗いたくらみを瞬時に打ち砕いて見せたハクタカは、事も無さげに人の姿形を変える事を可能とする大魔道士をオレに紹介し、オレが血を吐くような思いをしてたどり着いた諦めの気持ちをも一瞬にして砕いて見せた。


ずっと。
ずっとこの体はローザに不似合いだから、求婚など望めない。
そう諦めていたのに。

大人の体になれる可能性に気づいてしまった瞬間、もうどうしたって彼女を諦めきれなくなってしまった。
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