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第三章 刺激的なスローライフ
53.【番外編 ローザとニコラス】ベリーとクリームのタルトより甘く⑦ 【side ニコラス】
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「命が惜しくば決して止まるな! 振り返るな!! つっぱしれぇぇぇ!!!」
リザードマンの軍の背後から、一気加勢に洞くつの中に向けて駆け抜けた。
まさかそのまま自分たちが追い詰める先に向け押し通られるとは思ってもいなかったのだろう。
満足に迎撃態勢を取り切れず、まんまとオレ達を取り逃がし激高するリザードマン達の咆哮が後方に響いた。
「無事か?!」
洞くつの中を魔法の明かりで照らしながらそう声をかければ、
「あぁ、まだ何とか生きてるよ」
弱弱しくはあるがそんな人の声が返って来て、オレはホッと詰めていた息を吐いた。
「それにしても、追い詰められた先に自ら飛び込んでくるなんて。お前ら何を考えているんだ??」
負傷し血に染まった利き腕をだらんと垂らした、勇者パーティーの騎士と思しき人物に、呆れたようにそう尋ねられ
「もし、あいつらに勝てるとしたらお前らだけだと思ったんだよ。だから、お前らの怪我をここで治療する為乗り込んできた」
そう答えれば
「賭けにもほどがあるだろう……でも、悪くない判断だ」
癖なのだろう、彼はそう言ってはにかんだように笑おうとして……。
しかしオレ達の命を今後さらなる危険に晒す罪悪感にたえられなかったのだろう、痛まし気に目元を歪めた。
騎士に案内され急いで洞くつを進めば、そこに血濡れの勇者と僧侶が倒れていた。
勇者の方は辛うじて息があるようだが、僧侶の方は既に事切れていた。
神官が長い事回復の魔法を掛け続けた後、ようやく勇者がそのアンバーの瞳をわずかに開いた。
いつまで経っても虚ろなままのその瞳を見て、
「勇者はどうしたんだ??!」
と思わず騎士に詰め寄れば、
「勇者はスキルの使い過ぎのせいで自我崩壊を起こしかけているんだ」
そう言って。
騎士は小さな妹にでもしてやるように、彼女の髪を優しく撫でた。
「だから、この子は今は戦えない。決死の思いでここまでやって来てくれたのに、本当にすまない……。だがしかし、世界はこの子の肩にかかっているんだ。この子をここで死なせるわけにはいかない。頼む、この子を逃がすため、共にここで戦ってくれ」
悲痛な騎士の声に、異を唱える者はいなかった。
オレ達はパーティーを新たに編成し直し、二班に分かれる事にした。
勇者を逃がす為、勇者と共にここからの脱出を図る班と、自らを囮に血路を開く班。
勇者に続き最年少と思しき戦士の少女に、勇者を連れて逃げる役割を任せようとすれば、面倒な事に彼女は
「私も残るよ」
と、頑なに言い張った。
「リザードマンの軍を抜けた先で、勇者を守り戦えるヤツが必要だ」
そう上手い事言いくるめようともしたが、残るの一点張りで頑として聞き入れてくれない。
いい加減、その頑なさに腹が立って
「若いヤツが死に急ぐような真似するんじゃねーよ!」
と声を荒げれば
「年下の君に言われる筋合いは無いな」
と生意気にも笑って言い返された。
「……あのなぁ、こっちは見た目以上に年喰ってんだよ」
かつて師匠が良くしていたように、指先で眉間のシワをもみほぐしながら深いため息をついた時だった。
こんな場面だというのに、彼女がクスクスと楽し気に肩を揺らしながら
「君はかわいらしい見た目をしているのに、存外爺臭い事を言うんだな」
と、また酷く無邪気に笑った。
その笑顔は瑞々しいまでの健やかさと生気に溢れ、目前に迫った死期とはあまりにかけ離れていて……。
これまで未来に執着なんてした事なかったオレの心を、瞬時に酷くあっさりと動揺させてみせた。
「か、かわいらしい見た目で悪かったな! ……ハイハイ、オレはどうせチビだよ」
咄嗟にそんな不貞腐れた様な事を言って、突然降って湧いたそれを何とか下手でもいいから誤魔化そうとした時だった。
「これはずっと私の中だけの秘密だったんだが……実は私はこんなナリをしていながら、かわいいものとか、甘いものが好きなんだ。だから、冷えた麦酒よりも甘い果実酒やタルトの方が好きだし、かっこいいとか男らしい人よりも君の様にかわいい人の方が好きなんだ」
彼女が吐息交じりの酷く甘やかな声で、オレにそう耳打ちした。
「ずっと恥ずかしくて内緒だったんだが、もう構わないだろう。あー、本音を言えてすっきりした!!」
頬を健やかなバラ色に染め大きく伸びをしながら、その瑞々しい長い手足と柔らかな曲線を描く身体を惜しげもなく晒す彼女を見て、オレは自分の耳がどうしようもないくらい熱くなっていくのを抑える事が出来なかった。
リザードマンの軍の背後から、一気加勢に洞くつの中に向けて駆け抜けた。
まさかそのまま自分たちが追い詰める先に向け押し通られるとは思ってもいなかったのだろう。
満足に迎撃態勢を取り切れず、まんまとオレ達を取り逃がし激高するリザードマン達の咆哮が後方に響いた。
「無事か?!」
洞くつの中を魔法の明かりで照らしながらそう声をかければ、
「あぁ、まだ何とか生きてるよ」
弱弱しくはあるがそんな人の声が返って来て、オレはホッと詰めていた息を吐いた。
「それにしても、追い詰められた先に自ら飛び込んでくるなんて。お前ら何を考えているんだ??」
負傷し血に染まった利き腕をだらんと垂らした、勇者パーティーの騎士と思しき人物に、呆れたようにそう尋ねられ
「もし、あいつらに勝てるとしたらお前らだけだと思ったんだよ。だから、お前らの怪我をここで治療する為乗り込んできた」
そう答えれば
「賭けにもほどがあるだろう……でも、悪くない判断だ」
癖なのだろう、彼はそう言ってはにかんだように笑おうとして……。
しかしオレ達の命を今後さらなる危険に晒す罪悪感にたえられなかったのだろう、痛まし気に目元を歪めた。
騎士に案内され急いで洞くつを進めば、そこに血濡れの勇者と僧侶が倒れていた。
勇者の方は辛うじて息があるようだが、僧侶の方は既に事切れていた。
神官が長い事回復の魔法を掛け続けた後、ようやく勇者がそのアンバーの瞳をわずかに開いた。
いつまで経っても虚ろなままのその瞳を見て、
「勇者はどうしたんだ??!」
と思わず騎士に詰め寄れば、
「勇者はスキルの使い過ぎのせいで自我崩壊を起こしかけているんだ」
そう言って。
騎士は小さな妹にでもしてやるように、彼女の髪を優しく撫でた。
「だから、この子は今は戦えない。決死の思いでここまでやって来てくれたのに、本当にすまない……。だがしかし、世界はこの子の肩にかかっているんだ。この子をここで死なせるわけにはいかない。頼む、この子を逃がすため、共にここで戦ってくれ」
悲痛な騎士の声に、異を唱える者はいなかった。
オレ達はパーティーを新たに編成し直し、二班に分かれる事にした。
勇者を逃がす為、勇者と共にここからの脱出を図る班と、自らを囮に血路を開く班。
勇者に続き最年少と思しき戦士の少女に、勇者を連れて逃げる役割を任せようとすれば、面倒な事に彼女は
「私も残るよ」
と、頑なに言い張った。
「リザードマンの軍を抜けた先で、勇者を守り戦えるヤツが必要だ」
そう上手い事言いくるめようともしたが、残るの一点張りで頑として聞き入れてくれない。
いい加減、その頑なさに腹が立って
「若いヤツが死に急ぐような真似するんじゃねーよ!」
と声を荒げれば
「年下の君に言われる筋合いは無いな」
と生意気にも笑って言い返された。
「……あのなぁ、こっちは見た目以上に年喰ってんだよ」
かつて師匠が良くしていたように、指先で眉間のシワをもみほぐしながら深いため息をついた時だった。
こんな場面だというのに、彼女がクスクスと楽し気に肩を揺らしながら
「君はかわいらしい見た目をしているのに、存外爺臭い事を言うんだな」
と、また酷く無邪気に笑った。
その笑顔は瑞々しいまでの健やかさと生気に溢れ、目前に迫った死期とはあまりにかけ離れていて……。
これまで未来に執着なんてした事なかったオレの心を、瞬時に酷くあっさりと動揺させてみせた。
「か、かわいらしい見た目で悪かったな! ……ハイハイ、オレはどうせチビだよ」
咄嗟にそんな不貞腐れた様な事を言って、突然降って湧いたそれを何とか下手でもいいから誤魔化そうとした時だった。
「これはずっと私の中だけの秘密だったんだが……実は私はこんなナリをしていながら、かわいいものとか、甘いものが好きなんだ。だから、冷えた麦酒よりも甘い果実酒やタルトの方が好きだし、かっこいいとか男らしい人よりも君の様にかわいい人の方が好きなんだ」
彼女が吐息交じりの酷く甘やかな声で、オレにそう耳打ちした。
「ずっと恥ずかしくて内緒だったんだが、もう構わないだろう。あー、本音を言えてすっきりした!!」
頬を健やかなバラ色に染め大きく伸びをしながら、その瑞々しい長い手足と柔らかな曲線を描く身体を惜しげもなく晒す彼女を見て、オレは自分の耳がどうしようもないくらい熱くなっていくのを抑える事が出来なかった。
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