上 下
54 / 59
第三章 刺激的なスローライフ

52.【番外編 ローザとニコラス】ベリーとクリームのタルトより甘く⑥ 【side ニコラス】

しおりを挟む
浮浪児だったオレは十四になると同時にギルドに入り、当然の様に冒険者となった。

最初にオレを拾ってくれたのは気のいい古参のパーティーで。
皆はオレの事を下っ端と言うよりも、まるで孫の様にかわいがってくれた。

しかし冒険者稼業は常に死と隣り合わせで……。

「ニコ、俺以上にでっかくなれよ」

そう言い残して死んだ、オレにとって師匠のような存在だった仲間の死を受け入れられなかったせいだろうか。
まだ伸び盛りだったはずなのに、オレの体は不思議とそこでピタリと成長を止めてしまった。

残ったパーティーの皆はそんなオレを酷く心配してくれ、色々な治療者にオレを診せてくれたが、オレの体はそれ以上年を取る事はなかった。

皆がそのことに酷く心を痛めてくれた一方で、別にオレはそのままで構わないと思っていた。

小さなこの体は、力では体格のデカいヤツに劣るが素早さや身軽さでは誰にも負けない。
最初のパーティーが解散となった後、新たに加わったパーティーで、オレは自らの俊敏性を活かし何度も仲間のピンチを救った。

ある時なんかは、線の細さを生かし瓦礫の隙間を潜り抜け森に薬草を取りに走った事もあったし、女装をして魔物に攫われた振りをし、多くの女子供を助けた事もあった。

そう、つまりオレは。
いくつもの出会いと早すぎる別れを繰り返す時の中で、大切な仲間の死を受け入れる事を拒否するかのように成長を拒んだこの体を、密かに気に入っていたのだった。

それに、どうせそのうちオレも遠くないうちにきっと死ぬのだ。
少しばかり実年齢と体の成長に隔たりがあっても、大きな問題はない。

そう思っていたのだが???






◇◆◇◆◇

ローザと初めて会ったのは今から五年前――

魔王討伐の為、北東に向け旅立った勇者一行が突然消息を絶ったと王都のギルドに連絡が入り、彼らの救援の為急遽パーティーが組まれた時だった。

勇者パーティーは本来とっくの昔に隣国に到達しているはずなのに、到着予定の日から既に丸七日経った今も何の音沙汰もないらしい。

途中の峡谷で何かあったに違い無いと踏んだオレは、即席で組んだ仲間達とすぐさま彼らの救援に向かった。




峡谷へ入る道は土砂によって塞がれており、何か想定外が起きたのであろうことがすぐに分かった。

少し迂回し、山道を進んだのち、切り立った崖をロープを使って本来の道へ降りて進む。
長らく道なりに進んだ先に、何やら黒く蠢く巨大な固まりを見つけた。


目を凝らしよくよく見れば、それは黒い鳥の魔物の群れだった。
遠くから炎の魔法を放てば、魔物達は一斉に飛び立ち逃げて行く。

そうして……。
鳥の魔物を追い払った後にそこに残されたのは、おびただしいまでの魔物の死骸だった。

魔物達がアンデッド化して蘇ってくる事のないよう、神官が聖なる光で周囲を浄化している間、凄まじい腐臭に耐え兼ね思わず肩で鼻を覆った。

幸い、そこに人のむくろらしきものは見えなかった。

勇者パーティーは、後退する道を塞がれた状態で魔王軍の奇襲を受けたのだろう。
亡骸が無いのを見るに、辛くも魔物達を退ける事は出来たものの、致命傷を負いどこかに身を隠しているのだろう事が予測される。

「急いだほうがいいな。行くぞ! こっちだ」

魔物の死骸の続く先を見据え仲間にそう声をかければ、即席のパーティーリーダーを任された魔法剣士が、

「分かった、急ごう」

真っ青な顔をしてオレにそう返した。




日暮れ前になり、もうすぐ峡谷も抜けようかというところで、再び少し先に魔物の気配を感じた。

皆に止まるように指示を出し、一人、足音と気配を消して忍び寄る。
すると、そこにいたのは洞くつの入り口を取り囲むように集まっているリザードマンの群れだった。

リザードマンは一匹でも厄介だというのに。
それが群れをなしているなんて。

……いや、これはもはや群れというより、軍と言った方が適切か。


勇者パーティーはあの洞くつの中なのだろう。
リザードマン達が襲い掛からず手をこまねいている様子からして、恐らく中の奴らはまだ息があるはずだ。
しかし、敵を倒してそこから出ていく程の力は残されていないのだろう。

深手を負って洞くつに逃げ込んだのだろう彼らは果たしていつまでもつか……。
恐らく残されている時間はそう長くは無い筈だ。




皆の元に戻り、状況を伝える。

「何匹だ?」

魔法剣士のその問いに

「百、あるいはもう少し」

事実をそのまま陳べれば、彼が打つ手がないとばかりにぐっと拳を強く握りしめるのが分かった。

その反応も当然だ。
オレ達のパーティーは魔法剣士、戦士、神官、弓兵、そしてサポーターのオレのたった四人。
おまけに戦士は百選練磨の屈強な野郎などではなく、先日十七になったばかりの、燃えるように赤い髪と揃いの瞳が美しい女の子なのだ。

何ともお粗末なパーティーだが、王都のギルドにはもう、まともに戦えるのはそんなオレ達くらいしか残っていなかったのだから仕方ない。

そんなオレ達がリザードマンの軍勢と正面からまともにやりあえば、どれだけ健闘したとて半数を倒したところで全滅するのは目に見えていた。


絶望的だと皆が顔を青くする中

「何か策があるんだろう?」

戦士の少女だけが真っすぐオレを見ながらそんな事を言った。

こんな絶望的な状況下だというのに彼女の声は震えてはいなかった。
この中で一番年若いというのに、彼女だけはまだ心が折れていないらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶
恋愛
あぁ……どうしてこんなことになってしまったんだろう。 私は眠っている男性を起こさない様に、そっと寝台を降りた。 私が着ていたお仕着せは、乱暴に脱がされたせいでボタンは千切れ、エプロンも破れていた。 私は仕方なくそのお仕着せに袖を通すと、止められなくなったシャツの前を握りしめる様にした。 そして、部屋の扉にそっと手を掛ける。 ドアノブは回る。いつの間にか 鍵は開いていたみたいだ。 私は最後に後ろを振り返った。そこには裸で眠っている男性の胸が上下している事が確認出来る。深い眠りについている様だ。 外はまだ夜中。月明かりだけが差し込むこの部屋は薄暗い。男性の顔ははっきりとは確認出来なかった。 ※ 私の頭の中の異世界のお話です ※相変わらずのゆるゆるふわふわ設定です。ご了承下さい ※直接的な性描写等はありませんが、その行為を匂わせる言葉を使う場合があります。苦手な方はそっと閉じて下さると、自衛になるかと思います ※誤字脱字がちりばめられている可能性を否定出来ません。広い心で読んでいただけるとありがたいです

処理中です...