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第三章 刺激的なスローライフ
50.【番外編 ローザとニコラス】ベリーとクリームのタルトより甘く④ 【side ローザ】
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「それだけは本当に無い!!!」
何度も何度も、そう必死に否定したのだが。
卿は引きつったような固い笑いを浮かべるだけで、私のそんな言葉を全く信じてくれていないようだった。
折角全てが丸く収まったというのに、ここで変な噂を流されてはたまらないと
「本当にトレーユ殿下の事は何とも思っていないんです!! 寧ろ婚約者候補から外されてホッとしています!!! 何なら、執着され捕まったオーガスタ様を気の毒に思っていますし、同時に殿下のドス黒い執着を知ってか知らずかのほほんとお気楽そうに受け入れているオーガスタ様の事は馬鹿じゃないのかとすら思っています!!!!」
不敬罪を覚悟で洗いざらい思いをぶちまけてみせたのだが……。
私の健闘虚しく、卿の思いつめた様な表情は晴れる事はなかった。
一体これ以上、私にどう弁明しろというのだろう?!
私が片手で頭を覆った時だった。
「ローザ、キミってやつは……。この息が詰まりそうなくらい退屈な社交界で、唯一良い友達になれそうな子が見つかったと思って喜んでいたのに。キミは私の事をそんな風に思っていたのか?」
いつの間にか傍で踊っていたオーガスタ様に、酷く引きつった笑顔でそんな事を言われた。
慌ててオーガスタ様に隙間なくビタっと寄り添うトレーユを見る。
流石のトレーユも今の発言には怒っただろうか?
不敬罪は覚悟の上ではあったが、出来れば家族や領地にお咎めが行くことは勘弁してほしい。
……そう焦ったのだが。
トレーユはオーガスタ様の事しか見えていないようで、周囲の雑音など全く耳に入っていないようだった。
『不敬は謝りますから、助けて下さい!』
才女と名高いオーガスタ様にそう目で助けを乞えば、オーガスタ様はしばらくの間、私に冷たい目線を向けていたが、元々長く怒りが続くタイプではないのだろう。
オーガスタ様は淑女に似つかわしくないどこか下卑た笑い方をしながら
「まあ同じ穴の貉のよしみで、今回は特別に許してやろう。キミが本当に思っている者の名を明かしてやれ。そうすればソレも目を覚ますさ」
そんな事を言った。
思う相手……。
そう言われた瞬間、またしてもニコラスの顔を思い浮かべてしまった私は、改めて自らの思いを自覚し真っ赤になって項垂れた。
昔からかわいいものが好きだった。
それは確かなのだが。
それでも別に年下のかわいい男の子しか愛せないとか、そう言った歪んだ性癖は持ちあわせていなかったはずなのに。
それなのに、どうして私はこうも彼に惹かれてしまうのだろうか。
「絶対……絶対他言しないと誓いますか」
恥を忍ぶあまり思わず敵を睨みつけるように言えば、卿は深刻な顔をして静かに頷いた。
「私が……」
緊張に僅かに震えながら口を開けば、卿がゴクリと小さく唾を飲み込んだ音が聞こえる。
「私がお慕いしているのは…………ギルドの情報屋のニコラス様です」
覚悟を決めてそう言い切り卿を見れば、卿はポカンと口を開けたまま固まってしまった。
愛らしい少年に秋波を送る私の姿を想像し、その余りの気持ちの悪さに二の句が継げなくなったのだろう。
余りのいたたまれなさに、もう何もかも放り出して逃げようと思った時だった。
振り解こうとした私の手をギュッと掴んで、卿が言った。
「私ではだめですか? 私なら貴女と並んでも貴女に恥ずかしい思いをさせない」
確かに卿は私より背が高く容姿端麗だ。
一緒に踊っていて、周囲から感嘆のため息が漏れる事はあっても不釣り合いだとからかわれるような事は無い。
それでも……。
私はやはりダンスの相手はニコラスだったらと願わずにはいられない。
◇◆◇◆◇
曲が終わり――
「……お会いできて光栄でした」
卿は複雑そうな顔をしたまま私の手の甲に小さく口づけを落とすと、他の令嬢達に構うことなくホールを去って行った。
『折角気をまわしてもらったのに。トレーユにも卿にも悪い事をした』
そう反省しながら肩を落とした時だった。
ふと視線を感じ、顔を上げてそちらを見やれば、オーガスタ様がなんだか酷く楽し気にこちらを見てニヤニヤしているのが見えた。
あの方は、自分が今、偏屈な宮廷魔導士の姿をしているのではなく、この国一の才女と謳われ人々の記憶の中酷く美化されたオーガスタ様の恰好をしているのを完全に忘れているに違いない。
注意して差し上げた方が良いかとも思わないでもなかったが、素を皆に分かって貰う方が良いだろうと黙認を決め込むことに決めた。
流石にもう帰ってもいいだろうと思った時だった。
「ローザ、客室でお客様がお待ちだよ」
思いがけず、またオーガスタ様の方からそう声をかけられた。
お客様?
一体誰だろう??
心当たりの無さに首を捻りながら、でもこのままパーティー会場に留め置かれるよりはましだと大人しく指示された客室に向かう。
侍女が開けたドアの先で私を待っていた人物。
驚いた事にそれは、私がまた会いたいとそう願っていた、ニコラスだった。
何度も何度も、そう必死に否定したのだが。
卿は引きつったような固い笑いを浮かべるだけで、私のそんな言葉を全く信じてくれていないようだった。
折角全てが丸く収まったというのに、ここで変な噂を流されてはたまらないと
「本当にトレーユ殿下の事は何とも思っていないんです!! 寧ろ婚約者候補から外されてホッとしています!!! 何なら、執着され捕まったオーガスタ様を気の毒に思っていますし、同時に殿下のドス黒い執着を知ってか知らずかのほほんとお気楽そうに受け入れているオーガスタ様の事は馬鹿じゃないのかとすら思っています!!!!」
不敬罪を覚悟で洗いざらい思いをぶちまけてみせたのだが……。
私の健闘虚しく、卿の思いつめた様な表情は晴れる事はなかった。
一体これ以上、私にどう弁明しろというのだろう?!
私が片手で頭を覆った時だった。
「ローザ、キミってやつは……。この息が詰まりそうなくらい退屈な社交界で、唯一良い友達になれそうな子が見つかったと思って喜んでいたのに。キミは私の事をそんな風に思っていたのか?」
いつの間にか傍で踊っていたオーガスタ様に、酷く引きつった笑顔でそんな事を言われた。
慌ててオーガスタ様に隙間なくビタっと寄り添うトレーユを見る。
流石のトレーユも今の発言には怒っただろうか?
不敬罪は覚悟の上ではあったが、出来れば家族や領地にお咎めが行くことは勘弁してほしい。
……そう焦ったのだが。
トレーユはオーガスタ様の事しか見えていないようで、周囲の雑音など全く耳に入っていないようだった。
『不敬は謝りますから、助けて下さい!』
才女と名高いオーガスタ様にそう目で助けを乞えば、オーガスタ様はしばらくの間、私に冷たい目線を向けていたが、元々長く怒りが続くタイプではないのだろう。
オーガスタ様は淑女に似つかわしくないどこか下卑た笑い方をしながら
「まあ同じ穴の貉のよしみで、今回は特別に許してやろう。キミが本当に思っている者の名を明かしてやれ。そうすればソレも目を覚ますさ」
そんな事を言った。
思う相手……。
そう言われた瞬間、またしてもニコラスの顔を思い浮かべてしまった私は、改めて自らの思いを自覚し真っ赤になって項垂れた。
昔からかわいいものが好きだった。
それは確かなのだが。
それでも別に年下のかわいい男の子しか愛せないとか、そう言った歪んだ性癖は持ちあわせていなかったはずなのに。
それなのに、どうして私はこうも彼に惹かれてしまうのだろうか。
「絶対……絶対他言しないと誓いますか」
恥を忍ぶあまり思わず敵を睨みつけるように言えば、卿は深刻な顔をして静かに頷いた。
「私が……」
緊張に僅かに震えながら口を開けば、卿がゴクリと小さく唾を飲み込んだ音が聞こえる。
「私がお慕いしているのは…………ギルドの情報屋のニコラス様です」
覚悟を決めてそう言い切り卿を見れば、卿はポカンと口を開けたまま固まってしまった。
愛らしい少年に秋波を送る私の姿を想像し、その余りの気持ちの悪さに二の句が継げなくなったのだろう。
余りのいたたまれなさに、もう何もかも放り出して逃げようと思った時だった。
振り解こうとした私の手をギュッと掴んで、卿が言った。
「私ではだめですか? 私なら貴女と並んでも貴女に恥ずかしい思いをさせない」
確かに卿は私より背が高く容姿端麗だ。
一緒に踊っていて、周囲から感嘆のため息が漏れる事はあっても不釣り合いだとからかわれるような事は無い。
それでも……。
私はやはりダンスの相手はニコラスだったらと願わずにはいられない。
◇◆◇◆◇
曲が終わり――
「……お会いできて光栄でした」
卿は複雑そうな顔をしたまま私の手の甲に小さく口づけを落とすと、他の令嬢達に構うことなくホールを去って行った。
『折角気をまわしてもらったのに。トレーユにも卿にも悪い事をした』
そう反省しながら肩を落とした時だった。
ふと視線を感じ、顔を上げてそちらを見やれば、オーガスタ様がなんだか酷く楽し気にこちらを見てニヤニヤしているのが見えた。
あの方は、自分が今、偏屈な宮廷魔導士の姿をしているのではなく、この国一の才女と謳われ人々の記憶の中酷く美化されたオーガスタ様の恰好をしているのを完全に忘れているに違いない。
注意して差し上げた方が良いかとも思わないでもなかったが、素を皆に分かって貰う方が良いだろうと黙認を決め込むことに決めた。
流石にもう帰ってもいいだろうと思った時だった。
「ローザ、客室でお客様がお待ちだよ」
思いがけず、またオーガスタ様の方からそう声をかけられた。
お客様?
一体誰だろう??
心当たりの無さに首を捻りながら、でもこのままパーティー会場に留め置かれるよりはましだと大人しく指示された客室に向かう。
侍女が開けたドアの先で私を待っていた人物。
驚いた事にそれは、私がまた会いたいとそう願っていた、ニコラスだった。
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