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第三章 刺激的なスローライフ
41.危険思想??
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「そこまで!」
ローザの落ちついた声に、ニコラがゆっくり剣を下ろし。
その次の瞬間、トレーユが崩れ落ちるようにして剣を取り落としながらその場にガクリと膝をついた。
「かつて王都を守っていた最高ランカーのパーティーを相手に一人で相手にしたようなものだ。トレーユは良く頑張ったよ?!」
自責の念に駆られ、今にも切腹しかねない表情のトレーユを慌てて懸命に慰めるカルルの言葉を聞いて、そういう事かと戦いの間中疑問に思っていたことが腑に落ちた。
ニコラと組んで戦うのは始めてなはずなのに。
どうしてニコラは、あんなにもスムーズに俺を上手く動かす事が出来るのかと不思議に思っていたが。
何の事はない、ニコラは俺に何が出来るのかいちいちその場で考えていた訳ではなく、かつてのパーティーメンバーにしていた指示をそのまま俺に出していたのだ。
メンバー全員の役割を、ぶっつけ本番、俺一人に立ち回らせるなんて。
ニコラは肝が据わっているというか、無茶苦茶というか。
よくよく考え、無茶苦茶やらされていたのだなと恐ろしくなった時だった。
「姉上を王妃の座に戻すチャンスだったのに……あぁ、どうして僕はいつだってこんなにも無力なのか……」
トレーユがそう言って、また地面をその真っ白な手袋が汚れるのも厭わず拳で強く叩いた。
『いつだってこんなにも無力』
トレーユのスキルが俺のなんかよりも強力だって、トレーユ自身さっき言っていた癖に。
そんなトレーユも俺と同じようなことを思って苦しむのだなと思えば、最早下剋上を為した爽快感を感じるどころか、トレーユの絶望感を他人事と割り切る事が出来なくなって、
「……俺の負けでいい」
そう言えば
「はあぁぁ?!!」
ニコラが心底信じられないといったようにそんな大声を出した。
「二対一だったんだ。一対一なら俺が負けていた!」
俺がきっぱりそう言い切れば
「当たり前の事を言うな! 『矛盾』のスキルを持つ賢者様にお前一人で勝てる程、世の中甘くねーんだよ! 洗脳が解けたからって早速自惚れるのもいい加減にしろ!!」
ニコラがそう言ってまたバシンと俺の背を蹴った。
「分かってるよ! だから俺の負けだって認めるって言ってるんだろう!!」
「ハクタカ、キミが優しいのは分かったけどキミもちょっと落ち着け?!トレーユとハクタカ、どっちが強いかとかは心底どうでもいいんだけど。キミが負けを認めたら私は、王家はどうなる??! お人よしもいいけれど、少しは考えて物を言ってくれないか」
俺とニコラの言い合いを聞いていたカルルが、頭痛がイタイとばかりにこめかみの辺りを手で押さえながら、ヤレヤレと首を横に振りそんな事を言うから
「……思ったんだが、俺が『催眠』を、街の人々だけでなく王太子と王太子妃とその子供達にもかければ、もしかして誰も傷つかず『オーガスタ様』の帰還が叶うんじゃないか?」
そう思いついたままを口にすれば、それを聞いたカルルが顔を真っ青にしながら口をハクハクさせた。
本来なら王家の人々には強力な守護の魔法がかけられており、『催眠』なんてそうそう効かないだろうし、そもそも『催眠』をかける為に傍に近寄る事も難しい。
しかし、俺にはスキルを重ね掛けする力があるし、こちらにはトレーユがいる。
だから不可能ではないと思うのだが?
「ハクタカ……キミの事は『能力の無駄遣いをさせたら右に出るものはいない』と見くびっていたけど……本当の使い方が分かった瞬間、いきなり王家を丸っとキミの傀儡にするつもりか?!! 危険思想にも程があるだろう!! やるならトレーユとローザの二人を洗脳して私に関する記憶を消して相思相愛にしろ! それなら結婚を望まれているトレーユもローザも、これまで通り自由に生きたい私も、皆全て幸せになって解決だろう???」
カルルの絶叫を聞き、
『それも一理あるか?』
と納得しかけた時だった。
「ダメに決まってんだろう!!!!」
何故かニコラが大慌てで、そんなカルルの案を否定した。
そうして
「あーもう!!」
そういいながら、ニコラが何で誰もその可能性に思い至らないんだと、苛立ったようにぐしゃぐしゃと自分の頭を掻きながら
「大体王家の人間を洗脳するなんて大罪にハクタカが手を染めずとも、トレーユ、お前がそこの辺境伯のお嬢さんと結婚して将来兄王の跡を継げば初めから済む話だろう!!」
そう言い捨てた。
「あっ!」
「なんだって??!」
「なるほど……」
「僕が???!」
ニコラの言葉に思わず俺達四人の驚きの声が重なった。
ローザの落ちついた声に、ニコラがゆっくり剣を下ろし。
その次の瞬間、トレーユが崩れ落ちるようにして剣を取り落としながらその場にガクリと膝をついた。
「かつて王都を守っていた最高ランカーのパーティーを相手に一人で相手にしたようなものだ。トレーユは良く頑張ったよ?!」
自責の念に駆られ、今にも切腹しかねない表情のトレーユを慌てて懸命に慰めるカルルの言葉を聞いて、そういう事かと戦いの間中疑問に思っていたことが腑に落ちた。
ニコラと組んで戦うのは始めてなはずなのに。
どうしてニコラは、あんなにもスムーズに俺を上手く動かす事が出来るのかと不思議に思っていたが。
何の事はない、ニコラは俺に何が出来るのかいちいちその場で考えていた訳ではなく、かつてのパーティーメンバーにしていた指示をそのまま俺に出していたのだ。
メンバー全員の役割を、ぶっつけ本番、俺一人に立ち回らせるなんて。
ニコラは肝が据わっているというか、無茶苦茶というか。
よくよく考え、無茶苦茶やらされていたのだなと恐ろしくなった時だった。
「姉上を王妃の座に戻すチャンスだったのに……あぁ、どうして僕はいつだってこんなにも無力なのか……」
トレーユがそう言って、また地面をその真っ白な手袋が汚れるのも厭わず拳で強く叩いた。
『いつだってこんなにも無力』
トレーユのスキルが俺のなんかよりも強力だって、トレーユ自身さっき言っていた癖に。
そんなトレーユも俺と同じようなことを思って苦しむのだなと思えば、最早下剋上を為した爽快感を感じるどころか、トレーユの絶望感を他人事と割り切る事が出来なくなって、
「……俺の負けでいい」
そう言えば
「はあぁぁ?!!」
ニコラが心底信じられないといったようにそんな大声を出した。
「二対一だったんだ。一対一なら俺が負けていた!」
俺がきっぱりそう言い切れば
「当たり前の事を言うな! 『矛盾』のスキルを持つ賢者様にお前一人で勝てる程、世の中甘くねーんだよ! 洗脳が解けたからって早速自惚れるのもいい加減にしろ!!」
ニコラがそう言ってまたバシンと俺の背を蹴った。
「分かってるよ! だから俺の負けだって認めるって言ってるんだろう!!」
「ハクタカ、キミが優しいのは分かったけどキミもちょっと落ち着け?!トレーユとハクタカ、どっちが強いかとかは心底どうでもいいんだけど。キミが負けを認めたら私は、王家はどうなる??! お人よしもいいけれど、少しは考えて物を言ってくれないか」
俺とニコラの言い合いを聞いていたカルルが、頭痛がイタイとばかりにこめかみの辺りを手で押さえながら、ヤレヤレと首を横に振りそんな事を言うから
「……思ったんだが、俺が『催眠』を、街の人々だけでなく王太子と王太子妃とその子供達にもかければ、もしかして誰も傷つかず『オーガスタ様』の帰還が叶うんじゃないか?」
そう思いついたままを口にすれば、それを聞いたカルルが顔を真っ青にしながら口をハクハクさせた。
本来なら王家の人々には強力な守護の魔法がかけられており、『催眠』なんてそうそう効かないだろうし、そもそも『催眠』をかける為に傍に近寄る事も難しい。
しかし、俺にはスキルを重ね掛けする力があるし、こちらにはトレーユがいる。
だから不可能ではないと思うのだが?
「ハクタカ……キミの事は『能力の無駄遣いをさせたら右に出るものはいない』と見くびっていたけど……本当の使い方が分かった瞬間、いきなり王家を丸っとキミの傀儡にするつもりか?!! 危険思想にも程があるだろう!! やるならトレーユとローザの二人を洗脳して私に関する記憶を消して相思相愛にしろ! それなら結婚を望まれているトレーユもローザも、これまで通り自由に生きたい私も、皆全て幸せになって解決だろう???」
カルルの絶叫を聞き、
『それも一理あるか?』
と納得しかけた時だった。
「ダメに決まってんだろう!!!!」
何故かニコラが大慌てで、そんなカルルの案を否定した。
そうして
「あーもう!!」
そういいながら、ニコラが何で誰もその可能性に思い至らないんだと、苛立ったようにぐしゃぐしゃと自分の頭を掻きながら
「大体王家の人間を洗脳するなんて大罪にハクタカが手を染めずとも、トレーユ、お前がそこの辺境伯のお嬢さんと結婚して将来兄王の跡を継げば初めから済む話だろう!!」
そう言い捨てた。
「あっ!」
「なんだって??!」
「なるほど……」
「僕が???!」
ニコラの言葉に思わず俺達四人の驚きの声が重なった。
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