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第三章 刺激的なスローライフ

38.枷

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『ニコがね、パーティー解散後、危険な仕事ばかり好んで引き受けているのは、マクシムの死に負い目を感じているからなの』

いつだったか。
母さんがニコラの背を心配そうに見送りながらそんな事を言っていた。

ニコラは自分が弱かったばかりに自分をかばって父さんが怪我を負ったから。
だからあの日、父さんは前線を退かざるを得なくなって、そのせいで死んだんだって思って思いを消せないでいるんだって。

ディフェンダー防御役補助役サポーターを守るのは当然の事で、ニコラのせいではないのにね』

母さんや周りが心配して、ニコラのせいではないと声をかける度、ニコラはそんな事分かってるって不敵に笑って返す癖に。
まるで死に急ぐように危険な戦地に身を投じてばかりいるのだと、母さんは言っていた。

『だからハクタカ。いつか、あなたがニコのその枷を解いてあげて』

母さんが言っても駄目だったんだ。
俺がニコラが気に病む事じゃないって言ったって聞きゃしないよ。
そう言った俺に

『まぁ、ニコはあんなかわいらしい容姿をしてるのに、誰よりも頑固だからね』

そう言って母さんはカラっと笑った。

『別に、言葉で説得する必要はないのよ。どんなに言葉を尽くされようと、傷がそう容易く癒えるものでないことは、ハクタカ、あなたが一番良く分かっているでしょう? ……そうね、いつかニコにあなたが立派にこの街を旅立つ姿を見せて安心させてあげて頂戴。そうすればきっとニコはその行動を改めると思うの』






◇◆◇◆◇

ずっと。

ずっと俺は母さんのその言葉を鵜呑みにして、ニコラが危険な任務にばかり赴くのは彼が死に急いでいるからだと思っていた。
でも……。

どうやらその見解は間違っていたようだ。

『お前が行く必要はない。代わりにオレが行く。だからハクタカ、お前はマクシムの分も長生きしろよ?』

ずっと頭の中に靄がかかったように思い出せないでいたがあの日、ニコラは夕日を背に俺に向かいそう言ったのだ。


ニコラはパーティーの補助役サポーターであり司令塔コントローラーでもあったと聞く。

時に非情な判断を強いられる為、強い精神力を必要とされる司令塔コントローラーを務められるだけの者が、仲間の死をきっかけにただ死に急ぐような馬鹿な真似をするはずがない事など、少し考えれば分かったはずだったのに。

何と言えばいいのか分からなくなって、癖で足元に視線を落とそうとした時だった。

「戦えよ、ハクタカ! 強敵と渡り合うのは不可能じゃないことを自分に示してとっととどこへなりと自由に旅立て!!」

不意にニコラがグッと目の端を苦し気に歪ませ、わずかに声を詰まらせながらもう一度俺に向かって叫んだ。

「オレの憧れの一人であったお前の親父のように……いや、それ以上の冒険者にお前なら、お前ならなれるって何度も言ってるだろうが!!!」

そもそも生き急ぐニコラを反面教師に見ていられなくて、俺はスローライフを目指して来たというのに。
ニコラは本当に勝手な事ばかりいうなぁ。


今まで守ってくれてありがとうとか、そんな殊勝な言葉は俺達の間にはむず痒いばかりで相応しくないように思われて。

「『矛盾』のスキルを持つ賢者様に勝って変に目立ちたくはないのだが、ニコラに旅立つ姿を見せて安心させるの枷を解くっていうのが母さんとの約束だしな」

そう言って王都で流行っている芝居の、全てお膳立てされなければ動き出さないものぐさな主人公を気取ってヤレヤレと首を横に振って見せれば、ニコラが小さく鼻を啜った後、ハッといつもの調子で皮肉っぽく嗤った。


「策は? あるんだろう??」

これ以上自分を卑下するつもりもないが、しかし流石に無策でトレーユに勝てるとは思えず、そう短く尋ねれば

「お前のスキルを言ってみろ」

ニコラがまた思いも掛けない事を言い出した。

俺のスキル?
いつも

『“親の七光り”だなんて、だっせぇスキル名つけられたよな!』

って俺を指さし爆笑しているくせに。
急にまた何の嫌がらせだ?

「いいから言ってみろ!」

ニコラの蹴りを避けながらしぶしぶ口を開く。
俺のスキルは

「“継承”」

自分の口から思いがけない言葉が出て、驚きのあまり俺は思わず自らの口を手でふさいだ。
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