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第三章 刺激的なスローライフ

36.取引しましょう??

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暴走するトレーユを制止出来る気が最早しなくて。
諦めてもうひと眠り現実逃避しようと思った時だった。

「ハクタカ! ハクタカ、助けてくれ!!」

カルルが急に俺に向けて縋るように必死に手を伸ばしてきた。

もしかして、よりによって他の男にカルルが助けを求めた事が、どうしようもなく気に障ったのだろうか?
トレーユがもう笑いもせずに、絶対零度の目で俺を見ている。

うん、怖いって。
口元だけ笑ってて怖いとか散々文句言って悪かったって。
謝るから、せめて口元だけでも笑っていて欲しい。

城の修繕にカルルの武装解除にと、残り1回を残しスキルを全て使い果たしていたせいで体は疲れ休息を欲していたのに。
恐怖にすっかり目が冴えてしまった。


「いや、流石に今回は俺には無理だって!!」

だって。
この人、パーティの協力があったとは言え、魔王より強い人なんだよ?
そう思いながら、カルルに向かい首を横に小さく、しかし激しくブンブン振れば

「あぁもう! ! だから君は本当に察しが悪いな!!」

何故かカルルにまで、そう怒られて八つ当たりされてしまった。


そんな言われても……。

何度も言うが俺が持つのははずれユニークスキル。
対するトレーユは『矛盾』のスキルを持つ賢者様だぞ?!

カルルは俺に、いったいどうしろと言うのだ???

そう首を傾げた時だった。


「オレと取引しませんか?」

これまで傍観者を気取っていたニコラが、ニッとその菫色の瞳を酷薄そうに細めてカルルに向かいそう言い

「するするするする!!!!!!」

カルルが一も二もなくその言葉に飛びついた。


大丈夫か、カルル?

守銭奴のニコラが取引の際に持ちかける金額はいつだって桁外れだ。

カルルは命惜しさ(?)に、内容も確認せずにニコラと瞬時に契約を結んでいたが。
後に王都に屋敷が買える位の額を請求される可能性に気づいているのだろうか?

でも……。
まぁ、考えてみればカルルは由緒正しき辺境伯令嬢だし、王宮魔道士の給金も破格だと聞くから大丈夫、か?


余計な口を出したが為に、俺に代わりトレーユの絶対零度の視線を浴びてなお、余裕そうに笑うニコラを見て

『なんだ、ニコラは攻撃のスキルも持っていたのか二コラには奥の手があったのか

そう思いホッとした時だった。

「ハクタカ、すぐにポケットからその出鱈目な防御力を誇るヒヨコを出してオレに渡せ」

ニコラが俺に向かいそんなことを言った。

なるほど?
オーちゃんで守備を固めるんだな??

そう思いニコラにオーちゃんを渡した瞬間だった。
突然、ニコラが俺に向かいパチンと指を弾いた。






◇◆◇◆◇


「……タカ? ……クタカ! ……ハクタカ!!」

誰かに体を激しく揺さぶられ。
ハッとして目を開けば、目の前に俺を心配するローザの顔があった。

俺は……。

一瞬、自分の置かれた状況が分からなかった。
しかし、体から疲れが抜け軽くなっている事から、どうやら深く眠り込んでいたらしい事に気づく。

ニコラに嵌められたのか? 
クソ!!
馴染みだと思って油断した。
カルルとトレーユはどうなった??

寝起きの脳を無理やりフル回転させつつ、焦ってガバッと跳ね起きた時だった。

「よし、やれ! ハクタカ!!」

俺を裏切り、とっくに逃げたとばかり思っていたのに?
また悪びれることなく何故か踏ん反り返って、何故かニコラが実に偉そうに俺にそう命令した。


「はっ?? ……やるって?? 何を???」

訳が分からずニコラに聞き返せば、

「ほんの一瞬だが深く眠る事で、スキルのリミットも戻っただろう? サポートしてやるから黙ってオレの言う通りとっとと働け」

俺の察しが悪い事は既に織り込み済みなのだろう。
ニコラは何の感動もなさげに簡潔にそう言うと口元を隠し、俺にだけ聞こえるよう指示を出した。

「でも?!」

「質問は無しだ!!」

そして次の瞬間、ニコラが叫んだ。

「雷撃!!」

「はぁ?! ちょ、ちょっと待て!!」

強い光が当たりを包むと同時に、カルルの絶叫が響く。

「私たちを殺す気かぁ?!!!!」

強く白い光の中。
トレーユが歯噛みして咄嗟にカルルをその背に庇うのが微かに見えたから、俺は酷く焦りながら、しかしせめてカルルだけでも助けねばと、ニコラに言われた通りニコラの十八番おはこであり俺には使えないはずの『強奪』のスキルを使った。
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