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第三章 刺激的なスローライフ

28.ニコラ

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一体全体誰だろうと二階の覗き窓から外を伺えば、扉の前には青みが買った黒髪の男が一人立っていた。

「ニコラ??」

驚いて思わず上からそう声をかければ、彼は全く驚いた風もなく俺に向けて気さくに手を挙げて見せる。

「あの子、ハクタカの知り合い?」

アリアにそう聞かれ、

「あぁ、アレはニコラ。王都のギルドに籍を置く情報屋の守銭奴だ」

と、酷く微妙な気持ちでそう答えた。

ニコラは童顔で背も俺より低い為、一見するとアリアが『あの子』と称したように十六、七の子供に見えるが……。
実際にはそろそろ三十路に手が届く大先輩オッサンだ。

ちなみに本人はその見た目の事を

『諜報活動にピッタリだろう?』

と言って、気にしていない風を装っているが。

『がきんちょ』
『チビ』
『お嬢ちゃん』

そうからかって来た相手を、何人もその場で治療院送りにしているのを見ているので、その言葉を鵜呑みにする気には到底なれない。




下に降りて扉を開けると、ニコラは

「初めまして、ローザ嬢。ニコラスと申します。お会いできて光栄です」

そう言ってアリアには目もくれず、ローザの手を取りその手に口づけを落とすと、どことなく酷薄そうで冷たげな印象を抱かせる勿忘草色のその瞳すっと細めて見せた。

その実にキザったらしい振る舞いに、俺とアリアがドン引きする中。
思いがけずローザが、最近ではすっかり日焼けの跡も消えすっかり貴族の令嬢らしく白くなった耳と頬を、何故か酷く恥ずかし気に朱に染めた。

その時だった。
そんなローザの様子を満足げに見たていたニコラが

「ご家族の方が皆心配して探されています。さあ、一緒に戻りましょう!」

そう言うなり、その指をパチンと弾いた。
次の瞬間、ローザの体からガクッと力が抜け、ニコラの腕の中に崩れ落ちる。

「ローザ?!!」

ニコラはおそらく、眠りの魔法をローザにかけたのだろう。
意識を失った、自分よりも背の高いローザを危なげなく横抱きにして、

「じゃあな、ハクタカ」

全く悪びれる風もなく俺たちに背を向けた。


「ローザに何をしたの?! ローザを離して!!」

「待てアリア! うかつに踏み込むな!」

全てニコラの計算通りだったのだろう。

そんな俺の忠告を聞かずニコラの手を掴んで止めようとしたアリアをさっと躱し、ニコラがまたパチンと指を弾き。
その次の瞬間、アリアの体からガクンと力が抜けるのが分かった。

倒れて怪我をせぬよう慌ててアリアを抱き留めた時だった。

「おやすみ」

そう言ってニコラが俺に向けて指を弾いた。


次の瞬間俺は、アリアをギュッと抱きしめ深い眠りに落ちていく……と覚悟したのだが?

「あれ?なんともない」

「馬鹿な?! 火竜だって一発だぞ??」

眠りに落ちることなく踏みとどまった俺を見て、ニコラが焦ってパチンパチンと指を弾いた。
しかし不思議なことに眠気は一向に訪れない。


はて?
俺に眠り魔法への耐性など無いハズだが??
何でだ???

自分でもそう不思議に思った時だった。
俺の胸ポケットの中から

「ぴー!!」

とオーちゃんの勝ち誇ったような声がした。

そうか!
オーちゃんに欠けていた守護が、ニコラの眠りの魔法をから俺を守る盾の役割をしてくれたのか!!

良くやったとオーちゃんの頭を指先で一撫でし、ニコラの攻撃を警戒しながら聖なる光を放てば、ローザとアリアが同時にハッと目を開いた。




「はー、これだからハクタカを相手にするのは嫌なんだ。出鱈目というか、相性最悪というか。勘はいい癖に察しが悪いというか……」

そうブツブツ文句を言いながら。
俺とアリア両サイドから喉元に剣を突きつけられたニコラが、ローザを丁重に床に降ろすのを確認した後、何でこんな真似したのか説明しろと凄めば、

「娘の身を案じたローザ嬢の両親に『娘を探して連れ戻してくれ』って頼まれたんだよ。説得したところでどうせ平行線だろうから、強引に連れ帰らせてもらおうと思ってな。無理だと分かった今、もうしないから剣を仕舞え」

と、ニコラは全く悪びれることなく言った。
そして

「ホントだってもう無理にローザ嬢を連れ去ろうとしたりしない。その代わりハクタカ、お前、オレの仕事の邪魔をした詫びにオレに協力しろ」

と、何故か踏ん反り返って実に偉そうに俺にそう命令したのだった。
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