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第二章 スローライフ希望のはずなのに、毎日それなりに忙しいのだが?

16.サラマンダーの名前

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「へー! 撫でることも出来るんだ、火竜が人に懐くなんてね!! 竜にも刷り込みがあるなんて初めて知ったよ。」

人見知りして目を必死にそらそうとする火竜に構わず、カルルがグルグル火竜の周りを周りながらあれこれ観察している。

「それで? ウチ研究室で引き取ればいいの??」

「えー!!」

カルルの申し出にアリアが不満の声を漏らした。

「違うの?? でもここじゃ飼えないだろう? きっともっと大きくなるよ。餌だって困るんじゃない?」

カルルの問いにアリアが

「でもぉ……」

と口を尖らせる。

「じゃあ、私のスキルで小っちゃくしてあげようか?」

「そんな事出来るの?」

目を輝かせるアリアに向かって

「まっかせなさーい!」

カルルが得意気に笑ってまたパチンと指を弾いた。
するとあっという間に火竜がスルスルと縮んでいき、再び子猫サイズに姿を変える。

火竜もこの姿が気に入ったのだろう。
再び子猫の様な仕草で俺の肩に飛び乗って来た。


「サラマンダーか、悪くないな。名前はどうするんだ?」

トカゲ化した火竜を見て復活したトレーユが、大仰に頷きそんな事を言った。

「名前かぁ」

「タマゴサンドは??」

アリアの言葉に、トレーユがまた変な想像を思い出してしまったのか瞬時に口元を抑える。




結局悩んだ挙句、名前はシューに決めた。
異国に伝わる炎の妖精の名を短く縮めたものだ。


「あぁ、キミは随分面白いスキルを持っていたんだね」

突然またパチンと指を鳴らして、トレーユから俺に姿を変えたカルルがそんな事を言った。

「カルルは、姿を変えた者の記憶を見る事が出来るんだそうだ」

トレーユにそう言われて、勝手に記憶を盗み見られた不愉快さに眉を顰める。


「スキルの名は……『親の七光り』? また面白い名前を付けられたもんだな」

またしてもカルルが吹きだした。
本当に失礼なヤツだ。

まぁそういった、俺のスキルに関するリアクションには慣れてはいるからどうでもいいが。

「それにしても、惜しい事をしたね。彼がいれば魔王討伐はもう少し楽だっただろうに」

カルルの話にトレーユが頷いた。
またそれ買いかぶりかと肩を竦めれば

「そうなの? ハクタカはやっぱりすごい人だったんだね」

何も覚えていないアリアが嬉しそうに笑った。

俺がスキルを失った経緯を知ればアリアが気に病むだろう。
だから、

『余計な事は話すなよ』

とトレーユとカルルを目で牽制すれば、二人はアリアにバレないよう小さく頷いてくれた。


その時だった――
突然、物凄い吹雪が俺達を襲った。

季節は初夏を迎えようかというこの時期に吹雪だなんておかし過ぎる。

右腕をかざしし、激しく吹き込んでくる雪から細めた目を庇いつつ外を見れば、さっきまで澄み渡るような青だった空は、いつの間にか不気味な緑色に染まっている。

そしてそれらの不吉さに呼応するかのように、どこからか魔物の咆哮が不気味に響いてきた。


「ひとまず洞窟の奥に避難しよう!」

トレーユの言葉に従い、皆で洞窟の奥に潜り身を寄せ合うようにして吹雪をやり過ごしす。




半刻程経ったころだろうか。

ようやく吹雪が収まった気配がしたので、急いで洞窟を出て積もった大量の雪を掻き分け山を登り周囲の様子を探れば……。

辺りは見渡す限り、すっかり季節外れの深い雪に覆われてしまっていたのだった。
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