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第二章 スローライフ希望のはずなのに、毎日それなりに忙しいのだが?
10.流れ星に願いを込めて【side アリア】 ①
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村の子ども達とおしゃべりをしていた時のことだった。
「昨日の流れ星見た?」
一人の子のその言葉に
「見た!」
私以外の皆が目を輝かせながらそう返した。
何でもこの時期、この村では流れ星が多くみられるのだという。
そして、流れ星が消える前に願いをかければそれが叶うのだと、子ども達は嬉しそうに教えてくれた。
願い。
そう聞いた瞬間、何故かまず最初に思い浮かんだのはハクタカの顔だった。
ハクタカは王都でもそうだったが、若者の少ないこの村では更に人気者だ。
ハクタカから恋人がいるのだという話を聞かされた事は無いが……。
もし素敵な人が現れたら、ハクタカはやっぱり私を置いてその人の元に行ってしまうのだろうか。
そんな事を考えてしまったせいだろう。
その日の夜、私は寝付けず部屋の窓から空ばかり見ていた。
翌朝――
「寒くて眠れなかったか?」
私の目の下に出来たクマを見つけたのだろう。
ハクタカがそんな事を言った。
「えっと……」
まさか、ハクタカのまだ存在せぬ恋人の存在に胸を痛めて眠れなかったなどとも言う訳にもいかず。
何と答えたものかと思っていた時、ふと子供達との会話を思い出した。
「……流れ星。そう! 昨日子ども達から流れ星を見たって話を聞いて、探してたんだけど見つけられなくて寝るのが遅くなっちゃった」
「流れ星? 上にばっかり気を取られて川に落ちたりするなよ??」
ハクタカにとって、私は相変わらず犬や小さな子どもの様に庇護し世話を焼いてやる存在に変わりないらしい。
ハクタカは呆れたようにため息をつくと、しかし優しく優しく目を細めながら、そんな小さな子どもに注意するような事を言った。
ハクタカは優しい人だ。
だから、ハクタカには好きな人と結ばれて幸せになる権利があるって分かっているのに……。
『ハクタカとこれからもずっと一緒にいられますように』
そんな身勝手な願いをかけてしまいたくなって。
結局その日の晩も、私は眠らず空ばかり見てしまったのだった。
◇◆◇◆◇
そうやって私が夜空ばかり見ては、目の下のクマを深くしていたある日――
ハクタカが朝から何だか忙しそうにしていた。
どこかに出かける予定でもあるのか、何やら楽し気に準備をしている。
「どこか遠出するの? 手伝おうか?」
そう尋ねるも
「大したことじゃない」
そう言ってハクタカはそれ以上の事は自ら話してくれることはなかった。
もし、詳しく尋ねたら教えてくれたのかもしれない。
でも、リュックに詰めた中身を見たハクタカの目と口元が小さく甘やかな弧を描いたから……
『久しぶりに恋人に会いに行くんだ』
そう言われたら立ち直れない、そう思って。
それ以上尋ねることが出来なかった。
「アリア、今からちょっと出かけられるか?」
夕方前になって、ハクタカがそんな事を言いだした。
「こんな遅い時間に?」
少し驚きつつも特に用事も無いので頷けば、ハクタカが嬉し気に、用意していたあのリュックを背負った。
自分を一緒に連れて行くという事は、恋人に会う為に用意していたのではなかったのだろうか?
急に軽くなった私の心とは対照的に、ハクタカが背負ったリュックは魔王討伐にでも出るつもりなのかと思うくらい重たげに、パンパンに膨れていた。
◇◆◇◆◇
日が暮れる前に、二人でなだらかな山道をのんびり登って行く。
暖冬故なのか道に雪は無く、積もったフカフカの落ち葉を踏む感触と針葉樹のさわやかな匂いが、思わず歌いだしてしまいたくなるくらい心地良かった。
山頂に着いて間もなく、ハクタカが何やら焚火の準備を始めた。
私が小枝を集めて火にくべれば、ハクタカが満足そうにウンウンと頷いたのち、リュックから大きな蓋付きの鍋と牛乳の入った瓶と、チーズの入った包みを取り出した。
鍋の中には既に小さく刻んで煮込まれた野菜と鶏肉が入っていた。
そうして、ハクタカはそこに持っていた瓶の牛乳を全て入れると蓋を外したまま火にかけた。
ぐつぐつ煮たったタイミングで、ハクタカはそこにチーズを入れて更にそれを煮込んでいった。
傾き始めていた日が、その色をオレンジに変えた頃――
ハクタカが鍋の蓋を開ければ、モワンと白い湯気が豪快に立ち上がって、周囲が暖かで実に良い匂いに包まれた。
「おいしー!!」
お行儀悪くスプーンを加えたままそう言えば、ハクタカが嬉しそうに笑って私のお皿に軽く火であぶって温めたパンをのせた。
パンにシチューを搦める美味しさに身もだえれば、ハクタカが更にチーズをのせて蒸したジャガイモを私のお皿に追加してくる。
「…………」
ハクタカはどうも私の事を常に腹ペコだと思っている節がある。
そういうところが、村の子ども達から『お爺ちゃんみたい』だと言われる所以なのだろう。
そう思えば可笑しくなって思わずフフッと声に出して笑った時だった。
私の方を見ていたハクタカが鏡の様にフワッと破顔した。
「っ!!」
不意に繰り出してくるハクタカの甘い笑顔は本当に心臓に悪いと思う。
パッとハクタカから目を逸らした時だった。
思いがけず紺碧の空を銀色に輝く星が一つ、煌めく光の尾を引きながら流れ落ちて行くのが見えた。
「流れ星!」
「王都では毎年この時期流星群が見られるからな。もしかしたらと思ったんだけど、『あたり』だったみたいだな」
ハクタカがそう言って、いたずらが成功した子どもの様に笑った。
手早く後片付けを済ませたハクタカは、家にある一番厚手のラグを地面に敷くと、その上に私を座らせ、同じく家にある一番暖かい毛布を掛けてくれた。
「これがリュックが嵩張っていた原因かぁ」
毛布に移っていたハクタカの香りに思わずドギマギしてしまい。
お礼を言うのも忘れ、目を泳がせながら思わずそんなどうでもいい事を言えば
「飴も沢山持ってきたからな。腹減ったら言えよ?」
そう言ってハクタカがまたカッコいいお兄さんの顔で、そんなお爺ちゃん見たいな事を言った。
「昨日の流れ星見た?」
一人の子のその言葉に
「見た!」
私以外の皆が目を輝かせながらそう返した。
何でもこの時期、この村では流れ星が多くみられるのだという。
そして、流れ星が消える前に願いをかければそれが叶うのだと、子ども達は嬉しそうに教えてくれた。
願い。
そう聞いた瞬間、何故かまず最初に思い浮かんだのはハクタカの顔だった。
ハクタカは王都でもそうだったが、若者の少ないこの村では更に人気者だ。
ハクタカから恋人がいるのだという話を聞かされた事は無いが……。
もし素敵な人が現れたら、ハクタカはやっぱり私を置いてその人の元に行ってしまうのだろうか。
そんな事を考えてしまったせいだろう。
その日の夜、私は寝付けず部屋の窓から空ばかり見ていた。
翌朝――
「寒くて眠れなかったか?」
私の目の下に出来たクマを見つけたのだろう。
ハクタカがそんな事を言った。
「えっと……」
まさか、ハクタカのまだ存在せぬ恋人の存在に胸を痛めて眠れなかったなどとも言う訳にもいかず。
何と答えたものかと思っていた時、ふと子供達との会話を思い出した。
「……流れ星。そう! 昨日子ども達から流れ星を見たって話を聞いて、探してたんだけど見つけられなくて寝るのが遅くなっちゃった」
「流れ星? 上にばっかり気を取られて川に落ちたりするなよ??」
ハクタカにとって、私は相変わらず犬や小さな子どもの様に庇護し世話を焼いてやる存在に変わりないらしい。
ハクタカは呆れたようにため息をつくと、しかし優しく優しく目を細めながら、そんな小さな子どもに注意するような事を言った。
ハクタカは優しい人だ。
だから、ハクタカには好きな人と結ばれて幸せになる権利があるって分かっているのに……。
『ハクタカとこれからもずっと一緒にいられますように』
そんな身勝手な願いをかけてしまいたくなって。
結局その日の晩も、私は眠らず空ばかり見てしまったのだった。
◇◆◇◆◇
そうやって私が夜空ばかり見ては、目の下のクマを深くしていたある日――
ハクタカが朝から何だか忙しそうにしていた。
どこかに出かける予定でもあるのか、何やら楽し気に準備をしている。
「どこか遠出するの? 手伝おうか?」
そう尋ねるも
「大したことじゃない」
そう言ってハクタカはそれ以上の事は自ら話してくれることはなかった。
もし、詳しく尋ねたら教えてくれたのかもしれない。
でも、リュックに詰めた中身を見たハクタカの目と口元が小さく甘やかな弧を描いたから……
『久しぶりに恋人に会いに行くんだ』
そう言われたら立ち直れない、そう思って。
それ以上尋ねることが出来なかった。
「アリア、今からちょっと出かけられるか?」
夕方前になって、ハクタカがそんな事を言いだした。
「こんな遅い時間に?」
少し驚きつつも特に用事も無いので頷けば、ハクタカが嬉し気に、用意していたあのリュックを背負った。
自分を一緒に連れて行くという事は、恋人に会う為に用意していたのではなかったのだろうか?
急に軽くなった私の心とは対照的に、ハクタカが背負ったリュックは魔王討伐にでも出るつもりなのかと思うくらい重たげに、パンパンに膨れていた。
◇◆◇◆◇
日が暮れる前に、二人でなだらかな山道をのんびり登って行く。
暖冬故なのか道に雪は無く、積もったフカフカの落ち葉を踏む感触と針葉樹のさわやかな匂いが、思わず歌いだしてしまいたくなるくらい心地良かった。
山頂に着いて間もなく、ハクタカが何やら焚火の準備を始めた。
私が小枝を集めて火にくべれば、ハクタカが満足そうにウンウンと頷いたのち、リュックから大きな蓋付きの鍋と牛乳の入った瓶と、チーズの入った包みを取り出した。
鍋の中には既に小さく刻んで煮込まれた野菜と鶏肉が入っていた。
そうして、ハクタカはそこに持っていた瓶の牛乳を全て入れると蓋を外したまま火にかけた。
ぐつぐつ煮たったタイミングで、ハクタカはそこにチーズを入れて更にそれを煮込んでいった。
傾き始めていた日が、その色をオレンジに変えた頃――
ハクタカが鍋の蓋を開ければ、モワンと白い湯気が豪快に立ち上がって、周囲が暖かで実に良い匂いに包まれた。
「おいしー!!」
お行儀悪くスプーンを加えたままそう言えば、ハクタカが嬉しそうに笑って私のお皿に軽く火であぶって温めたパンをのせた。
パンにシチューを搦める美味しさに身もだえれば、ハクタカが更にチーズをのせて蒸したジャガイモを私のお皿に追加してくる。
「…………」
ハクタカはどうも私の事を常に腹ペコだと思っている節がある。
そういうところが、村の子ども達から『お爺ちゃんみたい』だと言われる所以なのだろう。
そう思えば可笑しくなって思わずフフッと声に出して笑った時だった。
私の方を見ていたハクタカが鏡の様にフワッと破顔した。
「っ!!」
不意に繰り出してくるハクタカの甘い笑顔は本当に心臓に悪いと思う。
パッとハクタカから目を逸らした時だった。
思いがけず紺碧の空を銀色に輝く星が一つ、煌めく光の尾を引きながら流れ落ちて行くのが見えた。
「流れ星!」
「王都では毎年この時期流星群が見られるからな。もしかしたらと思ったんだけど、『あたり』だったみたいだな」
ハクタカがそう言って、いたずらが成功した子どもの様に笑った。
手早く後片付けを済ませたハクタカは、家にある一番厚手のラグを地面に敷くと、その上に私を座らせ、同じく家にある一番暖かい毛布を掛けてくれた。
「これがリュックが嵩張っていた原因かぁ」
毛布に移っていたハクタカの香りに思わずドギマギしてしまい。
お礼を言うのも忘れ、目を泳がせながら思わずそんなどうでもいい事を言えば
「飴も沢山持ってきたからな。腹減ったら言えよ?」
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