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第一章 はずれスキル持ちなのだが?

8.謝る必要なんてない、寧ろ俺は嬉しいのだが?

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初雪の降る夜の事――
俺は仕事からの帰り道、橋の傍で誰かが倒れているのを見つけた。

慌てて駆け寄れば、それは少し癖のあるやや赤みが強い栗色の長い髪をした女の子だった。

「アリア?!」

驚いて腕の中に抱き上げれば、長いまつげがゆっくり震え、小動物を思わせるクリッと大きなアンバーの瞳が真っすぐに俺を見る。

「…………」

アリアは俺の名を呼ぼうと口を開いたが、それが出来ず、何度も苦し気に口を閉じたり開いたりしていた。




長い沈黙の後、アリアは言った。

「ごめんなさい。私、あなたの事知っているはずなのに。あなたの事、何も思い出せないの。……私ね、魔王を倒す時に、一番大切な思い出を贄に使ってしまったの。そうでないとローザとレイラとトレーユを、この世界を守る事が出来なかったから。だから……私は、きっとその記憶の中にいたあなたの事が分からない」

「そうか……」

見ればアリアは、あの日買ってやった綺麗な色の糸で守りの護符がまれた組紐も、可愛らしい石のついた髪飾りも、安物ではあるが丹精込めて作られたことが分かる美しいブローチも。
あれだけ大切そうに受け取ってくれた物全て、何一つ持ってはいなかった。

「ごめんなさい……」

小さく呟くアリアを思わずきつく抱きしめれば、驚いたアリアが俺の腕の中でピキッと固まった。


「謝る必要なんてないよ。俺は……俺は最期にアリアを守れるくらい、アリアが俺との思い出を大切に思っていてくれたことが嬉しいし、アリアを守れたことが誇らしいよ。……アリア、よく頑張ったな」

俺が離れていた年月の分長くなったアリアの髪を労わるように撫でれば。

アリアは俺が誰かも分からぬまま。
それでも、その綺麗な瞳からポロっと涙を零しながら。
かつて共に過ごした時のように、俺の腕にしどけなく寄りかかりながら愛らしく、無邪気に、そして少し大人になったぶん、俺の胸を締め付けるくらい綺麗に笑って見せたのだった。






◇◆◇◆◇

俺の夢は田舎でスローライフを送ること!

そのはずだったのだが?


「ハクタカ、これを村長の所に届けてくれないか?」

「ハクタカ、そのついでに川の水量を確認しておいてくれ」

「ハクタカ遊ぼう」

「ねぇ、ハクタカ。ウチの猫が今朝からどこにもいないの」

「ちょうどよかった、ちょっと味をみてくれないかい?」

俺は相変わらずスローとはかけ離れた忙しい生活を送っている。


「相変わらずハクタカは人気者だね」

走り回る俺を見て、アリアが笑った。

人気者??
便利にこき使われてるの間違いなのだが?


訂正しようかと思ったが、アリアがあまりに楽しそうに笑っているからその勘違いに水を差すのはやめておいた。

スローライフはまだまだ叶いそうにないが……。
不遇な美少女を助けるという野望は達成したので、まぁ良しとしよう。


何の愁いもないように眩しく笑うアリアの胸元にはトパーズの首飾りがあった。

貴重性も低い石に穴を開け、そこに革ひもを通しただけの、実に簡素な物だ。

先日、俺がアリアに贈ったものだった。
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