8 / 59
第一章 はずれスキル持ちなのだが?
8.謝る必要なんてない、寧ろ俺は嬉しいのだが?
しおりを挟む
初雪の降る夜の事――
俺は仕事からの帰り道、橋の傍で誰かが倒れているのを見つけた。
慌てて駆け寄れば、それは少し癖のあるやや赤みが強い栗色の長い髪をした女の子だった。
「アリア?!」
驚いて腕の中に抱き上げれば、長いまつげがゆっくり震え、小動物を思わせるクリッと大きなアンバーの瞳が真っすぐに俺を見る。
「…………」
アリアは俺の名を呼ぼうと口を開いたが、それが出来ず、何度も苦し気に口を閉じたり開いたりしていた。
長い沈黙の後、アリアは言った。
「ごめんなさい。私、あなたの事知っているはずなのに。あなたの事、何も思い出せないの。……私ね、魔王を倒す時に、一番大切な思い出を贄に使ってしまったの。そうでないとローザとレイラとトレーユを、この世界を守る事が出来なかったから。だから……私は、きっとその記憶の中にいたあなたの事が分からない」
「そうか……」
見ればアリアは、あの日買ってやった綺麗な色の糸で守りの護符がまれた組紐も、可愛らしい石のついた髪飾りも、安物ではあるが丹精込めて作られたことが分かる美しいブローチも。
あれだけ大切そうに受け取ってくれた物全て、何一つ持ってはいなかった。
「ごめんなさい……」
小さく呟くアリアを思わずきつく抱きしめれば、驚いたアリアが俺の腕の中でピキッと固まった。
「謝る必要なんてないよ。俺は……俺は最期にアリアを守れるくらい、アリアが俺との思い出を大切に思っていてくれたことが嬉しいし、アリアを守れたことが誇らしいよ。……アリア、よく頑張ったな」
俺が離れていた年月の分長くなったアリアの髪を労わるように撫でれば。
アリアは俺が誰かも分からぬまま。
それでも、その綺麗な瞳からポロっと涙を零しながら。
かつて共に過ごした時のように、俺の腕にしどけなく寄りかかりながら愛らしく、無邪気に、そして少し大人になったぶん、俺の胸を締め付けるくらい綺麗に笑って見せたのだった。
◇◆◇◆◇
俺の夢は田舎でスローライフを送ること!
そのはずだったのだが?
「ハクタカ、これを村長の所に届けてくれないか?」
「ハクタカ、そのついでに川の水量を確認しておいてくれ」
「ハクタカ遊ぼう」
「ねぇ、ハクタカ。ウチの猫が今朝からどこにもいないの」
「ちょうどよかった、ちょっと味をみてくれないかい?」
俺は相変わらずスローとはかけ離れた忙しい生活を送っている。
「相変わらずハクタカは人気者だね」
走り回る俺を見て、アリアが笑った。
人気者??
便利にこき使われてるの間違いなのだが?
訂正しようかと思ったが、アリアがあまりに楽しそうに笑っているからその勘違いに水を差すのはやめておいた。
スローライフはまだまだ叶いそうにないが……。
不遇な美少女を助けるという野望は達成したので、まぁ良しとしよう。
何の愁いもないように眩しく笑うアリアの胸元にはトパーズの首飾りがあった。
貴重性も低い石に穴を開け、そこに革ひもを通しただけの、実に簡素な物だ。
先日、俺がアリアに贈ったものだった。
俺は仕事からの帰り道、橋の傍で誰かが倒れているのを見つけた。
慌てて駆け寄れば、それは少し癖のあるやや赤みが強い栗色の長い髪をした女の子だった。
「アリア?!」
驚いて腕の中に抱き上げれば、長いまつげがゆっくり震え、小動物を思わせるクリッと大きなアンバーの瞳が真っすぐに俺を見る。
「…………」
アリアは俺の名を呼ぼうと口を開いたが、それが出来ず、何度も苦し気に口を閉じたり開いたりしていた。
長い沈黙の後、アリアは言った。
「ごめんなさい。私、あなたの事知っているはずなのに。あなたの事、何も思い出せないの。……私ね、魔王を倒す時に、一番大切な思い出を贄に使ってしまったの。そうでないとローザとレイラとトレーユを、この世界を守る事が出来なかったから。だから……私は、きっとその記憶の中にいたあなたの事が分からない」
「そうか……」
見ればアリアは、あの日買ってやった綺麗な色の糸で守りの護符がまれた組紐も、可愛らしい石のついた髪飾りも、安物ではあるが丹精込めて作られたことが分かる美しいブローチも。
あれだけ大切そうに受け取ってくれた物全て、何一つ持ってはいなかった。
「ごめんなさい……」
小さく呟くアリアを思わずきつく抱きしめれば、驚いたアリアが俺の腕の中でピキッと固まった。
「謝る必要なんてないよ。俺は……俺は最期にアリアを守れるくらい、アリアが俺との思い出を大切に思っていてくれたことが嬉しいし、アリアを守れたことが誇らしいよ。……アリア、よく頑張ったな」
俺が離れていた年月の分長くなったアリアの髪を労わるように撫でれば。
アリアは俺が誰かも分からぬまま。
それでも、その綺麗な瞳からポロっと涙を零しながら。
かつて共に過ごした時のように、俺の腕にしどけなく寄りかかりながら愛らしく、無邪気に、そして少し大人になったぶん、俺の胸を締め付けるくらい綺麗に笑って見せたのだった。
◇◆◇◆◇
俺の夢は田舎でスローライフを送ること!
そのはずだったのだが?
「ハクタカ、これを村長の所に届けてくれないか?」
「ハクタカ、そのついでに川の水量を確認しておいてくれ」
「ハクタカ遊ぼう」
「ねぇ、ハクタカ。ウチの猫が今朝からどこにもいないの」
「ちょうどよかった、ちょっと味をみてくれないかい?」
俺は相変わらずスローとはかけ離れた忙しい生活を送っている。
「相変わらずハクタカは人気者だね」
走り回る俺を見て、アリアが笑った。
人気者??
便利にこき使われてるの間違いなのだが?
訂正しようかと思ったが、アリアがあまりに楽しそうに笑っているからその勘違いに水を差すのはやめておいた。
スローライフはまだまだ叶いそうにないが……。
不遇な美少女を助けるという野望は達成したので、まぁ良しとしよう。
何の愁いもないように眩しく笑うアリアの胸元にはトパーズの首飾りがあった。
貴重性も低い石に穴を開け、そこに革ひもを通しただけの、実に簡素な物だ。
先日、俺がアリアに贈ったものだった。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー
紫電のチュウニー
ファンタジー
第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)
転生前も、転生後も 俺は不幸だった。
生まれる前は弱視。
生まれ変わり後は盲目。
そんな人生をメルザは救ってくれた。
あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。
あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。
苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。
オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。
D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが
米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。
その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。
更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。
果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!?
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。
元四天王は貧乏令嬢の使用人 ~冤罪で国から追放された魔王軍四天王。貧乏貴族の令嬢に拾われ、使用人として働きます~
大豆茶
ファンタジー
『魔族』と『人間族』の国で二分された世界。
魔族を統べる王である魔王直属の配下である『魔王軍四天王』の一人である主人公アースは、ある事情から配下を持たずに活動しいていた。
しかし、そんなアースを疎ましく思った他の四天王から、魔王の死を切っ掛けに罪を被せられ殺されかけてしまう。
満身創痍のアースを救ったのは、人間族である辺境の地の貧乏貴族令嬢エレミア・リーフェルニアだった。
魔族領に戻っても命を狙われるだけ。
そう判断したアースは、身分を隠しリーフェルニア家で使用人として働くことに。
日々を過ごす中、アースの活躍と共にリーフェルニア領は目まぐるしい発展を遂げていくこととなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる