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回想編 青い瞳の冒険者と、金色の瞳の竜
金色の瞳の獣
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ラーシュさんの番発言を聞いて、興味を持っていた人々の口々から一斉に驚きの声が上がりました。
「そうなのか?」
きつく私を抱きしめるラーシュさん越し故、少しくぐもって聞こえるどこか悲し気なロイの声の返答に詰まります。
私には番かどうかなんて分からないうえ、皆と同じように今初めてそんな事を聞かされたばかりで。
だから私には否定も肯定もしようが無かったからです。
「そうだ。だから二度とレーアに勝手に触れるな」
何も言えない私に代わり、ラーシュさんがロイに低く冷たく返しました。
そうして。
私が何か口を開くよりも先に
「レーア、行こう」
そう言って。
ラーシュさんが私をその大きな体の陰に隠す様にしたまま、広場を離れる為、強く私の手を引きました。
******
「ラーシュさん、さっきの話だけど……本当なの?」
連れて行かれた、誰もいない夜の森の中。
ラーシュさんにそう問えば、
「本当だ」
ラーシュさんが私の手を握ったのとは反対の手で、私の頬に触れながら、まるで当然の様に肯定の言葉を口にします。
「いつから? いつから気づいていたの?」
「レーアが森で魔物に襲われそうになっていた時から」
ラーシュさんがそう言って。
私の頬に触れた手にほんの少しだけ力を入れて、恥ずかしさから下を向く私の顔を上げさせました。
そうして、もうその青い瞳に滲む甘さを隠す素振りも見せぬまま、私に向かい優しくクスリと笑ってみせますます。
「番の香りが森の中からして、探しに入ったらあんな事になってて焦ったよ」
「最初に会った時から?! 何で? 何で最初から言ってくれなかったの??」
私の言葉に、ラーシュさんが苦しそうに俯きます。
「人間は番を認識出来ないのだろう? だから、既に他の伴侶が居る場合もあると聞いた。そしてその場合他の獣人と違って、無理矢理攫ったり、番の伴侶を傷つけたりすれば二度と人間の番の心は手に入らないと聞いている」
ラーシュさんの言葉を聞いてその場面を思い浮かべます。
人間同士、相思相愛で結ばれて幸せな結婚生活を送っているところに、ある日
『オレこそがお前の番だ!』
と見知らぬ男が現れ、愛する夫を傷つけ自分の事を攫って行ったら……。
それでは番と名乗る相手に対して恨みこそは抱けても、確かに愛情など感じる事など出来そうにありませんね。
「そしてレーアの傍にはいつもロイがいた……」
「ロイはただの友達よ?」
困惑しつつも誤解されたくなくて事実を伝えれば。
辛そうに俯き陰っていたラーシュさんの瞳に再び輝く黄金色の月光が射しました。
「友達? 本当に??」
「本当に本当」
「じゃあ他に思う人は?」
ラーシュさんの問いに首を横に降れば。
ラーシュさんが安堵からか、深い深いため息を付きました。
「こんなこと、本当は口にするのも嫌だけど……。他の人達が言うように、僕も君とロイは似合いの恋人の様に見えたからね。最初に街に来た時にロイが君を迎えに来て、二人で並んで歩いて帰って行く姿を見たときはどうしたものかと頭を抱えたよ」
そう言われてみれば。
ロイが迎えに来てくれたとか、そんな事もありましたっけ?
私からは、ラーシュさんとはその日にこやかに挨拶をして別れたとの記憶しかありませんが。
ラーシュさんはそんなことを思っていたのですね。
そんな事を思っていたら
「レーア……」
改まったように背筋を美しく伸ばしたラーシュさんが、月光の浮かぶ海の水面の様に綺麗な瞳を更に甘く甘く蕩けさせながら、再び私の名を呼びました。
「生涯レーアだけを愛する事を誓うよ。僕の唯一無二、レーア、愛している。僕の妻になってくれませんか」
こんなに綺麗な人に、こんな素敵なプロポーズをしてもらえて夢みたいだと、のぼせたように頭の奥がボーっとします。
ラーシュさん思ってもらえた事は天に上る心地がする位に嬉しいのですが……。
妻という言葉に、突然強い途惑いを覚えました。
この国では十代での結婚も珍しいものではないようですが、先日まで普通の女子高生だった自分にとって、結婚なんて遠い遠い未来の夢物語でしかありませんでしたからね。
さっきダンスの手を伸べられた時以上に戸惑い、返事を返せない私を見て。
ラーシュさんが再び私を彼のその大きな影に閉じ込めるかのように、一歩距離を詰めました。
それに、捕食者を前にした時のような、どうしようもない本能的な恐怖を覚えて。
無意識に詰められたのと同じだけの距離を取ろうと、口元だけは相変わらず優し気な笑みを浮かべたまま、スッと獰猛そうに細められたラーシュさんの、その金色の瞳を真正面から見てしまったその時でした。
『いいかい、決して一人で森の奥深くに入って行ったり、夜出歩いたりしてはいけないよ。悪い竜に攫われてしまうからね』
私は不意に、教会で幼い子ども達と一緒に受けた、神父様のそんなお説教を思い出しました。
竜は、悪い大人の暗喩だと思ってはいましたが……。
「ラーシュさんは……もしかして竜人?」
ラーシュさんの熱にあてられて。
自分の意思とは関係なく熱くて仕方がなくなってしまった吐息を零しながら喘ぐようにそう尋ねれば
「大正解」
そう嗤って。
ラーシュさんは今度はゆっくり私の目の前で口を開くと、犬歯に見せかけ隠していたその牙を、やはりもう隠しもせずに金色の瞳のままペロっと舐めて見せたのでした。
「そうなのか?」
きつく私を抱きしめるラーシュさん越し故、少しくぐもって聞こえるどこか悲し気なロイの声の返答に詰まります。
私には番かどうかなんて分からないうえ、皆と同じように今初めてそんな事を聞かされたばかりで。
だから私には否定も肯定もしようが無かったからです。
「そうだ。だから二度とレーアに勝手に触れるな」
何も言えない私に代わり、ラーシュさんがロイに低く冷たく返しました。
そうして。
私が何か口を開くよりも先に
「レーア、行こう」
そう言って。
ラーシュさんが私をその大きな体の陰に隠す様にしたまま、広場を離れる為、強く私の手を引きました。
******
「ラーシュさん、さっきの話だけど……本当なの?」
連れて行かれた、誰もいない夜の森の中。
ラーシュさんにそう問えば、
「本当だ」
ラーシュさんが私の手を握ったのとは反対の手で、私の頬に触れながら、まるで当然の様に肯定の言葉を口にします。
「いつから? いつから気づいていたの?」
「レーアが森で魔物に襲われそうになっていた時から」
ラーシュさんがそう言って。
私の頬に触れた手にほんの少しだけ力を入れて、恥ずかしさから下を向く私の顔を上げさせました。
そうして、もうその青い瞳に滲む甘さを隠す素振りも見せぬまま、私に向かい優しくクスリと笑ってみせますます。
「番の香りが森の中からして、探しに入ったらあんな事になってて焦ったよ」
「最初に会った時から?! 何で? 何で最初から言ってくれなかったの??」
私の言葉に、ラーシュさんが苦しそうに俯きます。
「人間は番を認識出来ないのだろう? だから、既に他の伴侶が居る場合もあると聞いた。そしてその場合他の獣人と違って、無理矢理攫ったり、番の伴侶を傷つけたりすれば二度と人間の番の心は手に入らないと聞いている」
ラーシュさんの言葉を聞いてその場面を思い浮かべます。
人間同士、相思相愛で結ばれて幸せな結婚生活を送っているところに、ある日
『オレこそがお前の番だ!』
と見知らぬ男が現れ、愛する夫を傷つけ自分の事を攫って行ったら……。
それでは番と名乗る相手に対して恨みこそは抱けても、確かに愛情など感じる事など出来そうにありませんね。
「そしてレーアの傍にはいつもロイがいた……」
「ロイはただの友達よ?」
困惑しつつも誤解されたくなくて事実を伝えれば。
辛そうに俯き陰っていたラーシュさんの瞳に再び輝く黄金色の月光が射しました。
「友達? 本当に??」
「本当に本当」
「じゃあ他に思う人は?」
ラーシュさんの問いに首を横に降れば。
ラーシュさんが安堵からか、深い深いため息を付きました。
「こんなこと、本当は口にするのも嫌だけど……。他の人達が言うように、僕も君とロイは似合いの恋人の様に見えたからね。最初に街に来た時にロイが君を迎えに来て、二人で並んで歩いて帰って行く姿を見たときはどうしたものかと頭を抱えたよ」
そう言われてみれば。
ロイが迎えに来てくれたとか、そんな事もありましたっけ?
私からは、ラーシュさんとはその日にこやかに挨拶をして別れたとの記憶しかありませんが。
ラーシュさんはそんなことを思っていたのですね。
そんな事を思っていたら
「レーア……」
改まったように背筋を美しく伸ばしたラーシュさんが、月光の浮かぶ海の水面の様に綺麗な瞳を更に甘く甘く蕩けさせながら、再び私の名を呼びました。
「生涯レーアだけを愛する事を誓うよ。僕の唯一無二、レーア、愛している。僕の妻になってくれませんか」
こんなに綺麗な人に、こんな素敵なプロポーズをしてもらえて夢みたいだと、のぼせたように頭の奥がボーっとします。
ラーシュさん思ってもらえた事は天に上る心地がする位に嬉しいのですが……。
妻という言葉に、突然強い途惑いを覚えました。
この国では十代での結婚も珍しいものではないようですが、先日まで普通の女子高生だった自分にとって、結婚なんて遠い遠い未来の夢物語でしかありませんでしたからね。
さっきダンスの手を伸べられた時以上に戸惑い、返事を返せない私を見て。
ラーシュさんが再び私を彼のその大きな影に閉じ込めるかのように、一歩距離を詰めました。
それに、捕食者を前にした時のような、どうしようもない本能的な恐怖を覚えて。
無意識に詰められたのと同じだけの距離を取ろうと、口元だけは相変わらず優し気な笑みを浮かべたまま、スッと獰猛そうに細められたラーシュさんの、その金色の瞳を真正面から見てしまったその時でした。
『いいかい、決して一人で森の奥深くに入って行ったり、夜出歩いたりしてはいけないよ。悪い竜に攫われてしまうからね』
私は不意に、教会で幼い子ども達と一緒に受けた、神父様のそんなお説教を思い出しました。
竜は、悪い大人の暗喩だと思ってはいましたが……。
「ラーシュさんは……もしかして竜人?」
ラーシュさんの熱にあてられて。
自分の意思とは関係なく熱くて仕方がなくなってしまった吐息を零しながら喘ぐようにそう尋ねれば
「大正解」
そう嗤って。
ラーシュさんは今度はゆっくり私の目の前で口を開くと、犬歯に見せかけ隠していたその牙を、やはりもう隠しもせずに金色の瞳のままペロっと舐めて見せたのでした。
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