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回想編 青い瞳の冒険者と、金色の瞳の竜
青い瞳の冒険者
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この国の常識を教えてもらった後――
私は教会の伝手で冒険者向けの商店で働かせてもらえる事になりました。
薬草にナイフに剣に盾。
ゲームでしか見ることの無かった商品が売れていくのを見るのは楽しくて。
元の世界を恋しく思う日が無かったわけではありませんでしたが、私がそうやってそれなりに楽しい日々を送っていた、そんなある日のことでした。
その日は三日前に雨が降ったせいで、森には珍しい薬草が雨後の竹の子のごとくニョキニョキと沢山生えてきていて。
神父様に頼まれて、森に薬草を摘みに行った私はついつい夢中でそれらを摘むうちに、気が付いた時には普段は入らない森の奥まで入り込んでしまっていました。
『急いで戻らないと!』
そう思った時は既に手遅れで。
気づけば、私の目の前で巨大な熊に似た魔物が鋭い爪を振り上げていました。
フェンスの次は熊の爪ですか。
ついていないというか、なんというか。
兎にも角にも、自分の毎度の不注意さにガッカリしつつ、
『もしかしたらコレで元の世界に戻れるかも??』
なんて変にポジティブな事を思った、その時でした。
私をその背に庇う様に、誰かが目の前に立ち塞がりました。
そうして。
その人が剣を振るが早いか、魔物は鮮血が飛び散らせゆっくりと後ろに倒れていきます。
「大丈夫か?」
ズドンと大きな地響きをたて地に伏した魔物には目もくれず、剣を仕舞ったその人が私の方を振り向きました。
日に煌めく銀髪に青い目をしたその人は女性と見間違うくらい綺麗な顔をしていて、しかしその一見スラリと見える体は引き締まっていて、しなやかな筋肉に覆われている事が彼の纏うシャツ越しにも見て取れました。
「危ない所を助けてくださって本当にありがとうございました。何かお礼が出来ればいいんですけど……私、何も持っていなくて」
私が着の身着のままこちらに来てしまった事を改めて残念に思いながらそう言えば。
その人は
「別に、これくらい大したことないよ。気にしないで」
その人はそう言って柔らかく笑って見せると同時に、自らをラーシュと名乗り、自分の事を番を探して世界を旅している冒険者だと言いました。
番と聞いて、私は初めて彼が獣人である事を知りました。
でも……。
彼には他の獣人さんに見られるような獣耳も尻尾も見えません。
彼は一体、何の獣人さんなのでしょう?
そんな事を思った時です。
「危ないから少し下がってて」
ラーシュが再び私を背に庇う様にして、再びその剣を抜きました。
何事かと思いラーシュの視線の先に目を凝らせば、先ほどラーシュさんが倒した熊に似た魔物の群れが見えます。
一匹、二匹、三匹。
ラーシュは全く危うげなく、実に易々と彼の何倍も大きな魔物をあっさり討伐していきます。
戦いの事は、私には全く分かりませんが……。
兎に角、圧倒的にラーシュさんの方が強いようです。
それにホッとし、戦いの最中にも関わらず思わず気を抜いたその時でした。
突然一匹が背後から私に向かって襲いかかって来ました。
恐怖から、逃げるよりも思わずきつく目を閉じてしまったその次の瞬間、私の頭上で『キーン!!』という金属と鋭く固い何かがぶつかる音がして驚いて目を開けば。
ラーシュさんが私を守る為、身を翻しつつ少し無理のある体制でなおその攻撃を剣で受け止めて見せたことが分かりました。
私を守る際に、魔物の爪が掠めたのでしょうか。
剣を振りぬいた際、ラーシュさんの左腕から僅かながらも鮮血が散ります。
するとラーシュはこれまでの穏やかそうな表情と瞳の色を一変させ、不意に酷く獰猛そうな顔で嗤うと。
まるで舌なめずりをするかのように、ペロッとその鋭い犬歯を舐めました。
際どい攻撃をかわす度、楽しそうにその鋭い犬歯を微かに嘗める赤い舌に思わず目を奪われ、不謹慎にも私の心臓がバクバク跳ねます。
魔物の攻撃をかわしつつ、剣を振るい、呪文を詠唱する圧倒的強者のラーシュの姿は、まるで洗練された歌劇俳優の様に私には見えたのでした。
一緒に街に戻る道すがら。
「ラーシュさんは、一体何の獣人さん何ですか?」
そう尋ねた私向かい
「内緒」
彼は一瞬その瞳をまた金色に変えてみせた後で、どこか楽し気にそう言うと、思わず私がボーっと見とれてしまうくらい綺麗に、しかしどこか酷く妖艶に嗤ってみせたのでした。
私は教会の伝手で冒険者向けの商店で働かせてもらえる事になりました。
薬草にナイフに剣に盾。
ゲームでしか見ることの無かった商品が売れていくのを見るのは楽しくて。
元の世界を恋しく思う日が無かったわけではありませんでしたが、私がそうやってそれなりに楽しい日々を送っていた、そんなある日のことでした。
その日は三日前に雨が降ったせいで、森には珍しい薬草が雨後の竹の子のごとくニョキニョキと沢山生えてきていて。
神父様に頼まれて、森に薬草を摘みに行った私はついつい夢中でそれらを摘むうちに、気が付いた時には普段は入らない森の奥まで入り込んでしまっていました。
『急いで戻らないと!』
そう思った時は既に手遅れで。
気づけば、私の目の前で巨大な熊に似た魔物が鋭い爪を振り上げていました。
フェンスの次は熊の爪ですか。
ついていないというか、なんというか。
兎にも角にも、自分の毎度の不注意さにガッカリしつつ、
『もしかしたらコレで元の世界に戻れるかも??』
なんて変にポジティブな事を思った、その時でした。
私をその背に庇う様に、誰かが目の前に立ち塞がりました。
そうして。
その人が剣を振るが早いか、魔物は鮮血が飛び散らせゆっくりと後ろに倒れていきます。
「大丈夫か?」
ズドンと大きな地響きをたて地に伏した魔物には目もくれず、剣を仕舞ったその人が私の方を振り向きました。
日に煌めく銀髪に青い目をしたその人は女性と見間違うくらい綺麗な顔をしていて、しかしその一見スラリと見える体は引き締まっていて、しなやかな筋肉に覆われている事が彼の纏うシャツ越しにも見て取れました。
「危ない所を助けてくださって本当にありがとうございました。何かお礼が出来ればいいんですけど……私、何も持っていなくて」
私が着の身着のままこちらに来てしまった事を改めて残念に思いながらそう言えば。
その人は
「別に、これくらい大したことないよ。気にしないで」
その人はそう言って柔らかく笑って見せると同時に、自らをラーシュと名乗り、自分の事を番を探して世界を旅している冒険者だと言いました。
番と聞いて、私は初めて彼が獣人である事を知りました。
でも……。
彼には他の獣人さんに見られるような獣耳も尻尾も見えません。
彼は一体、何の獣人さんなのでしょう?
そんな事を思った時です。
「危ないから少し下がってて」
ラーシュが再び私を背に庇う様にして、再びその剣を抜きました。
何事かと思いラーシュの視線の先に目を凝らせば、先ほどラーシュさんが倒した熊に似た魔物の群れが見えます。
一匹、二匹、三匹。
ラーシュは全く危うげなく、実に易々と彼の何倍も大きな魔物をあっさり討伐していきます。
戦いの事は、私には全く分かりませんが……。
兎に角、圧倒的にラーシュさんの方が強いようです。
それにホッとし、戦いの最中にも関わらず思わず気を抜いたその時でした。
突然一匹が背後から私に向かって襲いかかって来ました。
恐怖から、逃げるよりも思わずきつく目を閉じてしまったその次の瞬間、私の頭上で『キーン!!』という金属と鋭く固い何かがぶつかる音がして驚いて目を開けば。
ラーシュさんが私を守る為、身を翻しつつ少し無理のある体制でなおその攻撃を剣で受け止めて見せたことが分かりました。
私を守る際に、魔物の爪が掠めたのでしょうか。
剣を振りぬいた際、ラーシュさんの左腕から僅かながらも鮮血が散ります。
するとラーシュはこれまでの穏やかそうな表情と瞳の色を一変させ、不意に酷く獰猛そうな顔で嗤うと。
まるで舌なめずりをするかのように、ペロッとその鋭い犬歯を舐めました。
際どい攻撃をかわす度、楽しそうにその鋭い犬歯を微かに嘗める赤い舌に思わず目を奪われ、不謹慎にも私の心臓がバクバク跳ねます。
魔物の攻撃をかわしつつ、剣を振るい、呪文を詠唱する圧倒的強者のラーシュの姿は、まるで洗練された歌劇俳優の様に私には見えたのでした。
一緒に街に戻る道すがら。
「ラーシュさんは、一体何の獣人さん何ですか?」
そう尋ねた私向かい
「内緒」
彼は一瞬その瞳をまた金色に変えてみせた後で、どこか楽し気にそう言うと、思わず私がボーっと見とれてしまうくらい綺麗に、しかしどこか酷く妖艶に嗤ってみせたのでした。
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