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本編
燦燦
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【Rea】
結局、ラーシュはテオを切りませんでした。
俯き項垂れ座り込んだテオを最下層に残したまま、痛いくらいにラーシュに強く手を引かれ、洞窟の出口を目指します。
二人で黙りこくって歩きながら、ラーシュは自身のステータスをテオに明かした事が無かったのだなと、そんな事を思いました。
テオはラーシュのステータスを初期化してしまえば彼に勝てると思ったのでしょう。
しかし初期化されたラーシュのステータスを改めて確認すれば、初期化され『大罪者』の称号が消えたラーシュのステータスは皮肉なまでにどれも、先日私が見た数値を大きく上回っていました。
洞窟の外に出た後――
私の手を離さぬまま、街とは反対の方向にラーシュが歩みを進めます。
「どこに行くの?」
焦った余り思わず上ずった私の言葉に、金色に色の抜けてしまったその瞳をもう隠しもしないラーシュが
「あの街から離れたどこか遠い遠いところ」
そう曖昧に返しました。
「でも……」
「今度テオドールに会ったら、オレは間違いなくアイツを切る。でも。レーアもそれは望まないだろう? だったらオレは、このままレーアを攫って行く」
ラーシュに強く腕を引かれたまま、それでよいのだろうかと首だけで街を振り返ります。
部屋も荷物も仕事も、すぐに戻るつもりだったので全てそのままになっています。
このまま私がいなくなったら、街の人たちはいったいどんな風に思うでしょうか。
そんな事を思った時でした。
『いいかい、決して一人で森の奥深くに入って行ってはいけないよ。悪い竜に攫われて食べられてしまうからね』
不意に、そんな誰かの言葉を思い出しました。
洞窟の奥深く注ぐ『ステータスを初期化する光』の話が、国を超え長い時間を経る間に『記憶を消す光』として伝わっていたように。
森に入ったまま戻らなかった私の顛末も、いつか長い時間を経た末、どこかの国で、竜にまつわる御伽噺の一端となるのでしょうか。
願わくば、その話を聞いた誰かが、美しくも一途に哀しき竜達を愛してくれますように。
どんどん小さく遠くなる街並みを時折振り返りながら、私は一人そんな事を心の中で祈るのでした。
******
長い旅の末、ラーシュに連れて来られたのは、物語に出てきそうな美しい小さな島にある美しい小さなお城でした。
私に苦しかったお城での生活を思い出させない為の配慮でしょうか。
そこには最低限の人しかおらず、しかし誰もが優しく暖かに微笑みながら私を迎えてくれました。
ラーシュに連れられ向かった先は、お城の中にある教会でした。
そこはラーシュの翼と同じ色をした真白の美しい百合が溢れんばかりに飾られていて。
私には、まるで絵本の中で見た幸せな結婚式の様にも、同じく絵本で見た死者を悼む葬列式の様にも見えました。
ホールの大きなステンドグラスの飾られた窓からは、色とりどりの美しい光にまぎれて一筋、ラーシュの瞳と同じ金の光が燦燦と降り注いでいて。
その美しさに思わず、私が光に向かって手を伸ばしたときでした。
「今度こそ。今度こそ誰よりも大切にする」
そう言って、ラーシュが私の手にその薄く綺麗な形の唇を落としました。
続いて唇に。
そして甘く甘く、首筋に。
それは酷くロマンチックで幸せな結婚式の誓いのキスそのものであったのに。
ラーシュが余りに苦し気に悲し気に、その瞳の色を美しい青に金にとクルクルと変えてみせるから……。
かつての弱かった私とは違い強く生まれ変わった私はその温かく降り注ぐ金色の光に向かい、永久の愛でも自らの幸せでもなく、優しい彼が一人で抱えるその苦しさと痛みが少しでも癒える事を、自らの番の幸せそれのみを、竜人の習慣に習い心より願ったのでした。
結局、ラーシュはテオを切りませんでした。
俯き項垂れ座り込んだテオを最下層に残したまま、痛いくらいにラーシュに強く手を引かれ、洞窟の出口を目指します。
二人で黙りこくって歩きながら、ラーシュは自身のステータスをテオに明かした事が無かったのだなと、そんな事を思いました。
テオはラーシュのステータスを初期化してしまえば彼に勝てると思ったのでしょう。
しかし初期化されたラーシュのステータスを改めて確認すれば、初期化され『大罪者』の称号が消えたラーシュのステータスは皮肉なまでにどれも、先日私が見た数値を大きく上回っていました。
洞窟の外に出た後――
私の手を離さぬまま、街とは反対の方向にラーシュが歩みを進めます。
「どこに行くの?」
焦った余り思わず上ずった私の言葉に、金色に色の抜けてしまったその瞳をもう隠しもしないラーシュが
「あの街から離れたどこか遠い遠いところ」
そう曖昧に返しました。
「でも……」
「今度テオドールに会ったら、オレは間違いなくアイツを切る。でも。レーアもそれは望まないだろう? だったらオレは、このままレーアを攫って行く」
ラーシュに強く腕を引かれたまま、それでよいのだろうかと首だけで街を振り返ります。
部屋も荷物も仕事も、すぐに戻るつもりだったので全てそのままになっています。
このまま私がいなくなったら、街の人たちはいったいどんな風に思うでしょうか。
そんな事を思った時でした。
『いいかい、決して一人で森の奥深くに入って行ってはいけないよ。悪い竜に攫われて食べられてしまうからね』
不意に、そんな誰かの言葉を思い出しました。
洞窟の奥深く注ぐ『ステータスを初期化する光』の話が、国を超え長い時間を経る間に『記憶を消す光』として伝わっていたように。
森に入ったまま戻らなかった私の顛末も、いつか長い時間を経た末、どこかの国で、竜にまつわる御伽噺の一端となるのでしょうか。
願わくば、その話を聞いた誰かが、美しくも一途に哀しき竜達を愛してくれますように。
どんどん小さく遠くなる街並みを時折振り返りながら、私は一人そんな事を心の中で祈るのでした。
******
長い旅の末、ラーシュに連れて来られたのは、物語に出てきそうな美しい小さな島にある美しい小さなお城でした。
私に苦しかったお城での生活を思い出させない為の配慮でしょうか。
そこには最低限の人しかおらず、しかし誰もが優しく暖かに微笑みながら私を迎えてくれました。
ラーシュに連れられ向かった先は、お城の中にある教会でした。
そこはラーシュの翼と同じ色をした真白の美しい百合が溢れんばかりに飾られていて。
私には、まるで絵本の中で見た幸せな結婚式の様にも、同じく絵本で見た死者を悼む葬列式の様にも見えました。
ホールの大きなステンドグラスの飾られた窓からは、色とりどりの美しい光にまぎれて一筋、ラーシュの瞳と同じ金の光が燦燦と降り注いでいて。
その美しさに思わず、私が光に向かって手を伸ばしたときでした。
「今度こそ。今度こそ誰よりも大切にする」
そう言って、ラーシュが私の手にその薄く綺麗な形の唇を落としました。
続いて唇に。
そして甘く甘く、首筋に。
それは酷くロマンチックで幸せな結婚式の誓いのキスそのものであったのに。
ラーシュが余りに苦し気に悲し気に、その瞳の色を美しい青に金にとクルクルと変えてみせるから……。
かつての弱かった私とは違い強く生まれ変わった私はその温かく降り注ぐ金色の光に向かい、永久の愛でも自らの幸せでもなく、優しい彼が一人で抱えるその苦しさと痛みが少しでも癒える事を、自らの番の幸せそれのみを、竜人の習慣に習い心より願ったのでした。
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