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本編
解呪
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光を浴びたエーヴェルトの動きはまるで酒に酔っているかのように足取りがおぼつかず、明らかに鈍っており、やはり今がエーヴェルトを殺す千載一遇の好機だと思われた。
しかし何故か紙一重の所で剣を受け止められてしまう。
そして恐ろしい事に、打ち合いを重ねる内に不思議と弱くなったはずのエーヴェルトの足取りが確かになり、それに合わせて剣のさばき方に徐々に切れが戻ってきているように思われた。
どういうトリックか分からないが、長い事打ち合うのは分が悪いだろう。
そう悟った僕は、覚悟を決めると狙いを澄まし渾身の力でもってエーヴェルトに向かい強く打ち込んだ。
『もらった!』
確かにそう思った。
そう思ったのに。
その太刀筋を受け止められたかと思いきや、気づけば返す刃で剣を折られていた。
一体、何が起きたというのだろう。
茫然と立ち尽くしつつ折れた剣を見れば、斜めにスパンと根本近くから刀身が無くなってしまっており、
折れたと言うより『切られた』のだと、そう思うより他無かった。
「この光は……ステータスを初期化するもの。そうなんだろう?」
旅をするうちに、どこかでこの光についても話を聞いたことがあったのだろう。
強く激しい怒りを押し殺しながら、エーヴェルトが言った。
「あぁ、そうだ。その通りだ」
折れた剣の柄を持ったまま、居直ってそう答えれば
「初期化されて……呪いが解けてようやく分かった。レーアの香りが消えたんじゃなかった! お前がオレに番の香りが分からなくする呪いをかけたんだ!! そうだろう!」
悲痛ともいえる声で、エーヴェルトがそう叫んだ。
肯定の言葉の代わりに鼻で嗤ってやる。
すると
「どうして……」
エーヴェルトが微かに震える声でそんな言葉を呟いた。
エーヴェルトの中で僕は今の今まで信頼のおける従者であり、親友であったらしい。
「どうして? そんな事決まっている。お前が! お前の執着がレーアを殺しかけたんだ!! だからお前からレーアが逃れられるよう呪いをかけた!」
エーヴェルトが激高し瞳を金に染め、僕を処刑する為その剣を振りかぶった、その時だった。
「ダメ!!」
僕の前にレーアが立ちはだかった。
「どけ!!!」
騎士であっても腰を抜かすようなエーヴェルトの激しい怒気に当てられても、レーアは一歩も引かない。
「レーア、危ないから。下がって」
いっそ穏やかといっても過言ではなかったであろう僕の言葉にも、レーアは首を横に振ってその場を動かなかった。
「レーア……」
『愛する番を守る為に死ぬなら本望だ』
そんな切ない思いを彼女に告げようとした、まさにその時だった。
「ラーシュを傷つけようとした事は許せない。でも今までずっと私の事を守ってくれていたのはテオよ! だから、今は私がテオを守る」
そう言って振り向きざまにレーアが自分の頬に触れ、僕は炎に触れたような強い痛みを覚悟した。
しかし……。
僕の覚悟に反し、それが僕を襲う事は二度となかった。
きっと、エーヴェルトの呪いが解けてしまったことで、僕に振りかかっていた報いも消えてしまったのだろう。
「テオ……貴方のやり方が正しかったかどうかは私にも分からない。でも、ずっと私を守って来てくれてありがとう」
そう言って、レーアが僕の頬にその柔らかく暖かな唇を押し当てた。
痛みの代わりに僕の頬を一筋の涙が伝う。
ずっとずっと、こうしてもう一度彼女に触れたいと思っていた。
でも、こうして何の痛みも無く触れ合えてしまうことで彼女との絆の様に感じていたものが完全に断ち切られてしまった事を彼女自身によって思い知らされることは。
いっそこうなる前にエーヴェルトに切り殺されていた方がどれだけましだったかと思うくらい、僕には酷く辛い事だった。
しかし何故か紙一重の所で剣を受け止められてしまう。
そして恐ろしい事に、打ち合いを重ねる内に不思議と弱くなったはずのエーヴェルトの足取りが確かになり、それに合わせて剣のさばき方に徐々に切れが戻ってきているように思われた。
どういうトリックか分からないが、長い事打ち合うのは分が悪いだろう。
そう悟った僕は、覚悟を決めると狙いを澄まし渾身の力でもってエーヴェルトに向かい強く打ち込んだ。
『もらった!』
確かにそう思った。
そう思ったのに。
その太刀筋を受け止められたかと思いきや、気づけば返す刃で剣を折られていた。
一体、何が起きたというのだろう。
茫然と立ち尽くしつつ折れた剣を見れば、斜めにスパンと根本近くから刀身が無くなってしまっており、
折れたと言うより『切られた』のだと、そう思うより他無かった。
「この光は……ステータスを初期化するもの。そうなんだろう?」
旅をするうちに、どこかでこの光についても話を聞いたことがあったのだろう。
強く激しい怒りを押し殺しながら、エーヴェルトが言った。
「あぁ、そうだ。その通りだ」
折れた剣の柄を持ったまま、居直ってそう答えれば
「初期化されて……呪いが解けてようやく分かった。レーアの香りが消えたんじゃなかった! お前がオレに番の香りが分からなくする呪いをかけたんだ!! そうだろう!」
悲痛ともいえる声で、エーヴェルトがそう叫んだ。
肯定の言葉の代わりに鼻で嗤ってやる。
すると
「どうして……」
エーヴェルトが微かに震える声でそんな言葉を呟いた。
エーヴェルトの中で僕は今の今まで信頼のおける従者であり、親友であったらしい。
「どうして? そんな事決まっている。お前が! お前の執着がレーアを殺しかけたんだ!! だからお前からレーアが逃れられるよう呪いをかけた!」
エーヴェルトが激高し瞳を金に染め、僕を処刑する為その剣を振りかぶった、その時だった。
「ダメ!!」
僕の前にレーアが立ちはだかった。
「どけ!!!」
騎士であっても腰を抜かすようなエーヴェルトの激しい怒気に当てられても、レーアは一歩も引かない。
「レーア、危ないから。下がって」
いっそ穏やかといっても過言ではなかったであろう僕の言葉にも、レーアは首を横に振ってその場を動かなかった。
「レーア……」
『愛する番を守る為に死ぬなら本望だ』
そんな切ない思いを彼女に告げようとした、まさにその時だった。
「ラーシュを傷つけようとした事は許せない。でも今までずっと私の事を守ってくれていたのはテオよ! だから、今は私がテオを守る」
そう言って振り向きざまにレーアが自分の頬に触れ、僕は炎に触れたような強い痛みを覚悟した。
しかし……。
僕の覚悟に反し、それが僕を襲う事は二度となかった。
きっと、エーヴェルトの呪いが解けてしまったことで、僕に振りかかっていた報いも消えてしまったのだろう。
「テオ……貴方のやり方が正しかったかどうかは私にも分からない。でも、ずっと私を守って来てくれてありがとう」
そう言って、レーアが僕の頬にその柔らかく暖かな唇を押し当てた。
痛みの代わりに僕の頬を一筋の涙が伝う。
ずっとずっと、こうしてもう一度彼女に触れたいと思っていた。
でも、こうして何の痛みも無く触れ合えてしまうことで彼女との絆の様に感じていたものが完全に断ち切られてしまった事を彼女自身によって思い知らされることは。
いっそこうなる前にエーヴェルトに切り殺されていた方がどれだけましだったかと思うくらい、僕には酷く辛い事だった。
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