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本編

闇と光

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記憶を消す光などなければいいのに。

そんな身勝手な事を思いながら時々現れる魔物を倒しつつ少し歩けば、さほど経たないうちに洞窟の最下層部についた。

そこは何も無い狭い行き止まりで、噂がガセだったのだと僕がホッと息をついた時だった。

「……ねぇ、灯り消してみて」

レーアが思いもかけないことを言いだした。


はっとしてテオと二人、持っていた灯りを消せば。
太陽が差すはずもない岩の隙間から、清水が湧き出すように細い細い清浄な光が降り注いでいた。

「本当にあった……」


長い事それぞれの思いを胸に、三人で黙ったままその淡い光を見つめていた。

「噂が本当とは限りません。うかつに触らない方がいい」

光に触れようとしたレーアの手をテオが掴んで止めた。

「でも、触る以外確かめようがないじゃない」

そんな話をする二人を置いて、誘われるようにしてその光に触れる。

光は不思議な冷たさを纏っていて治癒の魔法を受けている時のような、毒の治療を受けている時のような微かな心地よさを覚えた。


「もしもし? 貴方のお名前は?」

「…………エーヴェルトラーシュ。そうだろう? レーア、テオ」

レーアの問いにあっさり答え、残念そうに笑って見せれば

「大正解です」

レーアが僕と同じようにがっかりしたような、どこかホッとしたような表情でそう言って笑った。

その時だった。
瞬時に立ち込めた濃い濃いヴァニラのような甘い香りに、思わず酩酊しよろめいた。


ずっとずっと求めて止まなかったレーアの、番の香り。
それがどうして急に?!

こんな時こそ冷静にならねばと分かっているのに、思考が追い付かず頭の中が真っ白になる。


そんな僕の異変に気付いたレーアがこちらに駆け寄ろうとした時だった。

突然、剣を抜いたテオが僕に向かって切りかかって来た。


本来であれば、実力差は明白でテオに負けたりはしない。
けれど突然蘇った番の香りに足がもつれ、咄嗟に抜いた剣で受け止めるのが精一杯だった。

「テオ?! どうしたの?!! 止めて!!」

フラフラになりつつも、懸命にテオと打ち合う中、レーアの怯えた声が聞こえた。

「レーアは危ないから下がっていてください」

テオがオレから視線を外さないままそんなことを低く言う。

「テオ、いったいどうしたんだ?!」

「どうしたですって? まだ分かりませんか?」

テオが剣を振り下ろす手を止めぬまま暗く嗤う。

「最初から。最初から、お前を殺すその為に、ここまで連れて来たんだ!!」
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