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本編
忘れたいもの
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「レーア、よかった。どこか痛いところは?」
心臓をバクバクさせながら、目を覚ましたレーアに震える声でそう問えば、
「あれ? ラーシュ?? ここは? ……」
ぱちりとそのつぶらな瞳を見開いたレーアが、体を起こし不思議そうに首を傾げた。
体を起こすその仕草からも、声の出し方からも怪我はすっかり治った様で。
心からホッとした僕は、ようやく詰めていた息を大きく吐く事が出来た。
しばらく経った頃――
遠くから、灯りが近づいてくるのが見えた。
「レーア! ラーシュ様! ご無事でしたか?!」
そんな声の主はテオだった。
僕と別れた後、部下とあちこち手分けしてレーアの事を探してくれていたらしい。
「私があんな話をしたばかりに……」
レーアを怖がらせぬよう痛そうな話は極力省いて事の顛末を離せば、テオがそう言って顔を覆った。
「あんな話?」
何だろうと思って首を傾げれば
「ここの最下層に記憶を消す光がるとの噂があると、うっかりレーアに話してしまったのです」
そう、言ってテオが反省しきりと言った様子で下を向いた。
「違うの! 本当に薬草を取りに来ただけで、最初は洞窟に入るつもりなんてなかったの」
「そう言えば、僕も別の国でここの洞窟の噂を聞いたことがあった」
また、レーアと声が重なった。
「そうなのですか?」
「そうなの??」
今度は、レーアとテオの声が重なる。
「確か、最下層に降る光がとかそういう話だった」
そんな僕の言葉に、レーアが
「他の国にも伝わってるなんて。……きっと噂じゃなくて本当なんだ」
そう言ってテオが来た方とは逆の方を吸い寄せられるようにジッと見つめた。
「……せっかくここまで来たんです。少し先まで行ってみますか?」
テオの言葉にレーアが頷いたので、テオがレーアの事を抱き上げた。
「自分で歩けるよ?!」
レーアの言葉を
「いいえ、これでもう一度落ちたら目も当てられないだろう。嫌ならこのまま地上に戻りるよ」
そう言ってテオは却下した。
そして。
しばし迷った末、レーアもまたそのテオの提案を受け入れたようだった。
番でなくなった彼女を手放したのは自分の癖に。
近すぎるテオとレーアの距離に胸がモヤモヤしする。
「……レーアは何を忘れたかったの?」
よせばいいのに、思わずそんな言葉が小さく口を突いて出た。
しかし、幸い前を歩く二人には聞こえなかったらしい。
レーアが忘れたいもの。
そんなの聞かなくとも、僕の存在に決まっている。
レーアはずっと僕の事が忘れられず、テオのプロポーズを断ったのだとこの街に暮らすレーアの知り合いからこっそり教えられたことがある。
僕の事を忘れたら、レーアはこの街でテオと二人で幸せに暮らすのだろうか。
「僕もレーアの事を忘れられるかな……」
二人に聞こえないよう、少し離れて自分に言い聞かす様に呟けば、
「なぁーん」
カバンの中で子猫がまた小さく鳴いた。
心臓をバクバクさせながら、目を覚ましたレーアに震える声でそう問えば、
「あれ? ラーシュ?? ここは? ……」
ぱちりとそのつぶらな瞳を見開いたレーアが、体を起こし不思議そうに首を傾げた。
体を起こすその仕草からも、声の出し方からも怪我はすっかり治った様で。
心からホッとした僕は、ようやく詰めていた息を大きく吐く事が出来た。
しばらく経った頃――
遠くから、灯りが近づいてくるのが見えた。
「レーア! ラーシュ様! ご無事でしたか?!」
そんな声の主はテオだった。
僕と別れた後、部下とあちこち手分けしてレーアの事を探してくれていたらしい。
「私があんな話をしたばかりに……」
レーアを怖がらせぬよう痛そうな話は極力省いて事の顛末を離せば、テオがそう言って顔を覆った。
「あんな話?」
何だろうと思って首を傾げれば
「ここの最下層に記憶を消す光がるとの噂があると、うっかりレーアに話してしまったのです」
そう、言ってテオが反省しきりと言った様子で下を向いた。
「違うの! 本当に薬草を取りに来ただけで、最初は洞窟に入るつもりなんてなかったの」
「そう言えば、僕も別の国でここの洞窟の噂を聞いたことがあった」
また、レーアと声が重なった。
「そうなのですか?」
「そうなの??」
今度は、レーアとテオの声が重なる。
「確か、最下層に降る光がとかそういう話だった」
そんな僕の言葉に、レーアが
「他の国にも伝わってるなんて。……きっと噂じゃなくて本当なんだ」
そう言ってテオが来た方とは逆の方を吸い寄せられるようにジッと見つめた。
「……せっかくここまで来たんです。少し先まで行ってみますか?」
テオの言葉にレーアが頷いたので、テオがレーアの事を抱き上げた。
「自分で歩けるよ?!」
レーアの言葉を
「いいえ、これでもう一度落ちたら目も当てられないだろう。嫌ならこのまま地上に戻りるよ」
そう言ってテオは却下した。
そして。
しばし迷った末、レーアもまたそのテオの提案を受け入れたようだった。
番でなくなった彼女を手放したのは自分の癖に。
近すぎるテオとレーアの距離に胸がモヤモヤしする。
「……レーアは何を忘れたかったの?」
よせばいいのに、思わずそんな言葉が小さく口を突いて出た。
しかし、幸い前を歩く二人には聞こえなかったらしい。
レーアが忘れたいもの。
そんなの聞かなくとも、僕の存在に決まっている。
レーアはずっと僕の事が忘れられず、テオのプロポーズを断ったのだとこの街に暮らすレーアの知り合いからこっそり教えられたことがある。
僕の事を忘れたら、レーアはこの街でテオと二人で幸せに暮らすのだろうか。
「僕もレーアの事を忘れられるかな……」
二人に聞こえないよう、少し離れて自分に言い聞かす様に呟けば、
「なぁーん」
カバンの中で子猫がまた小さく鳴いた。
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