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本編
西の洞窟
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【Rea】
記憶が消える光。
私だって、そんなお伽話を信じる程子どもではありません。
だから、本当ならわざわざ西の洞窟など目指したりはしないのです。
ですが……。
翌日たまたまギルドに立ち寄った際に、西の洞窟付近にある特別な毒に効くという薬草の収集依頼を見つけてしまいました。
ギルドのお姉さんは私がラーシュと一緒にこなす依頼を探していると思ったのでしょう。
「騎士団の方が少し急いでいるらしいので、お願い出来ませんか」
そう直接声をかけてくれたので、これくらいなら私一人でも出来るのではと思い、私は依頼を引き受けるとそのまま西を目指しました。
実際、本来その薬草が自生している場所まではモンスターに出くわす事もなく、一人でも難なくたどり着くことが出来ました。
ただ、運の悪い事に、既に誰かが大量に摘み取ってしまったようでそこでは見つけることが出来ませんでした。
通りがかりの人に、どこか別の所に生えていないか尋ねれば、傍の洞窟の中に沢山生えていると言われます。
危なくないか尋ねれば、奥まで行けば危険だが入り口付近なら大丈夫だろうと呑気に返されました。
はじめて足を踏み入れた洞窟の中は、暗いものの風が吹かない分、外より暖かくそれほど嫌な感じはしません。
迷いようもない一本道をしばらく進むと、足元に白い四枚の花弁を付けた花が咲いているのが見えました。
これです!
この花の葉の部分が薬草なのです。
無事見つけられたことにホッとして、その葉を摘もうと一歩踏み出し手を伸ばした時でした。
不意に足元からパキンと氷が割れるような音がしました。
何かと思った次の瞬間です。
足元の床が崩れ去りました。
そうして。
私は虚空に向かって手を伸ばしたまま、洞窟の奥深くへと落ちていったのでした。
【Ewertlars】
この街を発つための旅支度を整えていたときだった。
思いも掛けないタイミングでそして思わぬ場所で再びテオと会った。
レーアの事を改めて頼もうと思い口を開こうとした、まさにその時だった。
「レーアは? 彼女と一緒ではないのですか?!」
酷く慌てた様子のテオにそう詰められ驚く。
「レーアは隣町に行くって言っていた。オレこそてっきり、レーアはテオ、お前に付き添いを頼むものだとばかり思ってたんだが……」
「ギルドからレーア様は西の洞窟近くの薬草採集の依頼を受けそのまま出かけたと聞きました。だからてっきり貴方といっしょだと……」
「危ないのか?」
思わず鋭くなる僕の声に、テオが首を横に振った。
「街道沿いですので、洞窟周辺はさして。ただ、洞窟の中は近年脆くなっていて危険です」
「迎えに行ってくる」
一緒に来ると言ったテオに大丈夫だと告げ、オレはそのまま駆け出すとレーアの後を追った。
テオが言った様に街道は安全で、何も起こりようがないように見える。
それなのに妙な胸騒ぎがして、走るように先を急いだ。
******
テオに聞いた薬草が自生する場所を探すが、レーアの姿はそこになかった。
薬草は全て取りつくされたような跡があるが、レーアが採集に使う小さなナイフとは全て切り口が異なっている。
どこだ?!
薬草をさがして傍に広がる森の奥に入って行ったのだろうか?
それとも何かの手違いで洞窟に向かった?
街道の途中で道を間違えた?
そもそもこちらに向かったというのが間違いで、昨日言っていたように本当は隣町に向かった??
胸騒ぎは収まることなく、一刻も早くレーアを見つけねばと思うのにどこに向かうべきかが分からない。
そのときだった。
カバンがゴソッと動いた。
突然の事に驚いてカバンを開けば、
「なぁーん」
いつの間に潜り込んでいたのか黒い子猫がそう一声鳴き、ピョンとカバンから飛び出した。
子猫はしばらく上を向いて小さな鼻をヒコヒコ動かした後で
「なぁーん」
まるで僕について来いと言わんばかりにまた小さく鳴いた。
記憶が消える光。
私だって、そんなお伽話を信じる程子どもではありません。
だから、本当ならわざわざ西の洞窟など目指したりはしないのです。
ですが……。
翌日たまたまギルドに立ち寄った際に、西の洞窟付近にある特別な毒に効くという薬草の収集依頼を見つけてしまいました。
ギルドのお姉さんは私がラーシュと一緒にこなす依頼を探していると思ったのでしょう。
「騎士団の方が少し急いでいるらしいので、お願い出来ませんか」
そう直接声をかけてくれたので、これくらいなら私一人でも出来るのではと思い、私は依頼を引き受けるとそのまま西を目指しました。
実際、本来その薬草が自生している場所まではモンスターに出くわす事もなく、一人でも難なくたどり着くことが出来ました。
ただ、運の悪い事に、既に誰かが大量に摘み取ってしまったようでそこでは見つけることが出来ませんでした。
通りがかりの人に、どこか別の所に生えていないか尋ねれば、傍の洞窟の中に沢山生えていると言われます。
危なくないか尋ねれば、奥まで行けば危険だが入り口付近なら大丈夫だろうと呑気に返されました。
はじめて足を踏み入れた洞窟の中は、暗いものの風が吹かない分、外より暖かくそれほど嫌な感じはしません。
迷いようもない一本道をしばらく進むと、足元に白い四枚の花弁を付けた花が咲いているのが見えました。
これです!
この花の葉の部分が薬草なのです。
無事見つけられたことにホッとして、その葉を摘もうと一歩踏み出し手を伸ばした時でした。
不意に足元からパキンと氷が割れるような音がしました。
何かと思った次の瞬間です。
足元の床が崩れ去りました。
そうして。
私は虚空に向かって手を伸ばしたまま、洞窟の奥深くへと落ちていったのでした。
【Ewertlars】
この街を発つための旅支度を整えていたときだった。
思いも掛けないタイミングでそして思わぬ場所で再びテオと会った。
レーアの事を改めて頼もうと思い口を開こうとした、まさにその時だった。
「レーアは? 彼女と一緒ではないのですか?!」
酷く慌てた様子のテオにそう詰められ驚く。
「レーアは隣町に行くって言っていた。オレこそてっきり、レーアはテオ、お前に付き添いを頼むものだとばかり思ってたんだが……」
「ギルドからレーア様は西の洞窟近くの薬草採集の依頼を受けそのまま出かけたと聞きました。だからてっきり貴方といっしょだと……」
「危ないのか?」
思わず鋭くなる僕の声に、テオが首を横に振った。
「街道沿いですので、洞窟周辺はさして。ただ、洞窟の中は近年脆くなっていて危険です」
「迎えに行ってくる」
一緒に来ると言ったテオに大丈夫だと告げ、オレはそのまま駆け出すとレーアの後を追った。
テオが言った様に街道は安全で、何も起こりようがないように見える。
それなのに妙な胸騒ぎがして、走るように先を急いだ。
******
テオに聞いた薬草が自生する場所を探すが、レーアの姿はそこになかった。
薬草は全て取りつくされたような跡があるが、レーアが採集に使う小さなナイフとは全て切り口が異なっている。
どこだ?!
薬草をさがして傍に広がる森の奥に入って行ったのだろうか?
それとも何かの手違いで洞窟に向かった?
街道の途中で道を間違えた?
そもそもこちらに向かったというのが間違いで、昨日言っていたように本当は隣町に向かった??
胸騒ぎは収まることなく、一刻も早くレーアを見つけねばと思うのにどこに向かうべきかが分からない。
そのときだった。
カバンがゴソッと動いた。
突然の事に驚いてカバンを開けば、
「なぁーん」
いつの間に潜り込んでいたのか黒い子猫がそう一声鳴き、ピョンとカバンから飛び出した。
子猫はしばらく上を向いて小さな鼻をヒコヒコ動かした後で
「なぁーん」
まるで僕について来いと言わんばかりにまた小さく鳴いた。
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