10 / 39
本編
祈りの言葉
しおりを挟む
「ダメ、離して」
思いもかけなかったラーシュの行動に混乱して今度こそ手を引き抜こうとするのですが……。
特段力を込めている訳でもないでしょうにラーシュの力は強く、振り解く事が叶いません。
まるで私に見せつけるように。
またしても私の指をベロッと嘗めあげる、綺麗な金色の瞳と目が合いました。
「……ラーシュ?……目の色が」
記憶は無いのに、見覚えのあるように思うその瞳に魅入られて、喘ぐように息を漏らしながらそう言えば
「香りはないのにな……回路を繋げるだけの作業なのに、懐かしい感覚に当てられた」
そう言って。
ラーシュはもう一度酷く切なげに私の手の甲に長く口付けた後、同じくらい酷く忌々し気に私の手を振り解きました。
少し経って。
「……! すまない!!」
青い瞳に戻ったラーシュがハッとしたように、その顔色を瞳と同じくらいにサッと青くさせながら、顔を覆って俯く私の顔をのぞき込むように床に膝を着きました。
私の表情を窺おうとして、私の頬に触れようとしたラーシュの手が直前で止まります。
「だ、大丈夫だから……」
正直、手を振り解かれたショックよりも舐められた衝撃の方が今は強すぎるので、しばらくそっとしておいて欲しいので本当に大丈夫です。
恐らく私は今、ラーシュに見せられないくらい真っ赤な顔をして、酷く物欲しげに目を潤ませてしまっている事でしょう。
精神攻撃耐性は高い筈なのに、顔の熱と動悸が全然おさまらず、顔を上げるまでにかなり長い時間がかかりました。
「……ところで。あれ、何だったの?」
しばらく経ち落ち着いたところで、未だラーシュの方を真っすぐ見られぬままそんなことを聞けば
「魔法の回路を繋げたんだよ」
ラーシュがそう言って自身の指先を持っていたナイフで小さく傷つけて見せました。
「真似して言ってみて」
そう言われ、驚きつつも言われるがままラーシュの紡ぐ言葉を繰り返し掌を傷に翳せば。
掌の陰になった部分が小さく光った後、ラーシュの指の傷は跡形もなく消えていました。
「凄い!!」
思わず立ち上がって拍手をすれば、ラーシュが安心したように小さくため息を付いたのが分かりました。
「これで魔法が使えるのね!!」
感動したその時です。
「あぁ、これでさっきの詠唱をこなせばあれくらいの傷なら治せる」
ラーシュの言葉にはっと我に返りました。
さっきの詠唱……。
かなり長かったのですが?!
「……紙に書いてくれる?」
私の言葉にラーシュが少し困った顔をしました。
ラーシュの説明によると、魔法とは本来、長い時間をかけて自然と対話することにより、その事象に誠の名を与えその力を操るもので(?)。
その確立された詠唱方法はその人の財産に近い特別大切な物なのだとか。
「悪用されたら大変だから、くれぐれも無くさないように。そして決して他の人には見せないようにね」
少し悩んだ末、そう言ってラーシュが綺麗な字でそれを書き留め渡してくれました。
「ありがとう」
書き留められた詠唱を改めて読むと、それは呪文というよりも儚い命を慈しむ美しい詩の様で、とてもラーシュらしい理解の仕方だったのだなと心が温かくなります。
「他の魔法もラーシュの真似すれば使えるの?」
ワクワクを隠しきれず投げかけた私の質問に、ラーシュが困ったように首を掻きながら答えました。
「また、その魔法用の回路を繋げれば」
「……さっきのを、もう一回……」
本来魔法を使えるようになるには長い年月を有するものってラーシュも言っていましたものね。
なかなか一筋縄ではいかないようです。
「魔法はしばらくいいかな……」
私の言葉に、ラーシュがホッとしたように
「それがいいね」
と頷きました。
「となると、次は剣かぁ」
私の言葉に
「危ないよ、やめておきなよ」
といいつつも、私の事を心配して剣を扱うお店までラーシュが一緒について来てくれることになりました。
思いもかけなかったラーシュの行動に混乱して今度こそ手を引き抜こうとするのですが……。
特段力を込めている訳でもないでしょうにラーシュの力は強く、振り解く事が叶いません。
まるで私に見せつけるように。
またしても私の指をベロッと嘗めあげる、綺麗な金色の瞳と目が合いました。
「……ラーシュ?……目の色が」
記憶は無いのに、見覚えのあるように思うその瞳に魅入られて、喘ぐように息を漏らしながらそう言えば
「香りはないのにな……回路を繋げるだけの作業なのに、懐かしい感覚に当てられた」
そう言って。
ラーシュはもう一度酷く切なげに私の手の甲に長く口付けた後、同じくらい酷く忌々し気に私の手を振り解きました。
少し経って。
「……! すまない!!」
青い瞳に戻ったラーシュがハッとしたように、その顔色を瞳と同じくらいにサッと青くさせながら、顔を覆って俯く私の顔をのぞき込むように床に膝を着きました。
私の表情を窺おうとして、私の頬に触れようとしたラーシュの手が直前で止まります。
「だ、大丈夫だから……」
正直、手を振り解かれたショックよりも舐められた衝撃の方が今は強すぎるので、しばらくそっとしておいて欲しいので本当に大丈夫です。
恐らく私は今、ラーシュに見せられないくらい真っ赤な顔をして、酷く物欲しげに目を潤ませてしまっている事でしょう。
精神攻撃耐性は高い筈なのに、顔の熱と動悸が全然おさまらず、顔を上げるまでにかなり長い時間がかかりました。
「……ところで。あれ、何だったの?」
しばらく経ち落ち着いたところで、未だラーシュの方を真っすぐ見られぬままそんなことを聞けば
「魔法の回路を繋げたんだよ」
ラーシュがそう言って自身の指先を持っていたナイフで小さく傷つけて見せました。
「真似して言ってみて」
そう言われ、驚きつつも言われるがままラーシュの紡ぐ言葉を繰り返し掌を傷に翳せば。
掌の陰になった部分が小さく光った後、ラーシュの指の傷は跡形もなく消えていました。
「凄い!!」
思わず立ち上がって拍手をすれば、ラーシュが安心したように小さくため息を付いたのが分かりました。
「これで魔法が使えるのね!!」
感動したその時です。
「あぁ、これでさっきの詠唱をこなせばあれくらいの傷なら治せる」
ラーシュの言葉にはっと我に返りました。
さっきの詠唱……。
かなり長かったのですが?!
「……紙に書いてくれる?」
私の言葉にラーシュが少し困った顔をしました。
ラーシュの説明によると、魔法とは本来、長い時間をかけて自然と対話することにより、その事象に誠の名を与えその力を操るもので(?)。
その確立された詠唱方法はその人の財産に近い特別大切な物なのだとか。
「悪用されたら大変だから、くれぐれも無くさないように。そして決して他の人には見せないようにね」
少し悩んだ末、そう言ってラーシュが綺麗な字でそれを書き留め渡してくれました。
「ありがとう」
書き留められた詠唱を改めて読むと、それは呪文というよりも儚い命を慈しむ美しい詩の様で、とてもラーシュらしい理解の仕方だったのだなと心が温かくなります。
「他の魔法もラーシュの真似すれば使えるの?」
ワクワクを隠しきれず投げかけた私の質問に、ラーシュが困ったように首を掻きながら答えました。
「また、その魔法用の回路を繋げれば」
「……さっきのを、もう一回……」
本来魔法を使えるようになるには長い年月を有するものってラーシュも言っていましたものね。
なかなか一筋縄ではいかないようです。
「魔法はしばらくいいかな……」
私の言葉に、ラーシュがホッとしたように
「それがいいね」
と頷きました。
「となると、次は剣かぁ」
私の言葉に
「危ないよ、やめておきなよ」
といいつつも、私の事を心配して剣を扱うお店までラーシュが一緒について来てくれることになりました。
3
お気に入りに追加
570
あなたにおすすめの小説
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。
たろ
恋愛
幼馴染のロード。
学校を卒業してロードは村から街へ。
街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。
ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。
なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。
ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。
それも女避けのための(仮)の恋人に。
そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。
ダリアは、静かに身を引く決意をして………
★ 短編から長編に変更させていただきます。
すみません。いつものように話が長くなってしまいました。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
【完結】わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。
たろ
恋愛
今まで何とかぶち壊してきた婚約話。
だけど今回は無理だった。
突然の婚約。
え?なんで?嫌だよ。
幼馴染のリヴィ・アルゼン。
ずっとずっと友達だと思ってたのに魔法が使えなくて嫌われてしまった。意地悪ばかりされて嫌われているから避けていたのに、それなのになんで婚約しなきゃいけないの?
好き過ぎてリヴィはミルヒーナに意地悪したり冷たくしたり。おかげでミルヒーナはリヴィが苦手になりとにかく逃げてしまう。
なのに気がつけば結婚させられて……
意地悪なのか優しいのかわからないリヴィ。
戸惑いながらも少しずつリヴィと幸せな結婚生活を送ろうと頑張り始めたミルヒーナ。
なのにマルシアというリヴィの元恋人が現れて……
「離縁したい」と思い始めリヴィから逃げようと頑張るミルヒーナ。
リヴィは、ミルヒーナを逃したくないのでなんとか関係を修復しようとするのだけど……
◆ 短編予定でしたがやはり長編になってしまいそうです。
申し訳ありません。
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
生まれ変わっても一緒にはならない
小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。
十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。
カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。
輪廻転生。
私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる