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本編

祈りの言葉

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「ダメ、離して」

思いもかけなかったラーシュの行動に混乱して今度こそ手を引き抜こうとするのですが……。
特段力を込めている訳でもないでしょうにラーシュの力は強く、振り解く事が叶いません。

まるで私に見せつけるように。
またしても私の指をベロッと嘗めあげる、綺麗な金色の瞳と目が合いました。

「……ラーシュ?……目の色が」

記憶は無いのに、見覚えのあるように思うその瞳に魅入られて、喘ぐように息を漏らしながらそう言えば

「香りはないのにな……回路を繋げるだけの作業なのに、懐かしい感覚に当てられた」

そう言って。
ラーシュはもう一度酷く切なげに私の手の甲に長く口付けた後、同じくらい酷く忌々し気に私の手を振り解きました。





少し経って。

「……! すまない!!」

青い瞳に戻ったラーシュがハッとしたように、その顔色を瞳と同じくらいにサッと青くさせながら、顔を覆って俯く私の顔をのぞき込むように床に膝を着きました。

私の表情を窺おうとして、私の頬に触れようとしたラーシュの手が直前で止まります。

「だ、大丈夫だから……」

正直、手を振り解かれたショックよりも舐められた衝撃の方が今は強すぎるので、しばらくそっとしておいて欲しいので本当に大丈夫です。
恐らく私は今、ラーシュに見せられないくらい真っ赤な顔をして、酷く物欲しげに目を潤ませてしまっている事でしょう。

精神攻撃耐性は高い筈なのに、顔の熱と動悸が全然おさまらず、顔を上げるまでにかなり長い時間がかかりました。




「……ところで。あれ、何だったの?」

しばらく経ち落ち着いたところで、未だラーシュの方を真っすぐ見られぬままそんなことを聞けば

「魔法の回路を繋げたんだよ」

ラーシュがそう言って自身の指先を持っていたナイフで小さく傷つけて見せました。


「真似して言ってみて」

そう言われ、驚きつつも言われるがままラーシュの紡ぐ言葉を繰り返し掌を傷に翳せば。
掌の陰になった部分が小さく光った後、ラーシュの指の傷は跡形もなく消えていました。


「凄い!!」

思わず立ち上がって拍手をすれば、ラーシュが安心したように小さくため息を付いたのが分かりました。

「これで魔法が使えるのね!!」

感動したその時です。

「あぁ、これでさっきの詠唱をこなせばあれくらいの傷なら治せる」

ラーシュの言葉にはっと我に返りました。

さっきの詠唱……。
かなり長かったのですが?!

「……紙に書いてくれる?」

私の言葉にラーシュが少し困った顔をしました。



ラーシュの説明によると、魔法とは本来、長い時間をかけて自然と対話することにより、その事象に誠の名を与えその力を操るもので(?)。
その確立された詠唱方法はその人の財産に近い特別大切な物なのだとか。

「悪用されたら大変だから、くれぐれも無くさないように。そして決して他の人には見せないようにね」

少し悩んだ末、そう言ってラーシュが綺麗な字でそれを書き留め渡してくれました。

「ありがとう」

書き留められた詠唱を改めて読むと、それは呪文というよりも儚い命を慈しむ美しい詩の様で、とてもラーシュらしい理解の仕方だったのだなと心が温かくなります。



「他の魔法もラーシュの真似すれば使えるの?」

ワクワクを隠しきれず投げかけた私の質問に、ラーシュが困ったように首を掻きながら答えました。

「また、その魔法用の回路を繋げれば」

「……さっきのを、もう一回……」

本来魔法を使えるようになるには長い年月を有するものってラーシュも言っていましたものね。

なかなか一筋縄ではいかないようです。


「魔法はしばらくいいかな……」

私の言葉に、ラーシュがホッとしたように

「それがいいね」

と頷きました。

「となると、次は剣かぁ」

私の言葉に

「危ないよ、やめておきなよ」

といいつつも、私の事を心配して剣を扱うお店までラーシュが一緒について来てくれることになりました。
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