また明日

彩茸

文字の大きさ
上 下
1 / 1

学校

しおりを挟む
ーー夜の学校というのは、なんとも不気味な所である。

「お邪魔しまーす…」

夜の学校に忍び込んだ僕は、そっと教室の扉を開ける。
見つかったら怒られる、そんな事分かりきっていた。それでも、どうしてもここに来なければいけなかったのだ。

「ああ、あったあった」

誰も居ない教室で、独り言を呟く。そうでもしないと、怖くて動けなくなりそうだったから。
机の中から1冊のノートを取り出す。パラパラと中を見ると、その中に1枚の紙を見つけた。
この紙が、今日僕が夜の学校に忍び込んでまで手に入れたかったもの。こんなの他の人に見つかったら、次の日から僕は学校に行けなくなってしまう。

「よし、帰ろ」

僕は呟き、その紙を持って歩き出す。
教室を出て、長い廊下を歩き、階段を降りる。
その一連の動作でさえ、ビビりな僕にはキツかった。


下駄箱で靴を履き替える。よし出ようと玄関の扉に手をかけ、固まった。

「うっそ、閉まってる…」

もしかしたら、警備の人が閉めたのかもしれない。そう思って、僕は別の出口を探すべく振り返った。

クスッ

振り返った僕の目の前に、少女が立っていた。見たことの無い制服を着た少女が、クスクスと笑いながら僕を見る。

「っ?!!」

人間、驚きすぎると声が出ないらしい。僕は考えるよりも先に、走り出した。


ハアハアと息を切らし、渡り廊下で振り返る。少女は相変わらず僕を見てクスクスと笑っていた。

「なん、何なんだよ…!誰だよ、お前!!」

僕の言葉に少女は答えることなく、クスクスと笑い続ける。不気味で仕方がなかった。
逃げなきゃ。そう思いながら、目の前の扉に手をかける。ここの扉は鍵が壊れていて閉まらないのを知っていた。
思い切り扉を押すと、ギギギと音を立てながら扉が開く。外に出ようと1歩踏み出した時、後ろから声が聞こえた。

「また明日」

その声は少女のような、少年のような、大人の男性のような、お婆さんのような…複数の声が重なったような不気味な音だった。
ちらりと振り返ると、少女がニコリと笑って手を振った。その手は赤く染っており、反対の手にキラリと光る包丁のようなものが見えた。

「うわあああああ!!」

僕は叫びながら全力で逃げるように走る。
はっと気付けば、家の前にいた。手を見ると、しっかりと紙を握っていた。安堵の溜息を吐きながら、僕は紙を開く。

「あ、れ…?」

その紙に書いてあったものを見て、思わず手を離す。
ヒラリと地面に落ちた紙には、赤いものが付いていた。
嘘だ、ともう一度紙を見る。

『君は、明日』

紙には赤いペンでそう書いてあった。
僕はこの紙にこんなことを書いた覚えは無い。だってこの紙は、僕が好きな子に渡そうとしたラブレターなんだから。

「どうなってんだよ…」

そう呟いた僕の後ろから、クスクスと笑い声が聞こえた気がした。


次の日、僕は学校に行かなかった。またあの少女に会うのが怖かったから。
…でも、少女は僕の目の前に現れた。
少女はニコリと笑って、手に持った包丁を振りかざす。振り下ろすその瞬間、少女がクスリと笑うのが見えた。



ーー『夜のニュースをお伝えします。本日未明、○○さん30歳が何者かに刺され、死亡した状態で発見されました。部屋には鍵がかかっており、中には大量の女子中学生の写真が……』

夜の教室のテレビから、ニュースキャスターの声がする。

クスリ

包丁を持った見知らぬ制服の少女は、それを見てクスクスと笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

メトロノーム

宮田 歩
ホラー
深夜の学校に忍び込んだ不良コンビ。特に「出る」とされる音楽室に入った2人を待ち構えていたものとは——。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

真空管ラジオ

宮田 歩
ホラー
アンティークショップで買った真空管ラジオ。ツマミを限界まで右に回すと未来の放送が受信できる不思議なラジオだった。競馬中継の結果をメモするが——。

人柱

宮田 歩
ホラー
荒れ狂う川を鎮める為「人柱」として前世の記憶を持つ少女亜季。供養の為1人川に向かうが、待ち受ける衝撃の運命的とは——。

さようなら、初めまして

れい
ホラー
全ては単なる、私の、私による、私のためだけの、儀式だった。 八月の、ひどく蝉がうるさい日。 私はそっと、自分の机だったものの上に、一輪の赤い花を添えた。

猫のオルゴール

宮田 歩
ホラー
アンティークショップで買った真鍮に猫が刻印されたオルゴール。このオルゴールには猫を招き寄せる不思議な力があるのだが…。

一ノ瀬一二三の怪奇譚

田熊
ホラー
一ノ瀬一二三(いちのせ ひふみ)はフリーのライターだ。 取材対象は怪談、都市伝説、奇妙な事件。どんなに不可解な話でも、彼にとっては「興味深いネタ」にすぎない。 彼にはひとつ、不思議な力がある。 ――写真の中に入ることができるのだ。 しかし、それがどういう理屈で起こるのか、なぜ自分だけに起こるのか、一二三自身にもわからない。 写真の中の世界は静かで、時に歪んでいる。 本来いるはずのない者たちが蠢いていることもある。 そして時折、そこに足を踏み入れたことで現実の世界に「何か」を持ち帰ってしまうことも……。 だが、一二三は考える。 「どれだけ異常な現象でも、理屈を突き詰めれば理解できるはずだ」と。 「この世に説明のつかないものなんて、きっとない」と。 そうして彼は今日も取材に向かう。 影のない女、消せない落書き、異能の子、透明な魚、8番目の曜日――。 それらの裏に隠された真実を、カメラのレンズ越しに探るために。 だが彼の知らぬところで、世界の歪みは広がっている。 写真の中で見たものは、果たして現実と無関係なのか? 彼が足を踏み入れることで、何かが目覚めてしまったのではないか? 怪異に魅入られた者の末路を、彼はまだ知らない。

一杯の選択【読み手の選択によって結末が変わります】

宝者来価
ホラー
あなたが元の世界に帰るためには一杯を選択しなければならない。

処理中です...