異能力と妖と短編集

彩茸

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自制

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―――日も短くなってきたある日のこと。
夕暮れの空の下で、静也しずや雨谷うこくは対峙していた。

「日没までだからね~?」

 のんびりとした口調とは裏腹に、真剣な表情で雨谷は刀を構える。

「ああ、分かってる」

 そう言って、静也も真剣な表情で刀を構える。

「・・・始め」

 雨谷がそう言った瞬間、刀と刀がぶつかり合う。雨谷の発する殺気と静也の発する
 殺気が、ビリビリと空気を揺らす。
 数回刀のぶつかり合う音がした後、静也が薄く笑った。
 雨谷は咄嗟に距離を取る。距離を詰め斬りかかった静也の攻撃を受け流す。

「あっははは!!」

 楽しそうに笑う静也から繰り出される怒涛の攻撃をどうにかいなした雨谷は、隙を
 見つけて斬りかかる。
 急所を狙ったその攻撃を静也は受け流し、狂気的な笑みを浮かべながら再び斬り
 かかる。
 避けて、斬る。暫くの間休むことなく繰り返していた雨谷は、刀傷を作りながらも
 楽しそうに戦う静也に言った。

「・・・ちょっとキツくなってきたかも」

「あ?まだ楽しませろよ」

 不満げな顔の静也に、雨谷は攻撃を避けながらヘラヘラと笑う。
 その瞬間、雨谷が静也の目の前から消えた。ハッとした静也が後ろを振り返ると
 同時に、雨谷の刀が静也の首元に迫る。
 それを弾いた静也は蹴りを入れようとするが、雨谷はそれをひらりと避けた。

「能力禁止で正面切って戦うのは、流石のオイラでもキツいんだよね~」

 そう言いながら、雨谷は静也に蹴りを入れる。目にも止まらぬ速さで繰り出された
 蹴りに静也は吹っ飛ぶと、ゆらりと立ち上がりながら笑う。

「嘘吐け、余裕そうな顔してるじゃねえか」

 楽しそうに言った静也に、雨谷はヘラヘラと笑う。
 距離を詰めた静也に向かって、雨谷は刀を突き出す。
 このまま当たれば心臓の位置。でもどうせ、避けられる。そんなことを考えながら
 雨谷が次の行動へ移ろうと足を動かすと、静也が思いがけない行動に出た。
 ・・・刀が届く、少し前の位置。静也は跳び上がり、刀の刺さる位置を心臓から
 腹へと変える。腹に深々と刀が刺さりながらも尚、静也は笑っていた。
 静也の口から、血が零れる。それと同時に、雨谷の頬を刃が掠める。
 そこから雨谷の首を刎ねるように動かされた刀が首に当たる直前、雨谷は静也の
 目を見て叫んだ。

!!」

 静也はピタリと動きを止める。それと同時に、日が沈む。
 口から血を吐きながら刀を下ろした静也に、雨谷はボソッと呟いた。

「あっぶな・・・」

 静也の腹から刀を抜き、雨谷は倒れそうになった静也を支える。

「生きてる~?」

「生きてるよ・・・」

 雨谷の言葉に静也は頷くと、口元の血を拭いながら言った。

「駄目だな、全然コントロールできねえ・・・」

「わざわざになって自分を制御するってさあ、シズちんも変なこと考える
 よね~」

「やってみなきゃ分かんねえだろ」

 そう言って再び血を吐いた静也の背中を擦りながら、雨谷は深い溜息を吐く。

「一応狗神いぬがみ呼んでおいて正解だったよ~。ほら帰ろう、雪華せつかが待ってる」

 雨谷はそう言って静也を背負うと、彼なりに気遣いながら工房へと戻った。



―――狗神の治療を受けた静也は、雪華と談笑している雨谷をちらりと見る。

「雨谷、傷を治すからお主も来い」

 狗神がそう言って手招きすると、雨谷はありがと~と言いながら狗神に近付いた。
 静也が雨谷の頬を見ると既に血はほとんど止まっており、回復早いな・・・と思い
 ながら自身の腹をそっと触る。

「シズちん、もうちょっと人間としての自覚持ったら?」

「静也様、もう少しご自身のお体を大切になさってください」

 雨谷と雪華に言われ、分かってるけどさあ・・・と静也は不服そうに言う。
 すると、治療を終えた狗神が静也の頭を撫でながら言った。

「・・・お主は、早死はやじにしてくれるなよ」

 ハッとして、静也は狗神を見る。
 狗神は微笑んでいたが、その目は悲しそうに揺れていた。

「・・・なあ、雨谷」

 静也が雨谷を呼ぶと、雨谷は首を傾げる。

「また、頼んで良いか?特訓」

「えー・・・まあ良いけどさあ」

 静也の言葉に雨谷はそう言うと、立ち上がって伸びをする。

「オイラだって、毎回毎回油断したら死ぬような戦いはしたくないんだよ。
 ・・・だから、特訓の内容は変えよう」

 雨谷の言葉に静也が首を傾げると、雨谷は静也に近付き、目をじっと見て言った。

「暴走してから少しの間、理性を保つ練習をする。難しいかもしれないけど・・・
 シズちん、できる?」

 静也はコクリと頷く。
 ニッコリと笑った雨谷は、ご飯にしようかと言って雪華を見る。

「かしこまりました」

 そう言って部屋を出た雪華に続くように、雨谷も部屋を出る。
 抱えてしまったこのをどうにかしないと。そんなことを考えながら、静也は
 閉まった扉を眺めていた。
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