異能力と妖と短編集

彩茸

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呼吸

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―――夢を見た。思い出したくもない、昔の夢。
目が覚め、起き上がる。一瞬見慣れない光景に戸惑ったが、すぐに思い出した。
そうだ、静也しずや晴樹はるきに頼んで家に泊めてもらってたんだっけ。
取り敢えず落ち着こうと息を吸って、気付いた。・・・呼吸が、上手くできない。
何度か吸って吐いてを繰り返してみるが、呼吸できている気がしない。
段々と、息が荒くなっていく。心臓の鼓動が鳴り響く。

和正かずまさ・・・?」

 寝ぼけた顔で、静也が俺を見る。俺は荒い呼吸を繰り返しながら首を横に振り、
 体を引きずるようにして壁にもたれ掛かる。
 ・・・この状態は、身に覚えがあった。まだ学生だった頃にも、何度か同じことが
 あった。
 どうやって治すんだったか。調べたのに、いざという時に思い出せない。
 焦りが、不安が募っていく。どうしよう、胸が苦しい。

「おい、大丈夫か?!」

 焦ったような顔で、静也が近付いてくる。

「だ、いじょ・・・ぶ、だから・・・」

 絞り出すように言って、手で静也を制す。心配そうな顔で俺を見る静也に申し訳
 なく思いつつ、俯いて自分の呼吸と向き合う。
 焦るな、冷静になれ。前のときは一人でどうにかできただろ。
 ・・・そうだ、思い出した。呼吸は、ゆっくりと。息をゆっくりと吐き出せ。
 大丈夫、前はできた。今回も、できる。

「はーーー・・・」

 ゆっくりと、深く息を吐き出す。荒い呼吸の中で自分のタイミングを見つけて、
 もう一度、ゆっくりと吐く。
 タイミングを合わせ、吸って、吐いて、吸って、吐いて・・・。



―――暫く繰り返し、段々と落ち着いてきた呼吸に安堵する。良かった、できた。

「和正くん、大丈夫・・・?」

 ふと声が聞こえ、顔を上げる。いつの間にか起きていた晴樹が、静也の隣で心配
 そうな顔をして俺を見ていた。

「・・・悪い、もう大丈夫」

 そういって苦笑いを浮かべると、二人はそっと近付いてくる。

「ごめん俺、動揺して・・・」

 何もできなかった。そう言って静也は悲しそうな顔をする。

「気にするなって。俺が止めたんだし」

 そう言って笑った俺に、晴樹が言った。

「何か飲む・・・?」

 ホットミルクとか、落ち着くかも。そう付け加えた晴樹に、大丈夫と言って笑い
 かける。

「ごめんな、起こしちゃって」

 壁に掛けられた時計をちらりと見ながら言う。静也と晴樹のいつもの起床時間には
 まだ早く、部屋の中は薄暗かった。

「気にしないで」

 晴樹がそう言って、静也が隣でコクコクと頷く。

「・・・どうする?もう一回寝るか?」

 静也に聞かれ、夢の内容が頭を過る。・・・寝たくは、ないな。

「二人は寝とけよ。俺、ちょっと外の空気吸ってくる」

 そう言って、立ち上がる。
 すると静也がタンスの奥からコートを取り出し、渡してきた。

「外出るならこれ着とけ。冬じゃないとはいえ、この辺は朝寒いんだ」

 ありがとうと言ってコートを着る。コートのサイズは俺にぴったりで、静也の物に
 しては少し大きいなと思う。

「これ、静也のか?」

 そう聞くと、静也は首を横に振って言った。

「いや、父さんの。・・・俺のだと、小さいだろ?」

「静兄身長低いんじゃないの?」

 晴樹が茶化すように言う。人の事言えねえだろと静也は拗ねたように言う。
 その様子に思わず吹き出し、クスクスと笑いながら玄関に向かった。
 外に出ると、なるほど息が白い。冷たくも澄んだ空気を肺いっぱいに取り込み、
 深く吐く。
 ・・・ああ良かった、息ができる。
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