異能力と妖と短編集

彩茸

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診断メーカー短編

『陽』

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【静也のお話の一行目:夜明けは絶望と共にやってくる】



―――夜明けは絶望と共にやってくる。

「はあああああ・・・」

 大きな溜息を吐いた静也しずやは、ぽつりと呟いた。

「仕事、休みてえ・・・」

 そんな姿を、呆れた顔で見る女性が一人。

「そんなこと言ったって、休めないんでしょ?」

「俺、あの依頼主苦手なんだよなあ。彩音あやね代わってくれよ・・・」

 そう言って、静也は再び溜息を吐く。

「あのねえ、私は祓い屋じゃないの。勝手に行ったら怒られちゃうのよ?」

「つっても祓い屋のバイトはしてるだろ?セーフセーフ」

「責任全部静也に押し付けるわよ」

「・・・それは勘弁」

 そんな会話をしながら、賽銭箱の前に腰掛けている二人。
 溜息を吐きながら渋々立ち上がった静也に、彩音は言った。

「頑張ったら、ご褒美あげる」

 静也はバッと彩音を見ると、目を輝かせる。

「え、何くれんの?」

「何が良い?何でも良いわよ」

 彩音がクスクスと笑いながら言う。その姿に少しムッとしながら、静也は言った。

「・・・考えとく」



―――夕暮れ、夜宮やぐう神社を訪れる影が一つ。

「疲れた・・・」

 静也はそう呟きながら、賽銭箱の前に腰掛ける。
 夜宮神社の近くでの依頼だったのに、どうして一人で山の中を駆け回る羽目に
 なったのか。報酬金ぼったくってやろうか、あのクソ依頼主。
 そんなことを考えながら、溜息を吐く。

「朝から溜息吐いてばっかりじゃない」

 呆れたような声が聞こえ、静也はそちらに顔を向ける。

「こんなことなら、晴樹はるきも連れて来れば良かったよ・・・」

「晴樹くんにも休みをあげたいって、静也が言ってたんじゃない」

 静也の言葉にそう言いながら、彩音が隣に座る。

「そうなんだけどさあ・・・」

 溜息を吐いた静也に苦笑いを浮かべながら、彩音は言った。

「決めた?ご褒美」

「ああ、うん」

 頷いた静也は、疲れた顔で彩音に向かって両手を広げる。
 彩音がキョトンとしていると、静也はボソリと言った。

「・・・じっとしてて」

 彩音をギュッと抱きしめる。硬直する彩音に構うことなく、静也は彩音の肩に顔を
 埋める。

「え、ど、どどどうしたの?!!」

 顔を真っ赤にする彩音の耳元で、静也は言った。

「ごめん。・・・ご褒美、これしか思い付かなかった」

 彩音はそっと、静也の背中に腕を回す。そしてポンポンと優しく叩きながら、
 微笑んだ。

「何でもって言ったのは私だものね。お疲れ様、静也」

「うん・・・」

 彩音を抱きしめている静也も、静也に抱きしめられている彩音も、嬉しそうな顔を
 していた。

「晴樹くんが見たら、何て言うかしら」

「それで付き合ってないっておかしくない?・・・かな」

 そのままの体勢で、静也と彩音は笑う。

「そういえば、告白されてないわね」

「言う機会、逃しちゃってさ」

「じゃあ今言いなさいよ」

 彩音の言葉に静也は抱きしめるのを止め、彩音の顔を見る。

「えっと・・・好きです、付き合ってください?」

「何で疑問形なのよ。・・・良いわよ、付き合ってあげる」

 夕日が二人を照らす。笑う二人の顔が赤いのは、夕日の所為か、それとも。
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