異能力と妖と短編集

彩茸

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if『幼妖騒動』

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―――雨谷、狗神、誠が外へ遊びに行った後。俺と雪華、そして狼昂は机を囲んで
話していた。

「昔のあるじを見るというのも、中々心にくるものがありますよね・・・」

「ええ、本当に・・・」

 溜息を吐く狼昂と雪華を眺めながら、お茶を飲む。

「静也様、心当たりなどはございませんか?」

 雪華がそう言って俺を見る。

「ごめん、見当もつかねえ・・・」

「ですよね・・・」

 俺の言葉に狼昂が言う。

「狗神も雨谷も、今とは何か雰囲気違うよな」

 俺がそう言うと、雪華と狼昂は暗い顔をした。何かまずいこと言ったかなと思って
 いると、狼昂が言った。

「主様は、奥様・・・誠様のお祖母様が信者となった頃から変わり始めました。
 神様の性格が、強い信仰を持つ信者の心境によって変わるというのはご存じです
 よね?主様の性格を変えるほどの強い信仰を持っていた奥様によって、主様は
 段々と人間にも優しくなられたのです」

 ですが・・・と狼昂は言葉を続ける。

「現在の主様は、奥様と出会う前の記憶のまま突然性格を変えられた状態なのです。
 本人はあまり気にされていない様子ですが、わたくしにはどうもそれが気掛かり
 でして・・・」

「確かに、過去を変えちゃってる感じがするよな・・・」

 俺がそう言うと、狼昂はうんうんと頷く。

「雨谷って、あんな性格だったのか?」

 そう言って雪華を見ると、雪華は少し悲しそうな顔をしながら言った。

「あの雨谷様は、雨谷様がまだ『どっちつかず』であった頃、しかもかなり昔の姿で
 ございます。・・・あの頃の雨谷様は、まだ純粋でございました。戦乱の世の暗く
 汚い人間と妖の感情を知るまでは、本当に純粋でいらっしゃったのです・・・」

 雪華は溜めていたものを吐き出すように続ける。

「雨谷様は刀作りの神様でいらっしゃいましたから、戦乱の世には特に信者から
 崇められていました。依頼を受け、刀を渡し。信者との交流が深まる中、雨谷様は
 ご自身ので信者の感情を見ておりました。・・・あの方は不安になると目を見る
 癖がございますから、信者の不安が募っていたあの時代、目を見ないことの方が稀
 だったのです。それで、その所為で、負の感情を多く知ってしまい・・・自分の
 本心を、他人にさらけ出すことができなくなってしまわれました」

 これでもかなり改善したのですけどねと雪華は悲しそうに笑う。

「何か、ごめん・・・」

 俺がそう言うと、雪華はお気になさらずと首を横に振った。



―――暫くして、誠が狗神と雨谷を連れて戻って来る。

「疲れたー・・・」

 そう言って床に寝転ぶ誠を横目に、狗神は狼昂に、雨谷は雪華に抱き着く。

「おかえりなさいませ」

 狼昂と雪華がそう言うと、狗神と雨谷は笑顔で言った。

「ただいま!」

「何して遊んだんだ?」

 俺がそう言って誠を見ると、誠は床に転がったまま言った。

「鬼ごっこ。お祖父ちゃんも雨谷さんも足早くて、追いかけるのも逃げるのも
 すっごい大変だったんだよ~・・・」

 妖相手に鬼ごっこを成立させるとは・・・流石、誠。

「あのな、狼昂!雨谷と仲良くなれたんじゃ!」

 狗神が嬉しそうに言う。

「狗神と誠くんと遊んでね、オイラすっごい楽しかった!」

 雨谷がそう言って無邪気に笑う。
 その様子を微笑みながら見る狼昂と雪華は、何だか保護者のように見えた。

「・・・そうだ、静くん」

 誠が顔を上げて俺を見る。俺が首を傾げると、誠は言った。

「お祖父ちゃんと雨谷さんを小さくしたの、もしかしたら神様かも」

「・・・え?」

「何となくだけどね、お祖父ちゃんと雨谷さんから同じニオイがして。勘みたいな
 感じになっちゃうんだけど、神様っぽいニオイだった」

「神様か・・・。神様なら、俺達の思い付かないようなことでもやっちゃいそう
 だよな」

 誠の言葉にそう言うと、雪華の膝の上に座っていた雨谷が言った。

「神なら、狗神の力を借りれば炙り出せるかもよ?」

「ワシの力?」

 狗神が首を傾げると、雨谷は狗神に耳打ちする。話を聞き終わったらしき狗神は
 ニヤリと笑うと、分かったと頷いた。
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