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if『幼妖騒動』
弐
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―――俺は狗神と誠を連れ、天春の妖術で雨谷の工房の近くへ行く。
晴樹は急に用事が入ったとかで、不服そうな顔で見送られた。
「ごめん僕、怖いから帰る。この山やっぱり変な感じがする」
そう言って飛び立っていった天春を見送ると、誠が言った。
「お祖父ちゃん、今こんなんだけど結界入れるのかな?」
「このニオイ、結界を張ったのはワシじゃろう?なら入れる」
狗神がそう言うと、ならいっかと誠は言って歩き出した。
「なあ狗神、狗神は心当たりとかないのか?何か変な感じがする、とか」
俺が歩きながらそう聞くと、狗神は尻尾をゆらゆらと振りながら言った。
「何じゃろうな・・・ずっと人間が大嫌いじゃったのに、何故か今はそう思わん。
それは変な感じじゃな。ああ、それと・・・」
狗神は俺の袖を掴む。俺が首を傾げると、狗神は言った。
「お主からとても美味そうな匂いがするのに、食ってはいけない気がしての。ワシの
信者でも家族でもないのに、大切にしなきゃいけない気がするんじゃ」
不思議じゃのう・・・と呟く狗神は、何処か嬉しそうで。それを見た誠がボソッと
呟いた。
「・・・お祖父ちゃん、静くんのこと友達にそっくりだって言ってたもん」
―――工房に着くと、いつも玄関前で出迎えてくれている雪華の姿が見えなかった。
留守かなと思いながら扉をノックする。
・・・少しすると、遠慮がちに扉が開いた。
「静也様、誠様・・・」
俺達の姿を見た雪華が不安そうな声で言う。そして狗神の姿を見ると、深い溜息を
吐いた。
「そちらも、でしたか・・・」
そう言った雪華に俺達は首を傾げる。すると、雪華の後ろから声が聞こえた。
「雪華ー、お客さん~?」
幼くも何処となく聞き覚えのある声に、もしやと思う。
雪華の後ろを見ると、そこには狗神と同じく小学生くらいの容姿の雨谷が居た。
「ああー・・・」
思わずそう言って溜息を吐く。誠も頭を抱えており、それを見た狗神はキョトンと
した顔をしていた。
「うわ、人間だ。あ!仲間もいる!!」
雪華の後ろからひょっこりと顔を出した雨谷が言う。仲間と言った雨谷の目線の
先には、狗神が居た。
「仲間って、どの仲間・・・?」
誠がそう言うと、雨谷はニコニコと笑い誠に近付いて言った。
「そこの銀髪、『どっちつかず』でしょ?!オイラ他の『どっちつかず』初めて
会った!」
「お主は妖じゃろう」
狗神が言う。雨谷は狗神の目をじっと見つめた後、悲しそうな顔をして言った。
「・・・分かってるよ、オイラはもう『どっちつかず』じゃないって。何でかは
知らないけど、オイラ妖に堕ちちゃったんでしょ?分かってるもん・・・」
俯いた雨谷の頭を、雪華が優しく撫でる。
そして、しゃがんで雨谷と目線を合わせると言った。
「雨谷様、皆様を中へお通ししてもよろしいですか?」
雨谷は雪華の目をじっと見る。そして雪華に抱き着くと、小さく頷いて言った。
「うん、良いよ」
―――部屋へ通された俺達は、雪華から何があったかを聞く。どうやら雨谷も狗神と
同じく、雨谷が部屋に戻ってから雪華が起こしに行く間に小さくなっていたようだ。
「雨谷様の記憶は子供の頃に戻っておりまして。昔の私のことは覚えていたようで、
第一声に大きくなったねは流石に驚きました・・・」
雪華はそう言って苦笑いを浮かべる。
「お祖父ちゃんと同じ状況となると、やっぱり原因は同じなのかな」
誠がそう言うと、雪華はおそらくと頷く。
「ねえ雪華、この人間見て良い?」
雨谷がそう言って俺を指さす。雪華は俺を見ると、心配そうな顔で言った。
「静也様、よろしいでしょうか?おそらく死にはしないと思うのですが・・・」
「え、あ、ああ・・・」
雪華の言い方に不穏なものを感じつつ、俺は頷く。雨谷は俺の隣に座ると、俺の
目をじっと見た。
雨谷の深淵のように光を映さない黒い目に吸い込まれそうな感覚を覚えながら、
俺は襲ってきた頭痛と吐き気に耐える。
少しの間俺の目を見ていた雨谷が満足げにニッコリと笑うと、体が軽くなる感覚と
共に頭痛と吐き気が少し治まった。
「静くん大丈夫?顔青いけど・・・」
「ああ、うん、大丈夫・・・」
心配そうな誠にそう返すと、雨谷は雪華の所に戻り言った。
「うん、大体分かった。ありがとね、シズちん!」
「その姿で言われると何か違和感ある・・・」
俺がそう言うと、そう?と雨谷は首を傾げる。どういうことか分かってなさそうな
誠に気付き、俺は誠に雨谷の能力について説明した。
「脳に干渉して・・・記憶を読んだってこと?」
誠がそう言うと、雨谷は頷いて言った。
「そんな感じ~。・・・でもあれだね、未来?のオイラってかなり捻くれてるん
だね~」
「え?」
俺が首を傾げると、雨谷は雪華に寄り掛かりながら言った。
「シズちんの記憶のオイラ、すーぐヘラヘラ笑うじゃん。オイラ、誤魔化したいとき
くらいしかそんな笑い方してないもん。だったよね?雪華」
「・・・そうですね、確かにそうです」
そう言って頷いた雪華は、何とも言えない顔をする。
「雨谷は嘘吐きなのか?」
狗神がそう言って首を傾げると、雨谷は言った。
「知らな~い。まあ少なくとも今のオイラは、そのオイラよりは捻くれてないと
思うよ?」
変だよね~とケラケラ笑う雨谷の頭をそっと撫でながら、雪華は言った。
「お気になさらないでください。・・・知らない方が良いことも、ありますから」
晴樹は急に用事が入ったとかで、不服そうな顔で見送られた。
「ごめん僕、怖いから帰る。この山やっぱり変な感じがする」
そう言って飛び立っていった天春を見送ると、誠が言った。
「お祖父ちゃん、今こんなんだけど結界入れるのかな?」
「このニオイ、結界を張ったのはワシじゃろう?なら入れる」
狗神がそう言うと、ならいっかと誠は言って歩き出した。
「なあ狗神、狗神は心当たりとかないのか?何か変な感じがする、とか」
俺が歩きながらそう聞くと、狗神は尻尾をゆらゆらと振りながら言った。
「何じゃろうな・・・ずっと人間が大嫌いじゃったのに、何故か今はそう思わん。
それは変な感じじゃな。ああ、それと・・・」
狗神は俺の袖を掴む。俺が首を傾げると、狗神は言った。
「お主からとても美味そうな匂いがするのに、食ってはいけない気がしての。ワシの
信者でも家族でもないのに、大切にしなきゃいけない気がするんじゃ」
不思議じゃのう・・・と呟く狗神は、何処か嬉しそうで。それを見た誠がボソッと
呟いた。
「・・・お祖父ちゃん、静くんのこと友達にそっくりだって言ってたもん」
―――工房に着くと、いつも玄関前で出迎えてくれている雪華の姿が見えなかった。
留守かなと思いながら扉をノックする。
・・・少しすると、遠慮がちに扉が開いた。
「静也様、誠様・・・」
俺達の姿を見た雪華が不安そうな声で言う。そして狗神の姿を見ると、深い溜息を
吐いた。
「そちらも、でしたか・・・」
そう言った雪華に俺達は首を傾げる。すると、雪華の後ろから声が聞こえた。
「雪華ー、お客さん~?」
幼くも何処となく聞き覚えのある声に、もしやと思う。
雪華の後ろを見ると、そこには狗神と同じく小学生くらいの容姿の雨谷が居た。
「ああー・・・」
思わずそう言って溜息を吐く。誠も頭を抱えており、それを見た狗神はキョトンと
した顔をしていた。
「うわ、人間だ。あ!仲間もいる!!」
雪華の後ろからひょっこりと顔を出した雨谷が言う。仲間と言った雨谷の目線の
先には、狗神が居た。
「仲間って、どの仲間・・・?」
誠がそう言うと、雨谷はニコニコと笑い誠に近付いて言った。
「そこの銀髪、『どっちつかず』でしょ?!オイラ他の『どっちつかず』初めて
会った!」
「お主は妖じゃろう」
狗神が言う。雨谷は狗神の目をじっと見つめた後、悲しそうな顔をして言った。
「・・・分かってるよ、オイラはもう『どっちつかず』じゃないって。何でかは
知らないけど、オイラ妖に堕ちちゃったんでしょ?分かってるもん・・・」
俯いた雨谷の頭を、雪華が優しく撫でる。
そして、しゃがんで雨谷と目線を合わせると言った。
「雨谷様、皆様を中へお通ししてもよろしいですか?」
雨谷は雪華の目をじっと見る。そして雪華に抱き着くと、小さく頷いて言った。
「うん、良いよ」
―――部屋へ通された俺達は、雪華から何があったかを聞く。どうやら雨谷も狗神と
同じく、雨谷が部屋に戻ってから雪華が起こしに行く間に小さくなっていたようだ。
「雨谷様の記憶は子供の頃に戻っておりまして。昔の私のことは覚えていたようで、
第一声に大きくなったねは流石に驚きました・・・」
雪華はそう言って苦笑いを浮かべる。
「お祖父ちゃんと同じ状況となると、やっぱり原因は同じなのかな」
誠がそう言うと、雪華はおそらくと頷く。
「ねえ雪華、この人間見て良い?」
雨谷がそう言って俺を指さす。雪華は俺を見ると、心配そうな顔で言った。
「静也様、よろしいでしょうか?おそらく死にはしないと思うのですが・・・」
「え、あ、ああ・・・」
雪華の言い方に不穏なものを感じつつ、俺は頷く。雨谷は俺の隣に座ると、俺の
目をじっと見た。
雨谷の深淵のように光を映さない黒い目に吸い込まれそうな感覚を覚えながら、
俺は襲ってきた頭痛と吐き気に耐える。
少しの間俺の目を見ていた雨谷が満足げにニッコリと笑うと、体が軽くなる感覚と
共に頭痛と吐き気が少し治まった。
「静くん大丈夫?顔青いけど・・・」
「ああ、うん、大丈夫・・・」
心配そうな誠にそう返すと、雨谷は雪華の所に戻り言った。
「うん、大体分かった。ありがとね、シズちん!」
「その姿で言われると何か違和感ある・・・」
俺がそう言うと、そう?と雨谷は首を傾げる。どういうことか分かってなさそうな
誠に気付き、俺は誠に雨谷の能力について説明した。
「脳に干渉して・・・記憶を読んだってこと?」
誠がそう言うと、雨谷は頷いて言った。
「そんな感じ~。・・・でもあれだね、未来?のオイラってかなり捻くれてるん
だね~」
「え?」
俺が首を傾げると、雨谷は雪華に寄り掛かりながら言った。
「シズちんの記憶のオイラ、すーぐヘラヘラ笑うじゃん。オイラ、誤魔化したいとき
くらいしかそんな笑い方してないもん。だったよね?雪華」
「・・・そうですね、確かにそうです」
そう言って頷いた雪華は、何とも言えない顔をする。
「雨谷は嘘吐きなのか?」
狗神がそう言って首を傾げると、雨谷は言った。
「知らな~い。まあ少なくとも今のオイラは、そのオイラよりは捻くれてないと
思うよ?」
変だよね~とケラケラ笑う雨谷の頭をそっと撫でながら、雪華は言った。
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