異能力と妖と短編集

彩茸

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春猫狸

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―――ある日のこと、赤芽あかめは所用で霧ヶ山を訪れていた。
用事を済ませた彼女が猫又の姿で山を歩いていると、後ろから声を掛けられた。

「あ、猫又の姉ちゃん!」

 知っている声に赤芽が振り向くと、そこには豆狸のひいらぎが居た。

「あら、久しぶり」

「久しぶりだなあ、何してたんだ?」

「ちょっと天狗てんぐさんの所に用事があってね。帰ってる最中なのよ」

 柊の言葉に赤芽がそう言うと、柊はにんまりと笑って言った。

「じゃあさ、今から薬草摘みに行かないか?」

「薬草?」

 赤芽が首を傾げると、柊はうんうんと頷く。赤芽は少し悩む様子を見せると、
 頷いて言った。

「良いわよ」



―――柊と赤芽は山を歩く。時折柊が立ち止まっては、赤芽に薬草の解説をしながら
道端の草を摘む。

「こうやって見ると、薬草って結構色んな所に生えてるのね・・・」

 歩きながら赤芽が言うと、柊は手に持った袋を覗き込みながら頷く。

「もしかしたら、おいらの知らない薬草も生えてるかもなあ」

「柊、薬草に関しては何でも知ってると思ってたわ」

「いいや、まだまだ。前に天狗さんの本貸してもらったんだけど、おいらの知らない
 薬草が書いてあって驚いたもん」

 赤芽の言葉に柊はそう言うと、これも薬草だなと立ち止まる。

「猫又の姉ちゃん、この草なら見覚えあるんじゃないか?」

 薬草を摘んでいた柊が、近くに生えていた草を指さす。赤芽はその草を見ると、
 ああ!と声を上げた。

「タラの芽!」

「正解!」

 赤芽と柊はニコニコと笑う。

「もしかしたらこの辺にそこそこ生えてるかもしれないなあ」

「ちょっと採って、天狗さんに天ぷらにしてもらうのも良いわね」

「良いなあ、それ!おいらも天ぷら食べたい!」

 ・・・暖かな風、霧が立ち込める霧ヶ山。タラの芽が入った袋を嬉しそうに口に
 咥えて山を登る、猫と狸。
 その姿を見かけた妖達は、皆同じことを思っていた。ああ、春だな・・・と。
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