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顔有顔無
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―――背後にそびえ立つ霧ヶ山を眺めながら、のっぺらぼうは溜息を吐く。
のっぺらぼうの手には買い物メモ。天狗を始めとしたお堂に住んでいる面々から
頼まれた物が、そこには書かれていた。
「何でわざわざ人間の店なんかニ・・・」
そう呟きながら、のっぺらぼうは歩みを進める。天狗曰く、妖が経営している店も
あるが、人間の営む店にしか売っていないものもあるらしい。
多少楽しみではあるが、何で自分が・・・なんてのっぺらぼうが考えていると、
いつの間にか森の近くまで来ていた。
「森を抜けた先、だったカ?」
のっぺらぼうは懐から地図を取り出すと、現在地を確認する。
目的地は森を抜けた先、近くに描かれているのは学校だろうか。
森に向かって歩きながら、のっぺらぼうは考える。
・・・さて、どんな顔で買い物をしようか。
―――森を抜ける直前に、のっぺらぼうは妖術を発動させる。目も鼻も口もなかった
顔が、端正な顔立ちの男性へと変わる。
着ていた着物もラフな洋服へと変わり、傍から見れば普通の人間の姿になっていた。
のっぺらぼうの妖術は、ただ顔を盗るだけのものではない。盗った顔の人物に変化
することができるのだ。のっぺらぼうは面倒だからと滅多に変化をすることはないの
だが、変化できることを知った天春にせがまれ、天狗が便乗し、今に至る。
目的の店に到着したのっぺらぼうは、買い物メモとにらめっこしながら商品を次々と
カゴに入れていく。
「筆ペン・・・どれだヨ」
様々な種類の筆ペンを前にしてのっぺらぼうが悩んでいると、後ろから声がした。
「落魅が愛用してるのは、あれ」
驚いてのっぺらぼうが振り返ると、棚の一番上を指さしてのっぺらぼうを見ている
晴樹が居た。
「のっぺらぼうだよね?」
晴樹がそう言って首を傾げる。
「・・・何で分かったんダ」
のっぺらぼうがそう言うと、晴樹は小さく笑って言った。
「気配がのっぺらぼうだったから」
「・・・そうかヨ」
のっぺらぼうは晴樹の指さした筆ペンを手に取りながら、何でここに居るんダと
聞く。僕も買い物と言った晴樹は、のっぺらぼうの持っているメモを覗き込む。
「のっぺらぼう、人間に変化できたんだね。たまに天狗さんが変化してこの店に
来てるのは見るけど、のっぺらぼうも来るんだ」
「ワレは頼まれただけダ。変化なんて面倒なこと、好き好んでやる訳がないだロ」
晴樹の言葉にのっぺらぼうはそう言って溜息を吐く。そうなんだと晴樹は苦笑いを
浮かべると、メモを指さしながら言った。
「魚買うなら、あと五分待って。タイムセール始まるから」
「主婦かヨ・・・」
ボソッと呟いたのっぺらぼうに、晴樹は静兄から教わったんだと笑う。
その後タイムセールやらイケメン好きのおばちゃんから果物を貰うやらと色々
あり、のっぺらぼうは想定よりも多い荷物を持って帰路に就く。
晴樹と森の中で別れた後、のっぺらぼうは妖術を解きつつのんびりと歩いていた。
―――辺りが暗くなり始めた頃、お堂に着いたのっぺらぼうは扉を開ける。
「おかえり」
そう言ってのっぺらぼうを迎えたお堂の面々に、のっぺらぼうは袋を差し出し
ながら言った。
「ただいま、買ってきたゾ」
・・・その日の夕飯は刺身で、のっぺらぼうは今日あったことを皆に話しながら
少し嬉しそうにご飯を食べるのだった。
のっぺらぼうの手には買い物メモ。天狗を始めとしたお堂に住んでいる面々から
頼まれた物が、そこには書かれていた。
「何でわざわざ人間の店なんかニ・・・」
そう呟きながら、のっぺらぼうは歩みを進める。天狗曰く、妖が経営している店も
あるが、人間の営む店にしか売っていないものもあるらしい。
多少楽しみではあるが、何で自分が・・・なんてのっぺらぼうが考えていると、
いつの間にか森の近くまで来ていた。
「森を抜けた先、だったカ?」
のっぺらぼうは懐から地図を取り出すと、現在地を確認する。
目的地は森を抜けた先、近くに描かれているのは学校だろうか。
森に向かって歩きながら、のっぺらぼうは考える。
・・・さて、どんな顔で買い物をしようか。
―――森を抜ける直前に、のっぺらぼうは妖術を発動させる。目も鼻も口もなかった
顔が、端正な顔立ちの男性へと変わる。
着ていた着物もラフな洋服へと変わり、傍から見れば普通の人間の姿になっていた。
のっぺらぼうの妖術は、ただ顔を盗るだけのものではない。盗った顔の人物に変化
することができるのだ。のっぺらぼうは面倒だからと滅多に変化をすることはないの
だが、変化できることを知った天春にせがまれ、天狗が便乗し、今に至る。
目的の店に到着したのっぺらぼうは、買い物メモとにらめっこしながら商品を次々と
カゴに入れていく。
「筆ペン・・・どれだヨ」
様々な種類の筆ペンを前にしてのっぺらぼうが悩んでいると、後ろから声がした。
「落魅が愛用してるのは、あれ」
驚いてのっぺらぼうが振り返ると、棚の一番上を指さしてのっぺらぼうを見ている
晴樹が居た。
「のっぺらぼうだよね?」
晴樹がそう言って首を傾げる。
「・・・何で分かったんダ」
のっぺらぼうがそう言うと、晴樹は小さく笑って言った。
「気配がのっぺらぼうだったから」
「・・・そうかヨ」
のっぺらぼうは晴樹の指さした筆ペンを手に取りながら、何でここに居るんダと
聞く。僕も買い物と言った晴樹は、のっぺらぼうの持っているメモを覗き込む。
「のっぺらぼう、人間に変化できたんだね。たまに天狗さんが変化してこの店に
来てるのは見るけど、のっぺらぼうも来るんだ」
「ワレは頼まれただけダ。変化なんて面倒なこと、好き好んでやる訳がないだロ」
晴樹の言葉にのっぺらぼうはそう言って溜息を吐く。そうなんだと晴樹は苦笑いを
浮かべると、メモを指さしながら言った。
「魚買うなら、あと五分待って。タイムセール始まるから」
「主婦かヨ・・・」
ボソッと呟いたのっぺらぼうに、晴樹は静兄から教わったんだと笑う。
その後タイムセールやらイケメン好きのおばちゃんから果物を貰うやらと色々
あり、のっぺらぼうは想定よりも多い荷物を持って帰路に就く。
晴樹と森の中で別れた後、のっぺらぼうは妖術を解きつつのんびりと歩いていた。
―――辺りが暗くなり始めた頃、お堂に着いたのっぺらぼうは扉を開ける。
「おかえり」
そう言ってのっぺらぼうを迎えたお堂の面々に、のっぺらぼうは袋を差し出し
ながら言った。
「ただいま、買ってきたゾ」
・・・その日の夕飯は刺身で、のっぺらぼうは今日あったことを皆に話しながら
少し嬉しそうにご飯を食べるのだった。
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