異能力と妖と短編集

彩茸

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深夜落魅

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―――皆が寝静まった深夜のお堂、荒い息遣いと共に落魅らくみは目を覚ます。

「はあっ、はあっ・・・。ゆ・・・め・・・?」

 呟くように落魅は言う。どうやら、酷い悪夢を見たらしい。
 流れる冷汗、鳴り響く鼓動。小さく震える自分の体に気付いた落魅は、心の中で
 悪態を吐く。
 布団の中に潜り込むも、再びあの悪夢を見るのが怖いのか一向に眠気がやって
 こない。
 落魅は深い溜息を吐くと立ち上がり、こっそりとお堂の扉に手を掛けた。
 そのまま音を立てないように扉を開け、外に出る。霧が立ち込める霧ヶ山の空
 には、綺麗な星空が浮かんでいた。

「さっむ・・・」

 そう呟きながら落魅は扉をそっと閉めると、お堂の屋根の上に跳び上がる。
 静かに着地した落魅は、ゴロンと屋根に寝転んだ。
 落魅のお気に入りであるそこは、昼は暖かく夜は冷たい場所であった。季節は冬、
 雪は降っていないもののかなり冷たい。
 毛布でも持って来れば良かったかなんて思いながら、落魅は星空を眺めていた。



―――どれくらいの間そうしていただろう。落魅はふと気配を感じ、起き上がる。
振り向くと、そこには天春あまはるが立っていた。

「何してるの?」

 天春はそう言いながら落魅の隣に座る。

「・・・そっちこそ、何してるんでさあ」

 落魅がそう言うと、天春はニッコリと笑って言った。

「何か、目が覚めちゃって!」

 ニコニコと笑う天春に、そうですかいと落魅は言う。再び寝転んだ落魅に、天春は
 聞いた。

「落魅、何でこんな寒い所に居たの?」

「・・・目が覚めたんでさあ」

 落魅がそう答えると、そっかあと天春は言う。そしてそっと落魅の頭に手を伸ばす
 と、落魅に腕を掴まれた。

「何でさあ」

「良いから良いから!」

 落魅の言葉に天春がニコニコと笑いながらそう言うと、落魅はそっと手を離す。
 そのまま天春が落魅の頭を撫で始めると、落魅は恥ずかしそうに顔を背けた。

「落魅、凄く冷たくなってるよ。中に戻ろ?」

 天春が頭を撫でながらそう言うと、落魅は小さく首を横に振る。
 頭を撫でている間、落魅は凄く大人しくなる。それを知っていた天春は、頭を
 撫でる手を止めることなく聞いた。

「ねえ落魅、何で目が覚めたの?」

「・・・・・・怖い夢を、見やして」

 ボソリと言った落魅に、天春はそっかと呟く。そして何かを思いついたように声を
 上げると、落魅の顔を覗き込んで言った。

「そうだ!じゃあここで一緒に寝れば良いんじゃない?!」

「はあ?」

 突然何を言い出すんだと言いたげな顔で、落魅は天春の言葉に首を傾げる。

「一緒に寝れば、怖い夢見ないかもしれないでしょ?ほらほら、お兄ちゃんが一緒に
 寝てあげるよ!」

 そう言って優しく笑った天春に、落魅は諦めたように溜息を吐く。こういう時の
 天春は何が何でも譲らない、それは落魅もよく知っていた。
 天春も妖の中ではまだ子供だが、落魅は天春よりもかなり年下。こういう時は
 甘えるのが一番だと天春は考えていた。

「ほら起きて、もっと寄って!」

 落魅は天春に言われるがまま起き上がり、天春に寄り掛かるようにして座る。
 思ったよりも素直に行動する落魅に内心驚きつつも、天春は自身の黒い羽を広げ、
 自分と落魅を包み込んだ。

「あったか・・・」

 そう呟いた落魅に、でしょ~!と天春は嬉しそうに笑う。そのまま歌を口ずさみ
 始めた天春に、落魅は聞いた。

「何の歌ですかい?それ」

「お母さんがまだ霧ヶ山に居たときにね、よく歌ってくれた子守歌。好きだったん
 だよね~、この歌」

 そう言った天春は再び歌を口ずさむ。心地よいリズムと優しい音色、そして暖かな
 羽に包まれ、落魅は段々と眠たくなってくる。
 目を閉じ、沈みゆく意識に身を任せる。不思議と、怖いという感情は消えていた。
 意識が途絶える前に、天春の声が聞こえる。

「おやすみ」

 落魅は口元に笑みを浮かべ、安心したように眠りについた。
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