異能力と妖と短編集

彩茸

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中編『狩人と護人』

四話

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―――それから数週間、妖刀狩りの青年は一度も姿を現さなかった。
ある日仕事を早めに片付けた静也と晴樹は、天春の妖術で霧ヶ山きりがやまに向かう。
お堂の前に着くと、のっぺらぼうが階段に腰掛けて干し柿を食べていた。

「・・・のっぺらぼう、いつ見てもどうやって食べてるか分からないよね」

「口無いのに食べ物消えていってるもんな・・・」

 晴樹と静也がそう言うと、のっぺらぼうは皿に乗った干し柿を二人に差し出し
 ながら言った。

「人間と一緒にするナ」

 干し柿を受け取った静也と晴樹は、お礼を言いつつお堂の中へ入る。

「のっぺらぼうも中で食べればいいのに」

 天春がそう言うと、のっぺらぼうは干し柿を飲み込んで言った。

「ワレは外で食べたい気分なんダ」



 ―――お堂の中には、本を読んでいる天狗てんぐとその隣で干し柿を食べながら天狗の
 読んでいる本を覗き込んでいる落魅らくみが居た。

「いらっしゃい」

 天狗は顔を上げると、静也と晴樹にそう言って笑みを浮かべる。

「お邪魔します」

 静也と晴樹が声を揃えてそう言った後、天春が落魅を見ながら言った。

「落魅、それ僕の干し柿!」

 落魅は一瞬動きを止めた後、干し柿を飲み込みニヤリと笑う。

「あっしの分と一緒に皿の上に置いておくのが悪いんでさあ」

 そう言った落魅に、天狗は溜息を吐いて言った。

「素直に知らなかったと言えば良いものを・・・」

 天狗の言葉に落魅は無言で顔を背ける。

「知らなかったんなら、素直に言ってくれればそれで良いのにさー・・・」

 天春がそう言いながら落魅の隣を通り過ぎる。落魅は包帯で目元が隠れていても
 分かるほどにばつの悪そうな顔をしながら、ボソリと言った。

「・・・ごめん」

「うん、良いよ!」

 振り向いた天春は、そう言って嬉しそうに笑う。
 こうやって落魅は丸くなっていったんだろうなあ・・・なんて晴樹は考えながら、
 静也と共に天狗の傍に座るのだった。



―――天春の淹れたお茶を飲み、干し柿を食べながら静也と晴樹は妖刀狩りのことを
天狗達に話す。
話を聞き終わると、天狗は難しい顔をしながら言った。

「妖刀のことは雨谷うこくが一番詳しいじゃろう。ただ、境遇がのう・・・」

「言って良いのか分からないんだけどさ」

 天春がそう言って静也を見る。静也が首を傾げると、天春は意を決したように
 言った。

「・・・その妖刀狩り、何となく静っぽいんだよね」

「はあ?!」

 静也は意味が分からないと言いたげな顔で天春を見る。

「何て言うんだろう・・・。静はさ、元々僕達と仲良くしてたじゃん?だからまあ、
 妖への敵対心は置いておくとして。言動というか、ズレた固定観念というか・・・
 何となく、月陰つきかげ学園がくえんに入学する前の静っぽい感じがしてさ」

 言葉にするの難しい~!!と天春は頭を抱える。

「静兄、あんな感じだったの・・・?」

 晴樹がそう言って悲しそうな目で静也を見る。
 静也はあんまり覚えてないと呟くと、お茶を啜った。

「もし仮に妖刀狩りが過去の静也に似ているとして、どうこうできるものなんです
 かい?」

 落魅がそう言って天狗を見る。天狗は持っていた湯飲みを置くと、静かに言った。

「・・・わしには、どうしようもできんかったよ」

 お堂の中が静まり返る。暫しの無言の後、天狗は言った。

「まあ、静也くんが変われたんじゃ。その妖刀狩りも、変えようとすれば変わるの
 かもしれんの」

「・・・ま、戦わずに済むならそれに越したことはないよな」

 静也はそう言うと、食べ終わった干し柿のヘタを指先でクルクルと回した。
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