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卒業編
悪縁
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―――彩音の予想通り、午後の試験は妖討伐だった。クラス関係なく、くじ引きで
ランダムに決められた生徒と二人一組で中妖怪を討伐する。
大妖怪寄りの中妖怪もいるらしく、危険だと思ったらすぐに逃げるようにと伝え
られた。
くじを引き、同じ番号を持った生徒を探す。
あまり知らない人とやるのは嫌だな・・・なんて思っていると、目の前に見知った
顔が。
「・・・山霧、お前何番だ」
「・・・6番」
目の前に居る奴の手元を見ると、俺と同じく『6』と書かれた紙を持っていた。
二人して、同時に溜息を吐く。
「何でお前となんだよ・・・」
一瞬静かになった体育館に、俺と山野の声が同時に響いた。
―――俺と山野は、無言で討伐対象の情報が書かれたファイルを受け取りに向かう。
そこには皆も居て、俺と山野を見て苦笑いを浮かべた。
「最早運命だよね~」
そう言って笑う誠のペアは笹野くんらしく、笹野くんは俺を見てぺこりと頭を
下げる。
「一周回って安心するわね、そこ」
彩音がそう言ってクスクスと笑う。彩音のペアは・・・ああ、キャンプ誘ってきた
あの女子か。
「喧嘩するなよ?」
和正が俺と山野を交互に見て言う。和正のペアは山野の友人の一人で、うんうんと
頷いていた。
「こいつが喧嘩売らなきゃ喧嘩しねえよ」
山野がそう言って俺を指さす。
喧嘩売ってきてるのはお前だろと言おうとしたところで、晴樹が言った。
「静兄、喧嘩しても良いけど、怪我はしないでね」
「いやいや、喧嘩しても良いってことはないから!」
そうツッコミを入れる清水さんを見て気付く。・・・そこ、ペアなのか。
「・・・別に、喧嘩したくてしてる訳じゃない」
俺がそう言うと、山野は言った。
「分かってんだよそんなこと。・・・だけど、お前も俺も意見譲らねえだろ」
「お前に意見譲るのだけは何か嫌だ」
「同感だ」
ファイルを受け取り、俺達は歩き出す。後ろから、やっぱり仲良いんじゃ・・・と
呟く晴樹の声が聞こえた。
―――俺と山野は湖畔を歩く。討伐対象の妖の名前は、凍獣。見た目はラッコの
ようだが、どうも主食は人間らしい。
「地図だとこの辺りなんだが・・・」
山野がそう言って立ち止まる。普段は水中に住んでいるようで、倒すには地上に
おびき寄せるか湖に飛び込むしかないようだ。
水中戦は俺も山野も向いていないので、必然的に地上におびき寄せる以外の
選択肢がなくなる。
「おびき寄せる・・・」
自分で呟いて、ふと思い付く。人間を食べたことのある妖なら、自分の体質が
役に立つんじゃないだろうか。
「なあ山野、ちょっと下がっててくれ」
「はあ?何で」
「良いから」
俺の言葉に山野は怪訝な顔をしながらも数歩後ろへ下がる。俺は腕を捲ると片腕を
湖の中へ突っ込んだ。
想像以上に冷たい水に驚きながらも、水中で腕を動かす。すると、水面に一瞬黒い
影が見えた。
「え、お前何してんだ」
山野がそう言って近付いて来る。
「体質の活用」
俺がそう言うと、山野は首を傾げた。
俺の真似をして山野も腕を突っ込むが、反応はない。やっぱりニオイかなんて
思いつつ、俺は夜月を抜いた。
「・・・山野、このこと他の奴には黙っとけよ」
俺はそう言いながら、夜月で自分の腕に傷を付ける。ボタボタと血の流れる腕を
水に浸けた瞬間、水面が大きく波立った。
「ゴ馳走の、香り・・・!」
そう言いながら水面から飛び出してきた巨大なラッコのような妖は、俺を見て
舌なめずりをする。
「体質って、そういう・・・」
山野は納得しつつも、呆れたような目で俺を見る。
俺が湖から離れると、それを追いかけるように凍獣は陸に上がってきた。
よく見ると少し地面から浮いているようで、水中を泳ぐようにスイスイと移動して
いた。
「おい囮、凍獣絶対に湖に戻すんじゃねえぞ」
山野がそう言いながら鉄球を宙に浮かせる。
「誰が囮だ!」
俺はそう言いながら夜月を構える。思ったよりも深く傷を付けてしまったようで、
腕から流れ続ける血が制服を赤く染めた。
ランダムに決められた生徒と二人一組で中妖怪を討伐する。
大妖怪寄りの中妖怪もいるらしく、危険だと思ったらすぐに逃げるようにと伝え
られた。
くじを引き、同じ番号を持った生徒を探す。
あまり知らない人とやるのは嫌だな・・・なんて思っていると、目の前に見知った
顔が。
「・・・山霧、お前何番だ」
「・・・6番」
目の前に居る奴の手元を見ると、俺と同じく『6』と書かれた紙を持っていた。
二人して、同時に溜息を吐く。
「何でお前となんだよ・・・」
一瞬静かになった体育館に、俺と山野の声が同時に響いた。
―――俺と山野は、無言で討伐対象の情報が書かれたファイルを受け取りに向かう。
そこには皆も居て、俺と山野を見て苦笑いを浮かべた。
「最早運命だよね~」
そう言って笑う誠のペアは笹野くんらしく、笹野くんは俺を見てぺこりと頭を
下げる。
「一周回って安心するわね、そこ」
彩音がそう言ってクスクスと笑う。彩音のペアは・・・ああ、キャンプ誘ってきた
あの女子か。
「喧嘩するなよ?」
和正が俺と山野を交互に見て言う。和正のペアは山野の友人の一人で、うんうんと
頷いていた。
「こいつが喧嘩売らなきゃ喧嘩しねえよ」
山野がそう言って俺を指さす。
喧嘩売ってきてるのはお前だろと言おうとしたところで、晴樹が言った。
「静兄、喧嘩しても良いけど、怪我はしないでね」
「いやいや、喧嘩しても良いってことはないから!」
そうツッコミを入れる清水さんを見て気付く。・・・そこ、ペアなのか。
「・・・別に、喧嘩したくてしてる訳じゃない」
俺がそう言うと、山野は言った。
「分かってんだよそんなこと。・・・だけど、お前も俺も意見譲らねえだろ」
「お前に意見譲るのだけは何か嫌だ」
「同感だ」
ファイルを受け取り、俺達は歩き出す。後ろから、やっぱり仲良いんじゃ・・・と
呟く晴樹の声が聞こえた。
―――俺と山野は湖畔を歩く。討伐対象の妖の名前は、凍獣。見た目はラッコの
ようだが、どうも主食は人間らしい。
「地図だとこの辺りなんだが・・・」
山野がそう言って立ち止まる。普段は水中に住んでいるようで、倒すには地上に
おびき寄せるか湖に飛び込むしかないようだ。
水中戦は俺も山野も向いていないので、必然的に地上におびき寄せる以外の
選択肢がなくなる。
「おびき寄せる・・・」
自分で呟いて、ふと思い付く。人間を食べたことのある妖なら、自分の体質が
役に立つんじゃないだろうか。
「なあ山野、ちょっと下がっててくれ」
「はあ?何で」
「良いから」
俺の言葉に山野は怪訝な顔をしながらも数歩後ろへ下がる。俺は腕を捲ると片腕を
湖の中へ突っ込んだ。
想像以上に冷たい水に驚きながらも、水中で腕を動かす。すると、水面に一瞬黒い
影が見えた。
「え、お前何してんだ」
山野がそう言って近付いて来る。
「体質の活用」
俺がそう言うと、山野は首を傾げた。
俺の真似をして山野も腕を突っ込むが、反応はない。やっぱりニオイかなんて
思いつつ、俺は夜月を抜いた。
「・・・山野、このこと他の奴には黙っとけよ」
俺はそう言いながら、夜月で自分の腕に傷を付ける。ボタボタと血の流れる腕を
水に浸けた瞬間、水面が大きく波立った。
「ゴ馳走の、香り・・・!」
そう言いながら水面から飛び出してきた巨大なラッコのような妖は、俺を見て
舌なめずりをする。
「体質って、そういう・・・」
山野は納得しつつも、呆れたような目で俺を見る。
俺が湖から離れると、それを追いかけるように凍獣は陸に上がってきた。
よく見ると少し地面から浮いているようで、水中を泳ぐようにスイスイと移動して
いた。
「おい囮、凍獣絶対に湖に戻すんじゃねえぞ」
山野がそう言いながら鉄球を宙に浮かせる。
「誰が囮だ!」
俺はそう言いながら夜月を構える。思ったよりも深く傷を付けてしまったようで、
腕から流れ続ける血が制服を赤く染めた。
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