異能力と妖と

彩茸

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決戦編

告白

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―――目が覚めると部屋は薄暗く、隣で晴樹が寝息を立てていた。
痛みもなく普通に動く体で起き上がろうとして、気付く。俺の足の上で、落魅が
寝ていた。
落魅が邪魔で足が動かせない。蹴ってしまおうかとも考えたが、何となくやめて
おいた。

「・・・落魅、邪魔なんだけど」

 俺がそう言うと、落魅は目を覚ましたようで欠伸をしながら俺を見る。

「もうちょっと大人しくしてなせえ」

 そう言った落魅に、はあ?と返す。
 すると落魅は俺の隣に移動し、俺の頭を優しく撫でた。

「何だよ、いきなり・・・」

 意味が分からず、首を傾げる。すると、落魅は言った。

「晴樹の代わりでさあ。・・・お兄さん、今の状態がって気付いて
 やすか?」

「普通じゃない、って?俺、いつも通りのはずだけど」

 そう言った俺に、落魅は溜息を吐く。そして、俺の頭をもう一度優しく撫でると
 言った。

「あっしの知っている普段のお兄さんは、なんて言ってやせんでしたぜ?
 ・・・まあ、昔のあんたはそうだったって晴樹は言ってやしたけど」

「そうだっけ?・・・そう、だったかも」

 落魅に言われ、考えてみて気付いた。何故だろう、自分が思い出せない。
 記憶はあるのに、何処か違う人のことのように感じられて。
 考えれば考えるほど分からなくなり、頭が追い付かなくなる。

「俺、えっと・・・あれ??」

 普通って、何だったっけ。今まで俺はどうやって振舞っていたっけ。記憶を
 手繰り、自分の知っている自分を思い出そうとする。
 前・・・そうだ、狐と戦ったときも俺だった。その前は、雷羅と戦ったとき。
 その・・・前は?

「前は、前の・・・俺、は」

 前の俺は、何だっけ。どうしてこうなっているんだっけ。
 ・・・俺って、誰だっけ?

「静也」

 落魅が、初めて俺の名前を呼んだ。

「な、に・・・?」

 混乱する頭で落魅を見る。落魅は微笑むと、俺の頭を優しく、優しく撫でる。
 頭を撫でられていると段々と落ち着いてくる。混乱が収まった頃、落魅は俺の
 頭から手を離して言った。

「大丈夫ですかい?」

「大丈夫?・・・うん、多分大丈夫」

 俺がそう言うと、落魅は安心したように息を吐く。そして、少し恥ずかしそうに
 笑みを浮かべながら言った。

「前にあんたと二人で話したとき、何だかあんたとは仲良くなれそうな気がしたん
 でさあ。会話の内容まではちゃんと覚えていやせんが、そう思ったのは確かだ。
 ・・・・・・今言うのもあれだが、あっしと友達になりやせんか?」

「何で、今なんだよ・・・」

 思わず笑みが零れる。楽しいとはまた違う・・・何だっけ、この感情。
 俺はそっと落魅の包帯に手を添える。落魅は抵抗することなく笑みを浮かべて
 いた。

「うん、良いよ」

 俺はそう言いながら指先で包帯を撫でる。

「何ですかい、顔が見えねえと不安ですかい?」

 落魅はそう言いながら包帯を外す。
 鮮血のように赤く綺麗な瞳が、優しく俺を見ていた。

「お兄さん、あっしは・・・」

「名前で、呼んで」

 何かを言いかけた落魅を遮るように言うと、落魅は首を傾げつつも俺の名前を
 呼ぶ。何だか、心が温かくなるような気がした。

「あっしは、あんたを元に戻す方法は知りやせん。ただ、あんたを元に戻せた晴樹が
 どういう奴かは知っているつもりでさあ」

「・・・多分、晴樹じゃなくても良いんだ」

 俺がそう言うと、落魅は驚いた顔をする。
 ・・・本当に何となくだが、今の自分がおかしいことは分かった。だから、俺が
 別の自分になった瞬間のことを思い返してみた。
 雷羅のときは、雷羅の左腕がボトリと落ちた。狐のときは、晴樹に思いっ切り頬を
 叩かれた。・・・あの時、なんて思ったんだっけ。

「俺、俺さ・・・」

 落魅は静かに俺を見る。俺は俯くと、呟くように言った。

「元に戻ったあの時、限界だったんだ。やっちゃったって思って・・・泣きたくて、
 仕方がなかったんだ」

 落魅は何も言わずに俺の言葉を聞く。

「でも、今回は・・・八仙と戦って、凄く楽しくて。満足、しちゃったんだ」

「・・・そうですかい」

 落魅はそう言うと、俺の肩を叩く。顔を上げると、落魅は俺の隣を指さした。
 そちらに目を向けると、晴樹が目を開けてこちらを見ていて。晴樹と目が合うと、
 晴樹は苦笑いを浮かべて言った。

「おはよう、静兄」

「晴樹・・・」

 ごめん聞いてたと晴樹は言って、起き上がる。
 そして俺をそっと抱きしめると、頭を撫でながら言った。

「あのね、静兄。多分今の静兄は、気付いてないだけで限界なんだと思うよ。
 ・・・だから、僕が泣かせてあげる」

「・・・分かりやすぜ、晴樹の言いたいこと」

 落魅はそう言うと、俺の背中を撫でる。
 そして、晴樹と落魅は同時に言った。

「怖かったね、辛かったね。戦ってくれて、ありがとう」

 涙が溢れ、感情が込み上げてくる。
 怖かった、皆が自分を見て怯えているのが、大切な人が倒れていくのが、怖くて
 仕方がなかった。
 辛かった、痛みは感じずとも命が削られていく感じがした、もう逃げたいと、
 やめたいと心の何処かでは思っていた。
 ただ、楽しいという感情がそれを上回っていただけ。
 感覚が麻痺して、他のことはどうでも良くなっていただけ。

「俺、頑張ったよ・・・」

 絞り出すように言った言葉に、晴樹と落魅は言った。

「ありがとう、静兄。静兄が頑張ってくれたから、治療ができて僕は生きてる」

「静也が頑張っていたこと、あっし達は分かっていやす。・・・お疲れ様でさあ」

 我慢できず、嗚咽が漏れる。二人は、ずっと俺を優しく撫でてくれていた。



―――どれくらいの間泣いていただろう。ふと襲ってきた眠気に、嗚咽が止まる。

「・・・静兄、眠くなってきた?」

 晴樹が俺の頭を撫でながら言う。小さく頷くと、晴樹は俺を布団へ横たえた。
 止まらない涙を、落魅が拭ってくれる。

「これじゃあ、どっちが兄貴だか分かりやせんね」

 そう言って苦笑いを浮かべた落魅に、俺も笑みを浮かべる。

「俺、元に戻れるかな」

 そう呟いた俺に、晴樹は言った。

「僕は、よ。・・・まあ、一人称はそのままでも良いと思うけどね」

 昔の静兄に戻ったみたいで安心するし。そう呟くように言った晴樹に、落魅は
 クスリと笑う。

「これだけ泣いたんだ、目が覚めれば元通りでしょうぜ?」

 そう言って落魅は俺の頭を撫でる。

「・・・おやすみ、静兄」

 晴樹がそう言って俺の手を握る。

「おやすみなせえ、静也」

 落魅がそう言って微笑む。

「・・・・・・うん、おやすみ」

 俺はそう言って、目を閉じた。
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