異能力と妖と

彩茸

文字の大きさ
上 下
191 / 203
決戦編

変果

しおりを挟む
―――八仙の殺気が一瞬で消え去る。動揺した声を上げた八仙の首を夜月で刎ねる。
霧が消えると同時に地に落ちた八仙の頭は、体と共に塵となって消えた。

「は、ははは・・・」

 ああ、楽しかった。初めて、あそこまで楽しめた。
 余韻に浸っていた俺に、声が掛かる。そちらを見ると、怯えた顔をした皆が俺を
 見ていた。
 夜月を鞘に納め、近付く。震える皆には目もくれず、横たえられた晴樹に手を
 伸ばす。晴樹の頬が、赤く濡れる。

「晴樹・・・なあ、晴樹」

 晴樹は返事をしない。一瞬目の前が霞み、体の力が抜ける。

「安心しなせえ、生きてまさあ」

 俺の体を支えた落魅が、そう言ってそっと俺を横たえる。
 誠の手が、傷口に触れる。・・・全く、痛みを感じなかった。

「どうしよう、お腹の血が止まらない・・・」

 治癒術を掛けていた誠がそう呟き、泣きそうな顔をする。

「傷口、焼いてみるか・・・?」

 和正がそう言って誠を見る。誠は小さく頷き、俺を見た。

「静くん、痛いかもしれないけど・・・我慢できる?」

「・・・ああ、多分大丈夫だろ。痛いとか分からないんだ、今」

 誠の言葉にそう言うと、皆が困惑した顔をする。
 和正が服のボタンを外し傷口に手を当てる。ジュッという音と少し焦げるような
 臭いの後、和正は言った。

「一応、塞がったけど・・・大丈夫か?」

 俺が頷くと、落魅が俺の腹を包帯で巻く。

「あっしが巻いてたやつだが・・・まあ、我慢しなせえ」

 クスリと笑うと、落魅に睨まれた。
 包帯を巻き終えると、落魅は晴樹を背負って立ち上がる。俺もボタンを留めて
 立ち上がろうとすると、彩音が言った。

「もう、動かないでよ・・・。体ボロボロじゃない」

「俺、まだ普通に動けるけど」

 俺の言葉に、彩音は目を見開く。すると、清水さんが言った。

「お兄さん、このままだと本当に動けなくなっちゃいますよ。晴樹くんが起きた
 とき、お兄さんが居ないと・・・きっと、泣いちゃいます」

「・・・そうか、それは嫌だな」

 どうすれば良い?と俺は首を傾げる。

「取り敢えず、和正にでもおぶられなせえ。きっとその辺で雨谷が見てやす、雪華も
 傍にいると思いやすぜ?」

 安全な場所まで運んでもらいやしょう。そう言った落魅の言葉に頷くと、和正が
 俺をおぶった。

「あ・・・忘れてた」

 俺はそう呟くと、和正にあれ拾ってくれと落ちている陽煉を指さす。
 和正は陽煉を拾って鞘に納めると、俺に渡して言った。

「・・・どうする気だ、それ」

 俺は陽煉を夜月の隣に提げると、小さく笑って言った。

「製作者に返すんだ」



―――和正におぶられながら少し歩くと、ヘラヘラと笑いながら俺達に手を振る
雨谷が居た。その傍では雪華が安心したような顔をしており、俺達に向かって頭を
下げる。

「やっほ~シズちん、良い戦い見せてもらったよ。楽しかった?」

 雨谷がそう言いながら俺に近付いて来る。
 警戒するように一歩下がった和正に大丈夫だと告げ、俺は笑顔で言った。

「ああ、すっげえ楽しかった!」

 皆の息を呑む音が聞こえる。雨谷は少し驚いた顔をすると、俺の目をじっと見て
 言った。

「・・・ああ、まだないのか」

 首を傾げた俺に、雨谷は困ったなと呟く。

「・・・静くんの知り合いなの?」

 誠がそう言って雨谷を見る。雨谷はヘラヘラと笑うと言った。

「知り合いだよ~。自己紹介しておこうか?オイラは雨谷、妖だ」

「妖なのはニオイで分かってるよ。・・・静くんの知り合いなら、何で見てるだけで
 静くんを止めようとしなかったの?」

 誠が雨谷を睨みつけると、雨谷は困ったように笑う。

「君だって、シズちんの殺気で動けなかった癖に~。・・・逃げようか迷ったけど、
 どうしても見たかったんだよね。夜月の所有者と、陽煉の所有者の戦いをさ」

 オイラの作った妖刀の所有者同士が戦うなんて、滅多に見られないからね~と
 笑った雨谷に、誠は驚いた顔をする。

「この人、静くんが前に言ってた・・・?」

 誠がそう言って俺を見たので、俺は頷くと笑って言った。

「そうそう、前に父さんと母さんのふりして学校に来た奴!」

 俺の言葉に、皆は驚いた顔をしつつも納得したような表情を浮かべる。

「あれ、オイラ達そういう認識なの?」

「・・・雨谷様、私達のことは他の人間には話していないと前に晴樹様が仰って
 おりました。その様な認識になっているのも、納得かと」

「えー、マジい?それじゃあオイラ達、悪者みたいじゃんか~」

 雨谷と雪華の会話を聞いていると、後ろの方からガサリと音がする。
 そちらを見ると、田中さんと石田さんが立っていた。

「あれ、祓い屋だ」

 そう言った雨谷を、田中さんは睨みつける。

「・・・大妖怪が二体と、中妖怪が一体ですか。君達、離れていてください」

 そう言った田中さんに、雨谷はヘラヘラと笑って言った。

「よく分かったね?オイラ達が妖だって」

「あなたからは、嫌な音がするので」

 田中さんはそう言って石田さんと共に武器を構える。すると、誠が言った。

「田中さん、ちょっと待って!この人達、多分敵じゃないんだ!」

 首を傾げた田中さんに、誠はえっと・・・と雨谷を見る。
 雨谷は田中さんをじっと見つめた後、ニッコリと笑って言った。

「君の能力は、その耳かな?・・・うーん、警戒を解きたいんだけどな~。
 ・・・ああ、って言うのが良いのかな?」

 田中さんは目を見開く。誠も驚いた顔をして俺を見たので、頷いた。
 誠は田中さんに、彩音と清水さんは石田さんに先程までの出来事を報告する。
 三人とも他の人の話はしても頑なに俺の話はしなかったので、何だかモヤモヤ
 した。

「・・・お前のこと話したら、事が大きくなるだろ」

 俺の考えていることを察したのか、和正が小さな声で言う。

「俺、頑張ったのに・・・」

 そう呟くと、近付いて来た落魅が俺の頭をポンポンと撫でた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

稀代の大賢者は0歳児から暗躍する〜公爵家のご令息は運命に抵抗する〜

撫羽
ファンタジー
ある邸で秘密の会議が開かれていた。 そこに出席している3歳児、王弟殿下の一人息子。実は前世を覚えていた。しかもやり直しの生だった!? どうしてちびっ子が秘密の会議に出席するような事になっているのか? 何があったのか? それは生後半年の頃に遡る。 『ばぶぁッ!』と元気な声で目覚めた赤ん坊。 おかしいぞ。確かに俺は刺されて死んだ筈だ。 なのに、目が覚めたら見覚えのある部屋だった。両親が心配そうに見ている。 しかも若い。え? どうなってんだ? 体を起こすと、嫌でも目に入る自分のポヨンとした赤ちゃん体型。マジかよ!? 神がいるなら、0歳児スタートはやめてほしかった。 何故だか分からないけど、人生をやり直す事になった。実は将来、大賢者に選ばれ魔族討伐に出る筈だ。だが、それは避けないといけない。 何故ならそこで、俺は殺されたからだ。 ならば、大賢者に選ばれなければいいじゃん!と、小さな使い魔と一緒に奮闘する。 でも、それなら魔族の問題はどうするんだ? それも解決してやろうではないか! 小さな胸を張って、根拠もないのに自信満々だ。 今回は初めての0歳児スタートです。 小さな賢者が自分の家族と、大好きな婚約者を守る為に奮闘します。 今度こそ、殺されずに生き残れるのか!? とは言うものの、全然ハードな内容ではありません。 今回も癒しをお届けできればと思います。

聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜

みおな
ファンタジー
 ティアラ・クリムゾンは伯爵家の令嬢であり、シンクレア王国の筆頭聖女である。  そして、王太子殿下の婚約者でもあった。  だが王太子は公爵令嬢と浮気をした挙句、ティアラのことを偽聖女と冤罪を突きつけ、婚約破棄を宣言する。 「聖女の地位も婚約者も全て差し上げます。ごきげんよう」  父親にも蔑ろにされていたティアラは、そのまま王宮から飛び出して家にも帰らず冒険者を目指すことにする。  

便利屋ブルーヘブン、営業中。~そのお困りごと、大天狗と鬼が解決します~

卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。 店主の天さんは、実は天狗だ。 もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。 「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。 神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。 仲間にも、実は大妖怪がいたりして。 コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん! (あ、いえ、ただの便利屋です。) ----------------------------- ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。 カクヨムとノベプラにも掲載しています。

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト
ファンタジー
魔王を倒し、邪神を滅ぼし、五年の冒険の果てに役割を終えた勇者は地球へと帰還する。 しかし、遂に帰還した地球では何故か三十年が過ぎており……しかも、何故か普通に魔術が使われており……とはいえ最強な勇者がちょっとおかしな現代日本で無双するお話です。

転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。

黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~

大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア 8さいの時、急に現れた義母に義姉。 あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。 侯爵家の娘なのに、使用人扱い。 お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。 義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする…… このままじゃ先の人生詰んでる。 私には 前世では25歳まで生きてた記憶がある! 義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから! 義母達にスカッとざまぁしたり 冒険の旅に出たり 主人公が妖精の愛し子だったり。 竜王の番だったり。 色々な無自覚チート能力発揮します。 竜王様との溺愛は後半第二章からになります。 ※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。 ※後半イチャイチャ多めです♡ ※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...