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決戦編
絶望
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―――誠の治療を受け、折れた骨以外は元の状態に戻る。和正と清水さんも意識を
取り戻し、僕達は八仙と渡り合っている落魅を見た。
「あれ・・・誰だ?」
和正がそう言って首を傾げる。落魅だと答えると、え?!と目を丸くしていた。
「包帯巻いてない落魅って、あんな顔してたのね・・・」
彩音が呟く。隣で清水さんもコクコクと頷いていた。
「何で助けてくれたんだろう・・・」
折れた骨の治療をしてくれている誠が、そう言って不思議そうな顔をする。
「落魅って、素直じゃないだけで良い奴なんだよ」
僕と晴樹の声が被る。顔を見合わせ笑った僕達を、皆は驚いた顔で見ていた。
そういえばと思い出し、僕は麗奈さんを見る。麗奈さんは未だに気絶しており、
離れた場所で木に寄り掛かるようにして眠っていた。
「・・・一応、治ったと思う。でもさっきよりも折れやすくなってるから、気を
付けて」
誠がそう言って僕から手を離す。僕は頷くと、立ち上がった。
「皆は待ってて。・・・僕、これ以上皆が怪我するのは見たくないんだ」
晴樹がそう言って立ち上がる。でも・・・と言った誠に、晴樹は言った。
「誠くんは、皆の治療に専念してて。静兄の治療優先してもらったから、まだ皆の傷
ちゃんと治してないでしょ?」
誠は小さく頷く。心配そうな顔をしている和正、彩音、清水さんを見て、僕は
言った。
「大丈夫」
本当は大丈夫だなんて思っていない。さっきから、ずっと嫌な予感がしていた。
こういう時の勘は嫌なくらいに当たるんだよな。そう思いながら、僕は夜月を
抜く。
そうして僕は、晴樹と共に八仙の元へ駆け出した。
―――僕に向かう攻撃を、落魅が受け止める。後ろから、晴樹が射撃する。
僕は夜月を振り下ろし、八仙はそれを避ける。
防戦一方だった戦況は、落魅のおかげで少しだけ改善した。それでも、本当に少し
だけである。
落魅は戦いながら何度か能力をオフにしているようで、たまに反応が遅れていた。
目の温存をしなければいけないほど長く続く攻防に、疲労が溜まる。
晴樹も僕達の動きを見ながら弾が当たるように移動し続けているようで、後ろから
荒い息遣いが聞こえた。
「くっそ・・・」
落魅の呟く声が聞こえる。気付けば僕も落魅も傷だらけで、僕達に比べてあまり
傷付いていない八仙は余裕の笑みを浮かべる。
「ここまでわたしと戦えたのは、君達が初めてだよ」
そう言った八仙から、おぞましいほどの殺気が発せられる。
彼の殺気で、ビリビリと空気が震えているような気がした。
誠に治してもらってから大きな傷は負っていないはずなのに、心がザワリと
揺れる。込み上げてくる恐怖とは違う感情を、必死に抑える。
「お兄さん、幻霧でどうにかならねえんですかい」
八仙から距離を取った落魅が、僕の隣に来て小声で言う。
「・・・経験則だけど、幻霧って相手が怖がってくれないと発動しないんだよな」
僕が小声でそう返すと、万能じゃないんですねい・・・と落魅は呟いた。
「わたしは、楽しみにしていたんだけどね」
殺気はそのままに、八仙はそう言って僕を見る。
「・・・何をだ」
僕がそう言うと、八仙は笑みを浮かべて言った。
「前に会ったとき、一瞬君の殺気が変わった。初めてだったよ、あんな気分は。
・・・どうやったら、もう一度見せてくれるのかな?」
その瞬間、前に居た八仙と隣に居た落魅が、僕の視界から姿を消した。
ハッとして後ろを見ると、落魅が晴樹から守るようにして八仙に斬りつけられて
いた。
倒れる落魅に、目を見開く晴樹。そして晴樹を斬りつける八仙。
全てがスローモーションのように見える。
足を踏み出し、手を伸ばす。そして・・・僕の目の前で、血を吹き出している
晴樹の胸に陽煉が突き刺さった。
「カハッ・・・」
晴樹は一瞬僕を見る。目から、光が消えていった。
八仙が陽煉を引き抜くと同時に、晴樹が地面に崩れ落ちる。
僕の中で、何かがはじけ飛んだ。
八仙が、笑みを浮かべてこちらを見る。目の前で倒れた大切な弟に、意識があった
らしい落魅が地に伏しながら手を伸ばす。
かすかに残った理性が完全に消える前に、僕は落魅に言った。
「・・・あとは頼んだ、落魅」
そうして僕は・・・俺は、自分の感情に身を任せた。
取り戻し、僕達は八仙と渡り合っている落魅を見た。
「あれ・・・誰だ?」
和正がそう言って首を傾げる。落魅だと答えると、え?!と目を丸くしていた。
「包帯巻いてない落魅って、あんな顔してたのね・・・」
彩音が呟く。隣で清水さんもコクコクと頷いていた。
「何で助けてくれたんだろう・・・」
折れた骨の治療をしてくれている誠が、そう言って不思議そうな顔をする。
「落魅って、素直じゃないだけで良い奴なんだよ」
僕と晴樹の声が被る。顔を見合わせ笑った僕達を、皆は驚いた顔で見ていた。
そういえばと思い出し、僕は麗奈さんを見る。麗奈さんは未だに気絶しており、
離れた場所で木に寄り掛かるようにして眠っていた。
「・・・一応、治ったと思う。でもさっきよりも折れやすくなってるから、気を
付けて」
誠がそう言って僕から手を離す。僕は頷くと、立ち上がった。
「皆は待ってて。・・・僕、これ以上皆が怪我するのは見たくないんだ」
晴樹がそう言って立ち上がる。でも・・・と言った誠に、晴樹は言った。
「誠くんは、皆の治療に専念してて。静兄の治療優先してもらったから、まだ皆の傷
ちゃんと治してないでしょ?」
誠は小さく頷く。心配そうな顔をしている和正、彩音、清水さんを見て、僕は
言った。
「大丈夫」
本当は大丈夫だなんて思っていない。さっきから、ずっと嫌な予感がしていた。
こういう時の勘は嫌なくらいに当たるんだよな。そう思いながら、僕は夜月を
抜く。
そうして僕は、晴樹と共に八仙の元へ駆け出した。
―――僕に向かう攻撃を、落魅が受け止める。後ろから、晴樹が射撃する。
僕は夜月を振り下ろし、八仙はそれを避ける。
防戦一方だった戦況は、落魅のおかげで少しだけ改善した。それでも、本当に少し
だけである。
落魅は戦いながら何度か能力をオフにしているようで、たまに反応が遅れていた。
目の温存をしなければいけないほど長く続く攻防に、疲労が溜まる。
晴樹も僕達の動きを見ながら弾が当たるように移動し続けているようで、後ろから
荒い息遣いが聞こえた。
「くっそ・・・」
落魅の呟く声が聞こえる。気付けば僕も落魅も傷だらけで、僕達に比べてあまり
傷付いていない八仙は余裕の笑みを浮かべる。
「ここまでわたしと戦えたのは、君達が初めてだよ」
そう言った八仙から、おぞましいほどの殺気が発せられる。
彼の殺気で、ビリビリと空気が震えているような気がした。
誠に治してもらってから大きな傷は負っていないはずなのに、心がザワリと
揺れる。込み上げてくる恐怖とは違う感情を、必死に抑える。
「お兄さん、幻霧でどうにかならねえんですかい」
八仙から距離を取った落魅が、僕の隣に来て小声で言う。
「・・・経験則だけど、幻霧って相手が怖がってくれないと発動しないんだよな」
僕が小声でそう返すと、万能じゃないんですねい・・・と落魅は呟いた。
「わたしは、楽しみにしていたんだけどね」
殺気はそのままに、八仙はそう言って僕を見る。
「・・・何をだ」
僕がそう言うと、八仙は笑みを浮かべて言った。
「前に会ったとき、一瞬君の殺気が変わった。初めてだったよ、あんな気分は。
・・・どうやったら、もう一度見せてくれるのかな?」
その瞬間、前に居た八仙と隣に居た落魅が、僕の視界から姿を消した。
ハッとして後ろを見ると、落魅が晴樹から守るようにして八仙に斬りつけられて
いた。
倒れる落魅に、目を見開く晴樹。そして晴樹を斬りつける八仙。
全てがスローモーションのように見える。
足を踏み出し、手を伸ばす。そして・・・僕の目の前で、血を吹き出している
晴樹の胸に陽煉が突き刺さった。
「カハッ・・・」
晴樹は一瞬僕を見る。目から、光が消えていった。
八仙が陽煉を引き抜くと同時に、晴樹が地面に崩れ落ちる。
僕の中で、何かがはじけ飛んだ。
八仙が、笑みを浮かべてこちらを見る。目の前で倒れた大切な弟に、意識があった
らしい落魅が地に伏しながら手を伸ばす。
かすかに残った理性が完全に消える前に、僕は落魅に言った。
「・・・あとは頼んだ、落魅」
そうして僕は・・・俺は、自分の感情に身を任せた。
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