異能力と妖と

彩茸

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工房編

成長

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―――次の日も、その次の日も、僕と雨谷は落魅と戦っていた。
最初はかなり怯えていた落魅だが、段々と能力をオフにすることへの恐怖心が薄れて
きたらしい。
その様子を見た雨谷にじゃあ先へ進もうかと言われ、落魅は戦闘中にも能力をオフに
する練習をしていた。

「良いねえ、その調子だよ~」

 休憩中の落魅に、雨谷がそう言ってヘラヘラと笑う。

「あんたらは手加減してくれているからともかく・・・普段の戦闘じゃあ、途中で
 能力切るなんて危なすぎやせんか」

 落魅が地面に座ったままそう言うと、雨谷は笑って言った。

「元々能力分でかなり有利になってるんだから、見えなくしたところで他の奴らと
 同じになるだけだよ~」

「というかそもそも、僕に関しては手加減というより殺さないように気を付けてる
 だけだぞ?手は抜いてないと思うけど」

「・・・お兄さんの場合は、殺意がないだけで十分な手加減なんでさあ」

 僕の言葉に落魅はそう言うと、溜息を吐く。

「シズちんが本気で殺そうとした時の殺気、すっごい怖いんだよね~。シズちんが
 暴走してたとき、オイラめっちゃ逃げたかったもん」

 動けなかったけど~と雨谷が笑うと、落魅は頷いて呟くように言った。

「あの状況でお兄さんの腕掴んだだけでも、褒めてほしいくらいですぜ・・・」

「え、何か・・・ごめん」

 僕が謝ると、落魅はクスリと笑う。

「・・・まあ殺気も怖いけど。暴走してるときのシズちんはタケちんよりも強いし、
 力尽くで止めるなんて無理だから更に怖いんだよね」

 ボソッと雨谷が呟く。
 驚いて雨谷を見ると、雨谷は僕の顔を見てヘラヘラと笑った。

「さ、続きやろっか!」

 雨谷がそう言うと、落魅は立ち上がる。

「・・・いつか能力禁止で戦ってみやしょう、お兄さん」

 落魅は僕を見ると、そう言って笑みを浮かべた。



―――それから数日後の、夏休み最終日。僕、晴樹、落魅は雨谷と雪華に別れを
告げて山を下りる。
天狗さんが待っているという場所に向かいながら、僕は隣を歩く落魅に聞いた。

「・・・落魅、能力のオンオフできるようになったのに、何で包帯巻いてるんだ?」

「こっちのほうが安心するんでさあ。目が疲れないなら能力使ってても良いって
 雨谷に言われやしたし」

 落魅がそう言って小さく欠伸をする。

「寝不足?」

 晴樹が聞くと、落魅は言った。

「・・・昨晩、あんたらが寝ている間に雨谷が酒片手にあっしを呼び出しやしてね。
 晩酌に付き合わされてたんでさあ」

「落魅お酒飲めるの?!」

 驚いた様子の晴樹に、落魅は頷く。

「といっても、あんまり乗り気じゃなかったんですがねい」

「何か理由でもあるのか?」

 落魅の言葉に僕がそう聞くと、落魅は凄く嫌そうな顔をして言った。

「・・・酔った天狗に、潰れるまで無理矢理飲まされたんでさあ。のっぺらぼうと
 天春はこっそり逃げ出しやがるしで、それ以来どうも苦手意識がありやして
 ねい・・・」

 深い溜息を吐いた落魅に僕達は何も言えず、ただ落魅の肩をポンと叩いた。
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