異能力と妖と

彩茸

文字の大きさ
上 下
177 / 203
工房編

限界

しおりを挟む
―――落魅の隣に座り、何を話そうかと考える。

「・・・狐と戦ったあの日まで、落魅はただの悪い奴だと思ってたよ」

 自分で言った後、やらかしたと思った。明らかに苦しそうな奴にする話じゃない
 だろなんて思っていると、落魅は言った。

「あっしから見れば、突然兄貴面して無理矢理仲間を奪った奴でしたぜ?お兄さん」

「それはお前が晴樹を連れ去ったからだろ!」

「大きな声出さねえでくだせえ・・・頭に響く」

「あ、ごめん・・・」

 僕が謝ると、落魅はクスリと笑う。そんな笑い方できたのかなんて思っていると、
 落魅は焦点が合わないながらも僕を見た。

「あっしもまさか晴樹に兄貴がいるとは思いませんでしてねい。それは悪かったと
 思ってまさあ」

「晴樹、何も言ってなかったのか?」

「出会った時に両親が殺されたって話は聞きやしたがね。他じゃあ、寝言くらい
 でしか聞いてやせんよ」

「寝言?」

「両親に謝ってやしたぜ・・・何度も、何度も」

 落魅の言葉に何も言えず俯く。
 何か言わなきゃ。そう思いながら、僕は聞いた。

「・・・晴樹のこと、どう思ってるんだ」

「放っておけない奴、ですかねい。・・・何だかんだ、一緒にいて楽しかったん
 でさあ」

「何かお前・・・いつもより素直だな」

 落魅の返答に驚き思わずそう言うと、落魅は僕から視線を外しボソッと呟いた。

「気でも弱くなっちまってるんですかねい・・・」



―――僕と落魅は会話を続ける。いつもと比べてかなり素直な落魅に、自然と彼への
感情が変わっていくような感じがした。
前に晴樹から話を聞いて良い奴なんじゃないかとは思っていたが、何だか落魅とは
仲良くなれそうな気がしてきた。
・・・話し始めてからどれくらい経っただろう。突然落魅が呻き声を上げ、ふらりと
倒れた。

「落魅?!」

 慌てて落魅を揺すると、落魅は薄っすらと目を開けて消え入りそうな声で呟いた。

「も・・・無理・・・」

 そのまま気絶してしまった落魅をどうにか背負って彼に宛がわれた部屋へ運び、
 布団に寝かせる。
 部屋を出ようと立ち上がると、扉の外から気配がした。

「雨谷・・・」

 僕は扉を開け、そこに立っていた雨谷を見る。
 雨谷はヘラヘラと笑うと、僕を廊下に連れ出した。

「いや~、結構頑張ってたね落魅。もっと早くダウンするものだと思ってたよ~」

 そう言った雨谷は楽しそうに笑う。やりすぎだろと僕が雨谷を睨むと、雨谷は
 ヘラヘラと笑った。

「シズちんも結構お人好しだよね~。・・・まあ、ああいう性格の妖は、体に教え
 込むのが一番早いんだよ」

「どういうことだ?」

「限界の感覚を体に教え込むことで、体はそれを回避しようと工夫する。それなりに
 プライドの高い奴に懇切丁寧に教え込んだところで、ちゃんと言うこと聞くかは
 分からないからねえ。多少強引でもそうやった方が早いんだよ~」

 弱るとあそこまで素直になるのはちょっと計算外だったけど。そう呟いた雨谷は、
 少しばつの悪そうな顔をしていた。

「ほら、シズちんは部屋に戻りな?睡眠不足でフラフラになるよ~」

 雨谷にそう言われ、おやすみと言って僕は部屋に戻る。
 暑いのか布団から足を出して眠る晴樹にクスリと笑いながら、僕は布団に潜り込む
 のだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

処理中です...