異能力と妖と

彩茸

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工房編

問答

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―――晴樹が雪華に料理を教えてもらうため部屋を出た後、僕と落魅は雨谷と雑談を
していた。どうやら落魅は数年単位で拠点を転々としていたらしく、雨谷がそこでの
話を興味津々といった様子で聞いていた。

「落魅はさあ、次何処行くとか決めてるの?」

 雨谷の問いに、落魅は少し考える。そして、小さく息を吐くと言った。

「・・・まあ、当分の間は霧ヶ山にいることになりやすね。あっしのこと野放しに
 する気はなさそうなんでさあ、あの天狗」

「なるほどねえ。・・・ま、命の保証してもらえてるだけ良いんじゃない?」

「そうなんですかねい・・・」

 雨谷の言葉に落魅はそう言って溜息を吐く。そしてボソッと呟いた。

「流石にもう大人しくするってのに・・・」

「え、意外」

 僕がそう言うと、落魅は不機嫌そうな声で言った。

「身近に敵わないって分かってる大妖怪が二人もいるのに、頂点も何もない
 だろうが」

「・・・それもそうか」

 僕がそう言うと、雨谷が聞いた。

「そういえば、落魅の妖術って何?」

「・・・あっしは妖術使えやせんぜ」

「え、そうなの?」

 キョトンとしている雨谷に、落魅のについて説明する。
 話を聞き終わった雨谷は、へえと呟く。
 その瞬間、落魅が眼前で雨谷の腕を掴んでいた。雨谷は面白そうに笑うと、落魅に
 言った。

「凄いね~、君!良い目をしてる」

「何なんですかい、いきなり・・・」

 落魅が手を離すと、雨谷は腕を引く。そして落魅をじっと見つめると言った。

「でも君、ちょっと目に頼りすぎかもね~」

 首を傾げた落魅に雨谷はヘラヘラと笑うと、僕を見て言った。

「ねえシズちん、君の能力霧だったよね?」

「え、そうだけど・・・」

「濃霧出せたりする?」

「出そうと思えば・・・」

 何だいきなりと思っていると、雨谷はニッコリと笑う。

「落魅の視界、塞いでくれる?」

「・・・は?」

 落魅と声が被る。逃げ出そうとした落魅の腕を雨谷は掴むと、僕を見た。
 困惑しながらも霧を出し、動けない落魅の視界を濃霧で塞ぐ。

「お兄さん何してくれてるんですかい!」

 そう言って霧を払おうとする落魅の後ろに手を回した雨谷は、落魅の包帯を取る。
 もう良いよ~と言われて霧を消すと、落魅の鮮血のような赤い瞳が僕を睨みつけて
 いた。

「落魅、ちょっとこっち見てくれる~?」

 雨谷の言葉に落魅が雨谷の顔を見た瞬間、動きを止めた。
 落魅の視線は雨谷の目に釘付けになっており、もしかして自分と同じことをされて
 いるんじゃないかと思う。

「落魅さ、その目って常に使ってるの?」

「・・・逆に、目を使わずにどうやって物を見るんですかい」

「そうじゃなくて。小さい動き、常に見てるの?」

 雨谷の問いに落魅は少し悩む様子を見せると、口を開いた。

「・・・目を開けている間はそうですねい。まあ、包帯の有無で見え方は違い
 やすが」

「目、疲れない?」

「包帯があれば」

「包帯ないときは?」

「疲れやすよ、そりゃあ」

 雨谷はそっか~というとニッコリと笑う。解放されたらしき落魅は雨谷を恨めし
 そうに見ると、返してくだせえと雨谷の持っている包帯を指さした。
 雨谷は包帯を持ったまま一歩下がる。そして、ヘラヘラと笑って言った。

「いや~、オイラちょっと君の限界を見てみたい」

「はあ?!」

 意味が分からないといった顔で落魅は雨谷を見る。何でそんなこと・・・と僕が
 呟くと、雨谷は言った。

「実は、狗神経由で霧ヶ山の天狗に頼まれたんだよね~。落魅を強くしてやって
 くれって」

 オイラと似てるって言ってたけど、まさかのこととはね~と雨谷は笑う。

「何で天狗が・・・」

 そう呟いた落魅に雨谷はさあね?と言い、ヘラヘラと笑う。

「・・・雨谷も妖術使えないのか?」

 僕が聞くと、雨谷はまあね~と苦笑いを浮かべる。

「オイラの場合、微かに残った神通力で刀を出したりはできるけどね~。妖力は全部
 この目に使われてる」

「あんたの目は何ができるんですかい」

 落魅の言葉に、雨谷はヘラヘラと笑って言った。

「落魅もシズちんも経験したでしょ?オイラが目を見つめたとき、嘘が吐けなく
 なってたと思うんだけど」

 確かにと僕は頷き落魅を見ると、落魅も悔しそうな顔をしながら頷いていた。

「オイラは直接相手の目を見ることで、相手の脳に干渉できる。といっても、何でも
 かんでもできる訳じゃないけどね~」

 気持ちを誘導させても体を操ったりとかは無理~と笑う雨谷に、落魅は言った。

「あんた今、あっしらの目を見てるじゃないですかい。今は何ともありやせんが?」

「オイラちゃんと能力のオンとオフはしてるからね~」

 雨谷の言葉に、落魅は驚いた顔をする。
 そんなことが出来るのかと僕が雨谷を見ると、彼はニッコリと笑って言った。

「コツさえ掴めばできるよ!」
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