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工房編
結界
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―――天狗さん達の方が忙しかったらしく、夏休み終盤に僕達は雨谷の元へと
向かった。
天春は別の用事があるとかで、天狗さんの妖術で連れて来てもらう。二度目だから
大丈夫だとは言ったのだが、念の為と落魅が同行することになった。
天狗さんの姿が見えなくなった後、落魅が深い溜息を吐く。
「頼まれた仕事早く終わらせた日に限ってこれですかい・・・」
そう言った落魅に、何かごめんと晴樹が苦笑いを浮かべる。
歩き出した落魅の後ろを付いて行くと、暫く行った所で落魅が立ち止まった。
「ほら、行ってきなせえ」
「そういや結界あるんだったな」
僕がそう言うと、落魅は頷く。そんな時、僕達を呼ぶ声が聞こえた。
声のした方を見ると、雪華が笑みを浮かべて立っていた。
「お待ちしておりました。静也様、晴樹様、落魅様」
「・・・何であっしも?」
落魅が首を傾げると、雪華は言った。
「雨谷様が、落魅様も招待すると仰っておりまして。なので、おそらく結界内にも
入れるかと」
僕が数歩先に進むと空気が変わる。なるほどここから結界内かなんて思いながら
落魅を見ると、恐る恐る前に進んでいた。
「落魅、早く」
僕の隣に居た晴樹がそう言うと、落魅は意を決したように僕の隣へ足を踏み出す。
おお・・・と小さく呟く声が聞こえ思わず吹き出すと、落魅に睨まれたような気が
した。
―――雪華の後ろを付いて歩き、僕達は建物内へ入る。通された部屋では雨谷が本を
読んでいた。
雨谷は僕達を見ると本を閉じ、いらっしゃ~いとニコニコ笑う。座って座ってと
言われ大人しく座ると、雨谷は落魅に言った。
「落魅、ちゃんと五体満足で入れた?」
落魅が頷くと、雨谷はやっぱり狗神の結界は優秀だね~と笑う。
「お茶をご用意致します。少々お待ちください」
雪華がそう言って部屋を出て行くと、雨谷が言った。
「狗神から聞いたんだけど・・・シズちんとハルちん、妖刀の所有者と会ったん
だって?」
僕と晴樹が頷くと、雨谷はヘラヘラと笑って言った。
「陽煉ってさ、オイラが妖に堕ちて初めて作った刀なんだよね~」
「は?!」
「そうなの?!」
驚いた僕と晴樹に雨谷はケラケラと笑う。
「もうね、正直言うと恨みめっちゃ込めて作っちゃったやつだからさあ、それを
使えてるってだけでその妖マジでヤバい奴なんだよね~」
普通の妖なら気が狂って死んでると思うよ~?なんて言ってヘラヘラと笑う
雨谷に、開いた口が塞がらない。
雪華がお茶を持ってくるまでフリーズしていた僕と晴樹を、落魅は馬鹿にする
ように笑うのだった。
向かった。
天春は別の用事があるとかで、天狗さんの妖術で連れて来てもらう。二度目だから
大丈夫だとは言ったのだが、念の為と落魅が同行することになった。
天狗さんの姿が見えなくなった後、落魅が深い溜息を吐く。
「頼まれた仕事早く終わらせた日に限ってこれですかい・・・」
そう言った落魅に、何かごめんと晴樹が苦笑いを浮かべる。
歩き出した落魅の後ろを付いて行くと、暫く行った所で落魅が立ち止まった。
「ほら、行ってきなせえ」
「そういや結界あるんだったな」
僕がそう言うと、落魅は頷く。そんな時、僕達を呼ぶ声が聞こえた。
声のした方を見ると、雪華が笑みを浮かべて立っていた。
「お待ちしておりました。静也様、晴樹様、落魅様」
「・・・何であっしも?」
落魅が首を傾げると、雪華は言った。
「雨谷様が、落魅様も招待すると仰っておりまして。なので、おそらく結界内にも
入れるかと」
僕が数歩先に進むと空気が変わる。なるほどここから結界内かなんて思いながら
落魅を見ると、恐る恐る前に進んでいた。
「落魅、早く」
僕の隣に居た晴樹がそう言うと、落魅は意を決したように僕の隣へ足を踏み出す。
おお・・・と小さく呟く声が聞こえ思わず吹き出すと、落魅に睨まれたような気が
した。
―――雪華の後ろを付いて歩き、僕達は建物内へ入る。通された部屋では雨谷が本を
読んでいた。
雨谷は僕達を見ると本を閉じ、いらっしゃ~いとニコニコ笑う。座って座ってと
言われ大人しく座ると、雨谷は落魅に言った。
「落魅、ちゃんと五体満足で入れた?」
落魅が頷くと、雨谷はやっぱり狗神の結界は優秀だね~と笑う。
「お茶をご用意致します。少々お待ちください」
雪華がそう言って部屋を出て行くと、雨谷が言った。
「狗神から聞いたんだけど・・・シズちんとハルちん、妖刀の所有者と会ったん
だって?」
僕と晴樹が頷くと、雨谷はヘラヘラと笑って言った。
「陽煉ってさ、オイラが妖に堕ちて初めて作った刀なんだよね~」
「は?!」
「そうなの?!」
驚いた僕と晴樹に雨谷はケラケラと笑う。
「もうね、正直言うと恨みめっちゃ込めて作っちゃったやつだからさあ、それを
使えてるってだけでその妖マジでヤバい奴なんだよね~」
普通の妖なら気が狂って死んでると思うよ~?なんて言ってヘラヘラと笑う
雨谷に、開いた口が塞がらない。
雪華がお茶を持ってくるまでフリーズしていた僕と晴樹を、落魅は馬鹿にする
ように笑うのだった。
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