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実習編
龍狗
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―――八仙と出会ったあの日から時は経ち、学校は夏休みに入った。
実習も休みということで、僕と晴樹は実家へ戻り二人でのんびりと過ごす。
そんなある日の朝、朝食の片付けをしていると扉をノックする音が聞こえた。
「やあやあ、お邪魔するよ!」
玄関先から雷羅の声が聞こえ、僕は洗い物の手を止めて玄関へ向かう。
玄関の扉を開けると、そこには狗神の首根っこを掴んだ雷羅がニコニコと笑い
ながら立っていた。
「あれ、雷羅さんと狗神さんだ」
居間からひょっこりと顔を出した晴樹が、玄関にやって来る。
「案内はしたじゃろう、ワシは帰って寝るんじゃー!」
そう言いながら狗神がジタバタとするが雷羅は狗神を離すつもりがないようで、
狗神を見てニッコリと笑うと言った。
「わんこ~・・・昨日の悪戯、ぼくまだ許してないんだけど」
狗神はビクリと肩を震わせると、動きを止める。
一体何をしたんだ・・・。そう思っていると、雷羅が僕と晴樹を見て言った。
「君達にちょっと聞きたいことがあってね。今大丈夫かい?」
「えっと・・・少し待っててください」
僕がそう言うと、晴樹が中に入って待っててと言って雷羅と狗神を居間へ通した。
―――急いで洗い物を済ませ居間に戻ると、雷羅が言った。
「・・・狗神から聞いたんだけど。君達、鬼と戦ったんだって?」
僕と晴樹が頷くと、雷羅はどんな奴?と聞いてきた。
僕が八仙と妖刀の話をすると、狗神が言った。
「誠から聞いた話と大方同じじゃな。やはり八仙は、あの八仙か・・・」
難しい顔をする狗神に、僕と晴樹は首を傾げる。すると雷羅が言った。
「実はぼく達、君達が戦った八仙と会ったことがあってね。あいつ、自分の質問に
答えなかった奴全員殺しててさあ。いやはや、おっかない奴だったんだよね~」
「逆に何でお主らが生きておるのか不思議でならんかったんじゃ。・・・もしや、
八仙に気に入られたか?」
「・・・多分、八仙が気に入ったのは静兄だけだと思う。僕はついでに逃がされた
感じ」
狗神の言葉に晴樹が言うと、雷羅と狗神は驚いた顔をして僕を見る。
僕が八仙との戦いの話をすると、狗神は溜息を吐いた。
「・・・良かったの、雨谷と約束しておいて。引かなきゃ確実に死んでいたぞ」
狗神の言葉に僕は苦笑いを浮かべる。そしてふと思い出し、狗神に聞いた。
「なあ狗神。八仙だけじゃなく、九尾の狐や兎の中妖怪にも言われたんだけど・・・
僕って、そんなに美味しそうな匂いがするのか?」
狗神は目を見開いて僕を見る。そして、不気味な笑みを浮かべて言った。
「そうじゃな、山霧との約束がなければ食っているくらいには良い匂いじゃよ。
・・・まあ、お主の匂いを美味しそうなんて言う妖は皆、人間を食ったことのある
奴らじゃろうがな」
晴樹が僕の袖をぎゅっと掴む。雷羅は溜息を吐くと、狗神に言った。
「狗神、人間ってそんなに美味しいものなのかい?」
狗神は少し悩んだ後、呟くように言った。
「・・・稲荷んとこの油揚げの方が美味い」
―――狗神が言うには、美味しそうな匂いをさせている人間の大半は妖が見える
異能力者らしい。ただどうも僕は晴樹や父さんと比べて段違いに良い匂いらしく、
そういう体質なんだろうと言われた。
納得はできないが、妖の感覚は僕には分からない。
だから僕は、そういうものなのかで済ませることにした。
「・・・さて、ぼく達は帰るよ。お邪魔したね」
雷羅がそう言って立ち上がると、狗神もそれに続くように立ち上がる。
玄関まで見送ると、狗神が言った。
「山霧の、雨谷がまた遊びに来いと言っておったぞ。雪華も会いたいそうじゃ」
狗神と雷羅が空を飛び姿を消した後、晴樹がぽつりと呟いた。
「・・・あの料理、また食べさせてくれるかな」
「特に予定もないし、明日にでも頼んで連れて行ってもらうか!」
僕がそう言うと、晴樹は嬉しそうに頷く。
時計を見ると思ったよりも時間が経っていたらしく、昼前だった。
「晴樹、昼ご飯何が良い?」
「うーん・・・じゃあ、オムライス」
「それなら卵買ってこなきゃだな。一緒に行くか?」
「うん、行く」
僕と晴樹は財布を持ってスーパーへ向かう。
道中で高田に会ったり、行った先で赤芽が働いていたりと色々あった。
晴樹と二人で作ったオムライスはとても美味しく、二人で笑い合うのだった。
実習も休みということで、僕と晴樹は実家へ戻り二人でのんびりと過ごす。
そんなある日の朝、朝食の片付けをしていると扉をノックする音が聞こえた。
「やあやあ、お邪魔するよ!」
玄関先から雷羅の声が聞こえ、僕は洗い物の手を止めて玄関へ向かう。
玄関の扉を開けると、そこには狗神の首根っこを掴んだ雷羅がニコニコと笑い
ながら立っていた。
「あれ、雷羅さんと狗神さんだ」
居間からひょっこりと顔を出した晴樹が、玄関にやって来る。
「案内はしたじゃろう、ワシは帰って寝るんじゃー!」
そう言いながら狗神がジタバタとするが雷羅は狗神を離すつもりがないようで、
狗神を見てニッコリと笑うと言った。
「わんこ~・・・昨日の悪戯、ぼくまだ許してないんだけど」
狗神はビクリと肩を震わせると、動きを止める。
一体何をしたんだ・・・。そう思っていると、雷羅が僕と晴樹を見て言った。
「君達にちょっと聞きたいことがあってね。今大丈夫かい?」
「えっと・・・少し待っててください」
僕がそう言うと、晴樹が中に入って待っててと言って雷羅と狗神を居間へ通した。
―――急いで洗い物を済ませ居間に戻ると、雷羅が言った。
「・・・狗神から聞いたんだけど。君達、鬼と戦ったんだって?」
僕と晴樹が頷くと、雷羅はどんな奴?と聞いてきた。
僕が八仙と妖刀の話をすると、狗神が言った。
「誠から聞いた話と大方同じじゃな。やはり八仙は、あの八仙か・・・」
難しい顔をする狗神に、僕と晴樹は首を傾げる。すると雷羅が言った。
「実はぼく達、君達が戦った八仙と会ったことがあってね。あいつ、自分の質問に
答えなかった奴全員殺しててさあ。いやはや、おっかない奴だったんだよね~」
「逆に何でお主らが生きておるのか不思議でならんかったんじゃ。・・・もしや、
八仙に気に入られたか?」
「・・・多分、八仙が気に入ったのは静兄だけだと思う。僕はついでに逃がされた
感じ」
狗神の言葉に晴樹が言うと、雷羅と狗神は驚いた顔をして僕を見る。
僕が八仙との戦いの話をすると、狗神は溜息を吐いた。
「・・・良かったの、雨谷と約束しておいて。引かなきゃ確実に死んでいたぞ」
狗神の言葉に僕は苦笑いを浮かべる。そしてふと思い出し、狗神に聞いた。
「なあ狗神。八仙だけじゃなく、九尾の狐や兎の中妖怪にも言われたんだけど・・・
僕って、そんなに美味しそうな匂いがするのか?」
狗神は目を見開いて僕を見る。そして、不気味な笑みを浮かべて言った。
「そうじゃな、山霧との約束がなければ食っているくらいには良い匂いじゃよ。
・・・まあ、お主の匂いを美味しそうなんて言う妖は皆、人間を食ったことのある
奴らじゃろうがな」
晴樹が僕の袖をぎゅっと掴む。雷羅は溜息を吐くと、狗神に言った。
「狗神、人間ってそんなに美味しいものなのかい?」
狗神は少し悩んだ後、呟くように言った。
「・・・稲荷んとこの油揚げの方が美味い」
―――狗神が言うには、美味しそうな匂いをさせている人間の大半は妖が見える
異能力者らしい。ただどうも僕は晴樹や父さんと比べて段違いに良い匂いらしく、
そういう体質なんだろうと言われた。
納得はできないが、妖の感覚は僕には分からない。
だから僕は、そういうものなのかで済ませることにした。
「・・・さて、ぼく達は帰るよ。お邪魔したね」
雷羅がそう言って立ち上がると、狗神もそれに続くように立ち上がる。
玄関まで見送ると、狗神が言った。
「山霧の、雨谷がまた遊びに来いと言っておったぞ。雪華も会いたいそうじゃ」
狗神と雷羅が空を飛び姿を消した後、晴樹がぽつりと呟いた。
「・・・あの料理、また食べさせてくれるかな」
「特に予定もないし、明日にでも頼んで連れて行ってもらうか!」
僕がそう言うと、晴樹は嬉しそうに頷く。
時計を見ると思ったよりも時間が経っていたらしく、昼前だった。
「晴樹、昼ご飯何が良い?」
「うーん・・・じゃあ、オムライス」
「それなら卵買ってこなきゃだな。一緒に行くか?」
「うん、行く」
僕と晴樹は財布を持ってスーパーへ向かう。
道中で高田に会ったり、行った先で赤芽が働いていたりと色々あった。
晴樹と二人で作ったオムライスはとても美味しく、二人で笑い合うのだった。
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