異能力と妖と

彩茸

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実習編

交渉

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 ―――サソリのハサミを引き摺って歩く麗奈さんの後ろを付いて歩く。
 最初に集合した場所に戻って来ると、麗奈さんは足を止めて僕達を見た。

「・・・さて、ここからは大人の話だ。多分学校じゃ習わないから、君達に教えて
 あげよう」

 麗奈さんの言葉に僕達は首を傾げる。すると、晃さんが言った。

「俺達みたいなフリーランスの祓い屋は、妖を倒した報酬金で生活してるんだ」

「報酬金?」

 和正がそう言うと、晃さんは頷く。

「国や自治体、会社、それとたまに個人からも依頼を受けてね。・・・簡単に
 言えば、妖を倒せばお金が貰えるって感じかな」

「あたし達にも生活がある。だから、ときには殺したくない妖でも殺さなきゃいけ
 なかったりもするんだよ。・・・まあ、あたしやアッキーみたいなフリーランス
 上位の人達は、まだ依頼を選べる方なんだけどね」

 実力主義なんだよ、この世界。そう言った麗奈さんに、晃さんはそうなんだよねと
 困った顔をして頷いた。

「報酬金、僕達は貰ってないんですけど・・・」

 そう言った晴樹に、麗奈さんは笑う。

「そりゃあね、君達月陰学園の生徒だもん。報酬金は全部、あそこの経営費に回って
 るよ」

 学費払わなくて良い時点でおかしいと思わなかった?麗奈さんにそう言われた
 晴樹は、言われてみれば・・・と呟いた。

「そういや静也と晴樹って、普段使ってるお金どうやって手に入れてるんだ?」

 和正がそう言って僕と晴樹を見たので、僕は言った。

「天狗さんが、たまにお小遣いくれるから・・・。和正こそどうしてるんだよ」

「俺は・・・その・・・」

 言い淀む和正に首を傾げる。和正は晃さんをちらりと見ると、まあいっかと呟いて
 言った。

「俺、10歳の時に保護施設経由で学園に保護されてさ。二年くらいしか保護学級には
 いなかったんだけど、未だにお小遣いくれるんだよな」

 もしかしたら清水家のお金かもと笑う和正に、晃さんは少し悲しそうな顔をする。

「まあ、卒業してしまえば保護学級からの資金援助もなくなるからね。実践授業の時
 みたいな討伐証明を依頼主にして、貰ったお金を倒した人達で分けているんだよ」

 麗奈さんはそう言うと、晃さんを見る。

「ってことでアッキー、今回の取り分は半分にする?それとも発見分を合わせて
 ちょっと足す?」

「そりゃ多めに貰えるなら貰いたいですけど・・・先輩、この前の損害賠償の件
 大丈夫なんですか?」

「え?あー・・・まあ、何とか・・・?」

 麗奈さんの言葉に晃さんは溜息を吐く。
 苦笑いを浮かべる麗奈さんに、僕は聞いた。

「損害賠償って・・・何したんですか?」

「これ、他の人には黙っててね?」

 麗奈さんはそう言うと、僕達に小声で言った。

「・・・実は、妖討伐の最中に勢い余って建物の窓割っちゃってね。防弾ガラス
 だったらしくて、結構お高く付いたんだよね・・・」

 ・・・防弾ガラスって、勢いで割れるものなのか。
 唖然としている僕達に麗奈さんが苦笑いを浮かべると、晃さんが苦笑しながら
 言った。

「先輩、怪力だから・・・」



―――麗奈さんと晃さんの取り分の交渉が終わり、今日はここまでと言われる。
二人に別れを告げ寮へ戻る途中、和正に聞いた。

「なあ和正、いつの間に晃さんと仲良くなってたんだ?」

 答えたくないなら別に良いんだけど。そう付け加えた僕に、和正は言った。

「夏休み下旬にあの家に遊びに行ってさ。照真にまた来てねって言われちゃって、
 休日とか春休み利用して何度か行ってたんだよ。そしたらいつの間にか、な」

「・・・お母さんとは?」

 晴樹がそう言うと、和正は立ち止まる。
 慌てて晴樹がごめんと言おうとすると、和正は俯き小さな声で呟くように言った。

「・・・正直、まだ怖いんだ。ふとした拍子に、あの頃のこと思い出しちゃってさ」

「・・・・・・」

 僕と晴樹は無言で和正の腕を片方ずつ掴む。そのまま二人で和正を引き摺るように
 歩き、困惑した顔で僕達を見る和正に言った。

「帰るぞ。夕飯おごってやるよ」

「ごめん、配慮が足りなかった。後でこの前言ってたドリンク作ってあげる」

 僕と晴樹の言葉に、和正は困ったように微笑む。

「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

 そう言って笑った和正に、僕と晴樹は優しく笑うのだった。
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