異能力と妖と

彩茸

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妖刀編

復讐

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―――狐の尻尾が届くまで、とても長い時間のように感じられた。
刀で尻尾を受け流し、そのまま斬る。

「なっ・・・?!」

 狐が驚いた顔をする。

「ははっ」

 笑みが零れる。狐の尻尾が襲い掛かるが、全て避け、斬る。
 ・・・ああ、そうだ、この感覚だ。

「あっはははは!」

 赤く染まった尻尾を揺らめかせ、狐はを睨みつける。
 俺は狐の目を見据え、言った。

「狐ぇ、お前は俺が殺してやるよ」

 まずは尻尾。狐の背後に回り込み、尻尾を一本ずつ夜月で斬る。銃声が鳴り響く
 中、再生しようとしていた尻尾を更に斬り付ける。
 次は腕。距離を取った狐に詰め寄り、右腕目掛けて夜月を振り下ろす。狐の左腕
 から繰り出された鋭い爪の攻撃が、俺の腕に当たる。
 ・・・大丈夫、痛みは感じない。そのまま右腕を斬り落とすと同時に、後ろから
 銃声が聞こえた。

「はははっ!」

 再び襲い掛かろうとしていた尻尾が、晴樹の撃った弾によって血を吹き出す。
 ああ、楽しい。楽しい、楽しい、楽しい・・・!!

「次ぃ!!」

 自由に動く体を意のままに操り、俺は狐にどんどんダメージを与えていく。

「何故、何故じゃ!何故妾がこんな人間のガキに・・・!」

 狐が悔しそうな声で言う。
 飛び散る赤が、狐のものなのか俺のものなのかは分からない。目の前が霞んでいる
 気もしなくもないが、そんなの気にならなかった。
 ただ楽しいという感情に身を任せ、爪で足を裂かれようと尻尾で腹を抉られようと
 痛みを感じない体で斬り続ける。
 狐の顔が苦しそうなものに変わると、俺はニヤリと笑って狐の顔面目掛けて跳び
 上がった。

「何をっ・・・」

 そう言って青い顔をした狐の頬に手を当て、笑う。
 死ねよと呟いた後、俺は叫んだ。

「幻霧!!」

 霧が一瞬のうちに狐を覆う。一旦狐から距離を取ると、狐は叫び声を上げながら
 言った。

「やめよ!妾が何をしたというのじゃ!やめよ、やめ・・・うわああああ!!!!」

 頭を抱えた狐の胸に、晴樹の撃った弾が当たる。吹き出す血を全身に浴びながら、
 俺は狐の首を斬り落とした。
 断末魔を上げ、狐は塵となって消える。狐の居た場所に落ちていた石を刀で
 カツン、カツンとつついていると、誰かに腕を掴まれた。

「・・・もうやめなせえ、晴樹が泣いてやすぜ?」

 見ると、俺の腕を掴んでいるのは落魅だった。落魅の言葉に晴樹を見ると、晴樹は
 怯えた顔で涙をボロボロと流していた。

「晴樹・・・俺、勝ったよ」

 俺がそう言って笑うと、晴樹は目を見開く。そしてこちらに駆け寄ると、俺の頬を
 思いっ切り叩いた。

「いつまでそんな状態になってるんだよ!戻って来てよ、静兄・・・!!」

 晴樹の言葉にハッとする。・・・叩かれた頬が、痛い。
 俺は・・・は、泣いている晴樹を見て言葉を失う。段々と全身が痛くなって
 くる。襲ってきた吐き気に我慢できず吐き出すと、それは血だった。

「あ・・・」

 目の前が暗くなる。全身の力が抜け倒れる僕を、落魅が受け止める。

「勘弁してくだせえ。あっしだって今、目の前霞んでよく見えてねえのに・・・」

 ごめんと僕は呟いて、そのまま目を閉じた。
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