異能力と妖と

妖刀編

由来

―――雨谷に工房も含め建物内を案内される。
その途中で色々と話をしたのだが、どうやらこの建物周辺の結界はまだ雨谷が妖に
堕ちる前に張ったものらしい。
元は刀作りの神として存在していたらしく、とある人間に作った妖刀を持たせた
ところ集落が一つ壊滅したという。山霧家のことじゃないから気にしないで良いとは
言われたが、妖刀を使う身としては複雑な気分だった。

「妖に堕ちたって言ってたけど、神様の方になろうとは思わなかったの？」

「オイラが妖に堕ちたとき、丁度飢饉の真っ只中だったんだよね～。人間の信者は
　全滅するわ、妖の信者も凄く少なくなるわで、神になったら確実に消えるなと
　思ってさ～」

　晴樹の問いに雨谷はそう答えると、生きてたいじゃん？と笑う。
　それを聞いた雪華が、少し悲しそうな顔をしていた気がした。

「えーっと、一通り案内し終わったかな？」

　それから少しして、雨谷はそう言って立ち止まる。
　そして僕を見ると、僕の持っている夜月を指さして言った。

「ところでシズちん、夜月の名前の由来って知ってる？」

「知らない、けど・・・」

　僕がそう言うと、雨谷は晴樹を見る。

「ハルちんは知ってる？」

　晴樹が首を横に振ると、雨谷はそっかあと呟いて言った。

「・・・夜月ってさ、夜の月って書くじゃん？その刀が完成したの、丁度皆既月食の
　日だったんだよ。あの頃は月食なんて忌むべきものでさ、月が赤くなるってのも
　あって相当気味悪がられてたんだよね～」

　それでね？と雨谷は言葉を続ける。

「美しかったものが赤く染まり、忌み嫌われる。・・・それって、妖刀にぴったり
　だと思わない？」

　雨谷がニヤリと笑う。僕は夜月の柄をそっと撫でると、呟くように言った。

「・・・趣味の悪い」

　雨谷はケラケラと笑う。

「まあ、山霧家の人間は基本的に妖と仲良くってスタンスだったからね～。オイラが
　思ってたよりも夜月は赤く染まらなかったし、ちょっと残念だなって！」

「妖がそんなこと言って良いの・・・？」

　雨谷の言葉に晴樹が若干引き気味になりながら聞くと、雪華が言った。

「そもそも、妖刀とは妖が人間を殺すために作り上げたものでございます。持った
　人間に不幸が襲い掛かるなどの呪いが籠められていたり、刀が意思を持ち人間の
　血を求めたりすることが殆どなのです。妖刀を用いて妖に刃を向けるというのは、
　一部の人間にしかできません。それこそ、そのような妖刀は持ち主を自らの意思で
　選びますから」

「まー、妖刀に選ばれる人間なんて、絶対何処かぶっ飛んでるんだけどね～。
　オイラが夜月を作った時の山霧家当主も相当な変わり者だったし、シズちんと
　ハルちんの身近な人で言えば、タケちんも結構ぶっ飛んでたしね～」

　シズちんは自覚ない？と雨谷は僕を見る。
　僕が首を傾げると、自覚ないパターンかな～と笑われた。