異能力と妖と

彩茸

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妖刀編

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―――次の日、天春の妖術で僕と晴樹は天狗さんの所へ向かう。
のっぺらぼうは相変わらずお堂の前を掃いており、お堂の中に入ると落魅が洗濯物を
畳んでいた。

「・・・天狗なら外出中ですぜ」

 落魅が僕達を見て言う。落魅の横に積まれている丁寧に畳まれた洗濯物を見て、
 意外と几帳面なのかもしれないと思った。

「えっと・・・静と晴は何しに来たんだっけ?」

 そう言った天春に雨谷の工房の住所らしきものが書いてあるメモを見せ、ここに
 行きたいと伝える。
 天春はメモを見ると、あれ?と首を傾げる。そして天狗さんの本が積まれている
 所から地図帳を取り出し、僕を見て言った。

「静、ちょっとメモ貸して」

 僕がメモを渡すと、天春は地図帳とメモを持って落魅の元へ向かう。

「ねえ落魅、この場所知ってるよね?」

「はあ?何ですかい突然・・・」

 天春の言葉に落魅はそう言いつつ、メモを覗き込む。そしてああ・・・と呟くと、
 天春から受け取った地図帳を開く。
 落魅はパラパラとページを捲った後、手を止めて指をさした。

「ここでさあ」

 僕と晴樹も落魅の元へ向かい、地図帳を覗き込む。落魅が指をさしている場所は、
 昨日調べた山の中だった。

「何で知ってるんだ・・・?」

 僕がそう呟くと、落魅は僕を見る。

「あっしが晴樹と出会う前に拠点にしていた所の近くでさあ。あの山にある建物
 なんてここだけですからねい」

「・・・そこ、妖が住んでなかった?千年以上生きてるようなの」

 晴樹が聞くと、落魅は少し間を開けて言った。

「・・・あの場所には近付けなかったんでさあ。明らかに大妖怪の妖気があるのに、
 妙に空気が澄んでいた。あんな場所、あっしじゃなくても妖なら誰も近付きたがり
 やせんよ」

 下手すれば踏み入っただけで死んじまう。そう呟いた落魅に、天春が意外そうな
 顔をする。

「落魅でもそんなこと考えるんだね」

「じゃあ天春は、神の張った結界の中に足を踏み入れようと思うんですかい?」

「え、絶対無理・・・。そんなことしたら、僕跡形もなく消えちゃう」

「そういうことでさあ」

 落魅はそう言って溜息を吐く。

「つまり、その場所には神様の結界があると?」

 僕の言葉に、落魅は多分あれはそうでさあと言って頷く。

「・・・というかそもそも、あんたらは何でこの場所に行きたいんですかい?」

 落魅はそう言って僕と晴樹を見る。

「多分そこ、夜月が作られた工房なんだよ。製作者に呼ばれたは良いものの、場所も
 言わずに消えてさ」

「お父さんの部屋にそのメモがあったから、行ってみようと思って」

 僕と晴樹の言葉に、落魅と天春は驚いた声を上げる。落魅が驚くなんて珍しい
 なんて思いつつ、僕は天春に言った。

「天春の妖術で連れて行ってもらおうと思ってたんだけど・・・頼めるか?」

「え、今の話聞いてた?!正気??」

「いや、山の近くまでなら大丈夫かなって。そこから歩けばいいだろ」

「・・・多分無理だと思いやすぜ」

 僕と天春の会話を聞いていた落魅が言う。どうしてと首を傾げると、落魅は
 言った。

「地図じゃあ分かりにくいが、あの山は何処を歩いても殆ど同じ景色なんでさあ。
 よっぽど歩き慣れていないと、確実に迷いますぜ」

「携帯の力で何とか・・・」

「あの山歩いてた人間、皆電波繋がらないとか言ってやしたけどね」

「ええ・・・」

 じゃあどうすると考えていると、お堂の扉が開く音がする。そちらを見ると、
 天狗さんが立っていた。
 いらっしゃいと笑顔を向ける天狗さんに挨拶すると、天狗さんはこちらに来て
 言った。

「何の話をしておるんじゃ?」

 天狗さんに先程までの話を伝える。すると、天狗さんは首を傾げて言った。

「それなら、落魅に道案内をさせれば良いじゃろう?」

「何であっしが・・・!」

 嫌そうな顔をした落魅に、天狗さんはお主詳しいんじゃろうと言う。
 言い返せない様子の落魅は、深い溜息を吐くと言った。

「行きゃあ良いんでしょ、行きゃあ・・・」

 ニコリと笑って天狗さんは頷く。そして、僕と晴樹を見て言った。

「落魅には二人の邪魔をしないよう、後でしっかりと伝えておくからの。楽しんで
 くると良い」

 落魅の前でそれを言って良いのかと思いちらりと落魅を見ると、落魅の顔が少し
 青ざめているような気がした。
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