154 / 203
妖刀編
地図
しおりを挟む
―――次の日、天春の妖術で僕と晴樹は天狗さんの所へ向かう。
のっぺらぼうは相変わらずお堂の前を掃いており、お堂の中に入ると落魅が洗濯物を
畳んでいた。
「・・・天狗なら外出中ですぜ」
落魅が僕達を見て言う。落魅の横に積まれている丁寧に畳まれた洗濯物を見て、
意外と几帳面なのかもしれないと思った。
「えっと・・・静と晴は何しに来たんだっけ?」
そう言った天春に雨谷の工房の住所らしきものが書いてあるメモを見せ、ここに
行きたいと伝える。
天春はメモを見ると、あれ?と首を傾げる。そして天狗さんの本が積まれている
所から地図帳を取り出し、僕を見て言った。
「静、ちょっとメモ貸して」
僕がメモを渡すと、天春は地図帳とメモを持って落魅の元へ向かう。
「ねえ落魅、この場所知ってるよね?」
「はあ?何ですかい突然・・・」
天春の言葉に落魅はそう言いつつ、メモを覗き込む。そしてああ・・・と呟くと、
天春から受け取った地図帳を開く。
落魅はパラパラとページを捲った後、手を止めて指をさした。
「ここでさあ」
僕と晴樹も落魅の元へ向かい、地図帳を覗き込む。落魅が指をさしている場所は、
昨日調べた山の中だった。
「何で知ってるんだ・・・?」
僕がそう呟くと、落魅は僕を見る。
「あっしが晴樹と出会う前に拠点にしていた所の近くでさあ。あの山にある建物
なんてここだけですからねい」
「・・・そこ、妖が住んでなかった?千年以上生きてるようなの」
晴樹が聞くと、落魅は少し間を開けて言った。
「・・・あの場所には近付けなかったんでさあ。明らかに大妖怪の妖気があるのに、
妙に空気が澄んでいた。あんな場所、あっしじゃなくても妖なら誰も近付きたがり
やせんよ」
下手すれば踏み入っただけで死んじまう。そう呟いた落魅に、天春が意外そうな
顔をする。
「落魅でもそんなこと考えるんだね」
「じゃあ天春は、神の張った結界の中に足を踏み入れようと思うんですかい?」
「え、絶対無理・・・。そんなことしたら、僕跡形もなく消えちゃう」
「そういうことでさあ」
落魅はそう言って溜息を吐く。
「つまり、その場所には神様の結界があると?」
僕の言葉に、落魅は多分あれはそうでさあと言って頷く。
「・・・というかそもそも、あんたらは何でこの場所に行きたいんですかい?」
落魅はそう言って僕と晴樹を見る。
「多分そこ、夜月が作られた工房なんだよ。製作者に呼ばれたは良いものの、場所も
言わずに消えてさ」
「お父さんの部屋にそのメモがあったから、行ってみようと思って」
僕と晴樹の言葉に、落魅と天春は驚いた声を上げる。落魅が驚くなんて珍しい
なんて思いつつ、僕は天春に言った。
「天春の妖術で連れて行ってもらおうと思ってたんだけど・・・頼めるか?」
「え、今の話聞いてた?!正気??」
「いや、山の近くまでなら大丈夫かなって。そこから歩けばいいだろ」
「・・・多分無理だと思いやすぜ」
僕と天春の会話を聞いていた落魅が言う。どうしてと首を傾げると、落魅は
言った。
「地図じゃあ分かりにくいが、あの山は何処を歩いても殆ど同じ景色なんでさあ。
よっぽど歩き慣れていないと、確実に迷いますぜ」
「携帯の力で何とか・・・」
「あの山歩いてた人間、皆電波繋がらないとか言ってやしたけどね」
「ええ・・・」
じゃあどうすると考えていると、お堂の扉が開く音がする。そちらを見ると、
天狗さんが立っていた。
いらっしゃいと笑顔を向ける天狗さんに挨拶すると、天狗さんはこちらに来て
言った。
「何の話をしておるんじゃ?」
天狗さんに先程までの話を伝える。すると、天狗さんは首を傾げて言った。
「それなら、落魅に道案内をさせれば良いじゃろう?」
「何であっしが・・・!」
嫌そうな顔をした落魅に、天狗さんはお主詳しいんじゃろうと言う。
言い返せない様子の落魅は、深い溜息を吐くと言った。
「行きゃあ良いんでしょ、行きゃあ・・・」
ニコリと笑って天狗さんは頷く。そして、僕と晴樹を見て言った。
「落魅には二人の邪魔をしないよう、後でしっかりと伝えておくからの。楽しんで
くると良い」
落魅の前でそれを言って良いのかと思いちらりと落魅を見ると、落魅の顔が少し
青ざめているような気がした。
のっぺらぼうは相変わらずお堂の前を掃いており、お堂の中に入ると落魅が洗濯物を
畳んでいた。
「・・・天狗なら外出中ですぜ」
落魅が僕達を見て言う。落魅の横に積まれている丁寧に畳まれた洗濯物を見て、
意外と几帳面なのかもしれないと思った。
「えっと・・・静と晴は何しに来たんだっけ?」
そう言った天春に雨谷の工房の住所らしきものが書いてあるメモを見せ、ここに
行きたいと伝える。
天春はメモを見ると、あれ?と首を傾げる。そして天狗さんの本が積まれている
所から地図帳を取り出し、僕を見て言った。
「静、ちょっとメモ貸して」
僕がメモを渡すと、天春は地図帳とメモを持って落魅の元へ向かう。
「ねえ落魅、この場所知ってるよね?」
「はあ?何ですかい突然・・・」
天春の言葉に落魅はそう言いつつ、メモを覗き込む。そしてああ・・・と呟くと、
天春から受け取った地図帳を開く。
落魅はパラパラとページを捲った後、手を止めて指をさした。
「ここでさあ」
僕と晴樹も落魅の元へ向かい、地図帳を覗き込む。落魅が指をさしている場所は、
昨日調べた山の中だった。
「何で知ってるんだ・・・?」
僕がそう呟くと、落魅は僕を見る。
「あっしが晴樹と出会う前に拠点にしていた所の近くでさあ。あの山にある建物
なんてここだけですからねい」
「・・・そこ、妖が住んでなかった?千年以上生きてるようなの」
晴樹が聞くと、落魅は少し間を開けて言った。
「・・・あの場所には近付けなかったんでさあ。明らかに大妖怪の妖気があるのに、
妙に空気が澄んでいた。あんな場所、あっしじゃなくても妖なら誰も近付きたがり
やせんよ」
下手すれば踏み入っただけで死んじまう。そう呟いた落魅に、天春が意外そうな
顔をする。
「落魅でもそんなこと考えるんだね」
「じゃあ天春は、神の張った結界の中に足を踏み入れようと思うんですかい?」
「え、絶対無理・・・。そんなことしたら、僕跡形もなく消えちゃう」
「そういうことでさあ」
落魅はそう言って溜息を吐く。
「つまり、その場所には神様の結界があると?」
僕の言葉に、落魅は多分あれはそうでさあと言って頷く。
「・・・というかそもそも、あんたらは何でこの場所に行きたいんですかい?」
落魅はそう言って僕と晴樹を見る。
「多分そこ、夜月が作られた工房なんだよ。製作者に呼ばれたは良いものの、場所も
言わずに消えてさ」
「お父さんの部屋にそのメモがあったから、行ってみようと思って」
僕と晴樹の言葉に、落魅と天春は驚いた声を上げる。落魅が驚くなんて珍しい
なんて思いつつ、僕は天春に言った。
「天春の妖術で連れて行ってもらおうと思ってたんだけど・・・頼めるか?」
「え、今の話聞いてた?!正気??」
「いや、山の近くまでなら大丈夫かなって。そこから歩けばいいだろ」
「・・・多分無理だと思いやすぜ」
僕と天春の会話を聞いていた落魅が言う。どうしてと首を傾げると、落魅は
言った。
「地図じゃあ分かりにくいが、あの山は何処を歩いても殆ど同じ景色なんでさあ。
よっぽど歩き慣れていないと、確実に迷いますぜ」
「携帯の力で何とか・・・」
「あの山歩いてた人間、皆電波繋がらないとか言ってやしたけどね」
「ええ・・・」
じゃあどうすると考えていると、お堂の扉が開く音がする。そちらを見ると、
天狗さんが立っていた。
いらっしゃいと笑顔を向ける天狗さんに挨拶すると、天狗さんはこちらに来て
言った。
「何の話をしておるんじゃ?」
天狗さんに先程までの話を伝える。すると、天狗さんは首を傾げて言った。
「それなら、落魅に道案内をさせれば良いじゃろう?」
「何であっしが・・・!」
嫌そうな顔をした落魅に、天狗さんはお主詳しいんじゃろうと言う。
言い返せない様子の落魅は、深い溜息を吐くと言った。
「行きゃあ良いんでしょ、行きゃあ・・・」
ニコリと笑って天狗さんは頷く。そして、僕と晴樹を見て言った。
「落魅には二人の邪魔をしないよう、後でしっかりと伝えておくからの。楽しんで
くると良い」
落魅の前でそれを言って良いのかと思いちらりと落魅を見ると、落魅の顔が少し
青ざめているような気がした。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました
mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。
なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。
不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇
感想、ご指摘もありがとうございます。
なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。
読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。
お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。
大嫌いな聖女候補があまりにも無能なせいで、闇属性の私が聖女と呼ばれるようになりました。
井藤 美樹
ファンタジー
たぶん、私は異世界転生をしたんだと思う。
うっすらと覚えているのは、魔法の代わりに科学が支配する平和な世界で生きていたこと。あとは、オタクじゃないけど陰キャで、性別は女だったことぐらいかな。確か……アキって呼ばれていたのも覚えている。特に役立ちそうなことは覚えてないわね。
そんな私が転生したのは、科学の代わりに魔法が主流の世界。魔力の有無と量で一生が決まる無慈悲な世界だった。
そして、魔物や野盗、人攫いや奴隷が普通にいる世界だったの。この世界は、常に危険に満ちている。死と隣り合わせの世界なのだから。
そんな世界に、私は生まれたの。
ゲンジュール聖王国、ゲンジュ公爵家の長女アルキアとしてね。
ただ……私は公爵令嬢としては生きていない。
魔族と同じ赤い瞳をしているからと、生まれた瞬間両親にポイッと捨てられたから。でも、全然平気。私には親代わりの乳母と兄代わりの息子が一緒だから。
この理不尽な世界、生き抜いてみせる。
そう決意した瞬間、捨てられた少女の下剋上が始まった!!
それはやがて、ゲンジュール聖王国を大きく巻き込んでいくことになる――
逆行聖女は剣を取る
渡琉兎
ファンタジー
聖女として育てられたアリシアは、国が魔獣に蹂躙されて悲運な死を遂げた。
死ぬ間際、アリシアは本当の自分をひた隠しにして聖女として生きてきた人生を悔やみ、来世では自分らしく生きることを密かに誓う。
しかし、目を覚ますとそこは懐かしい天井で、自分が過去に戻ってきたことを知る。
自分らしく生きると誓ったアリシアだったが、これから起こる最悪の悲劇を防ぐにはどうするべきかを考え、自らが剣を取って最前線に立つべきだと考えた。
未来に起こる悲劇を防ぐにはどうするべきか考えたアリシアは、後方からではなく自らも最前線に立ち、魔獣と戦った仲間を癒す必要があると考え、父親にせがみ剣を学び、女の子らしいことをせずに育っていき、一五歳になる年で聖女の神託を右手の甲に与えられる。
同じ運命を辿ることになるのか、はたまた自らの力で未来を切り開くことができるのか。
聖女アリシアの二度目の人生が、今から始まる。
※アルファポリス・カクヨム・小説家になろうで投稿しています。
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
異世界召喚された俺は余分な子でした
KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。
サブタイトル
〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜
異世界でスローライフを満喫
美鈴
ファンタジー
ホットランキング一位本当にありがとうございます!
【※毎日18時更新中】
タイトル通り異世界に行った主人公が異世界でスローライフを満喫…。出来たらいいなというお話です!
※カクヨム様にも投稿しております
※イラストはAIアートイラストを使用
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる